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14 - あとがき

この短い連載が終了した三日後、大切な友人の訃報が入ってきました。

半年前に癌がみつかって、頑張って辛い治療を行っていることは知っていたものの。まさかこんなに早くにお別れの日が来てしまうなんて、全く予想していませんでした。

最後に彼に会ったのは、去年の秋口に共通の友人との夕食に招かれた時でした。そしてその数ヶ月後には世の中も彼の状況もすっかり変化し、おいそれと会うことができなくなってしまいました。短いメールのやりとりしかできないもどかしさの中、治療もコロナもひと段落したら夫と二人で顔を見せに行こう、なんて話していた矢先のことでした。忙しさにかまけていた自分たちを悔やみながら、彼のことを思い出しては泣く日々が続きました。


暑さが盛りのある日、マンハッタンのハドソンリバー沿いにある埠頭で、彼のお別れ会が催されることになりました。親しい友人が集まって、思い出話をしながら一緒に彼を忍ぶ、というものです。

当日の朝、カメラマンをしている私の旦那さんが、急遽暗室に籠もってなにやら作業をしていました。部屋から出てきた彼が手にしていたのは、亡くなった友人とその奥さんのツーショット写真でした。奥さんに渡そうと用意されたその写真の中の彼は、本当に幸せそうで、ひと目見ただけで涙が止まらなくなるくらい、愛に溢れていました。

その写真を手にマンハッタンの埠頭に到着すると、既に何人もの人が集まっていました。友人でもある奥さんに挨拶をすると、あそこに彼の写真が飾ってあるから、是非見てあげて、と埠頭の先端に案内されました。

何枚も用意された写真の中に、先ほど旦那さんがプリントした写真と同じものが、ひときわ大きく飾られているではないですか。生前に二人に向けてプレゼントしていたことをすっかり忘れてまた用意してしまった旦那さんに、思わず笑いが込み上げて、でもその写真を目にして涙も込み上げてきてしまいました。

周りには彼の古くからの友人や、一緒に仕事をした同僚の方といった沢山の人が集まっていました。サンサンと太陽が照りつける中、幾人かが順番にお別れの言葉を述べて、そこにいた全員で静かに、でも陽気に彼にお別れを告げました。

帰宅した旦那さんが、ポツリと
「こういうお別れの儀式っていうのは、必要なんだよ。じゃないと、彼が亡くなったことを認識しきれないまま、過ごすことになる。」と呟きました。

その言葉を聞きながら、私はチョコと千華さんの教えてくれたことを思い出していました。この地球での彼の命は終わりを告げたけれど、きっと今頃、新たな次の生命に向けて会議を開いているに違いない。私たちを含め、沢山の人を暖かく見守ってくれた彼だったから、きっと次の人生プランはまた素敵なものを選べるに決まっている。

私はここ数年の短い間のお付き合いだったけれど、彼の人柄に魅了された一人でした。もしかしたら、また来世で出会えるかもしれない。そう思えたことで、辛かった気持ちがふーっと少しずつ、溶かされていくようでした。

私の人生も折り返し地点を過ぎ、これからはこういった別れのシーンが増えていくことでしょう。その度に、故人に想いを馳せる度に、私は来世での出会いを期待することでしょう。過去は今に繋がり、今は未来に繋がっていく。今生で出会えたことに深く感謝しながら、また会えることを心から願うばかりです。


ありがとうSteve、

いつか、また逢う日まで。

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