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サード・プレイス・居酒屋爆誕 ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(5)

前回からの続きです。

初めて入った自宅近所の居酒屋のテーブル席で、ひとり晩酌を楽しもうとしていたところ、店のおばさんに「一人なら、こっちのカウンターに来たら?」と声をかけてもらいました。カウンターには他に、常連らしきおじさんがボトルを飲んでいます。

ここでひとり飲み大好き人間であれば、「いえ結構です」と断って、そのままひとり酒を楽しんだかもしれません。しかし元来、居酒屋でのたわいないおしゃべりも大好きな僕。職場では家族持ちも多く、なかなか飲みに行ってだべるような機会が少なかったこともあって、お言葉に甘えてカウンターに移ることにしました。

カウンター席に座るなり、隣のおじさんに「ナイチャーね?」と声をかけられました。よくみると、顔はアインシュタイン(お笑い芸人ではなく物理学者の方です)にちょっと似て、髭がダンディです。沖縄ファッションの定番、かりゆしを羽織っています。

ナイチャーとは内地人、すなわち沖縄県外の日本人を指すということは知っていました。「そうです。転勤で来ました」と答えると、今度はおばさんに「ここらへんで内地の人が転勤で来るってことは、Jパワーか自衛隊の人?」と尋ねられました。

Jパワーとは電源開発株式会社の通称。石川には石炭火力発電所を有しており、その煙突は石川のシンボルです(※この記事のヘッダー画像が、高台から見た石川の風景で、遠くに煙突が見えます)。逆にいえば内地の人の「沖縄の海」イメージとの最大のギャップでもありますが。毎週末の夜には美しくエメラルド色にライトアップされており、工場萌えにはたまらない景観になります。関係者は転勤族も地元の人も、石川近隣に暮らしていることが多いようです。

一方、石川に自衛隊関連施設はないのですが、沖縄本島中部にはいくつか施設があるので、その関係者も住むことがあるのかもしれません。僕の場合はそのどちらでもなかったものの、ナイチャーでも気さくに声をかけてくれる沖縄県人の人懐っこさのおかげで、その後も雑談に花が咲きました。

常連のおじさん(仮名でツトムさんとしておきます)は、石川の北に隣接する金武町で、建設関係の会社を経営している社長さん。僕と同い年の息子さんがいて、一緒に働いているそうです。店のおばさん(他の常連さんが「ママ」と呼ぶのに倣って「お母さん」と呼ぶようになりました)の方は、息子さん(キッチンにいた男性)と二人でこの店を営んでいるとのことでした。

お母さん曰く、ちょうど僕の移住と入れ替わりくらいのタイミングで、内地から転勤で来て、店に顔を出していた若い男性が、沖縄に馴染めず1年経たずに職場を辞めて内地に帰ってしまったとのことで気にかけてくれ、最後は「あなたも気軽にまたおいで〜」と温かい声をかけてもらって、お店を出ました。

居心地の良さにすっかり魅了された僕は、それからこの居酒屋で、夕食代わりに晩酌をするようになります。お母さんと世間話をしたり、お店でつけっぱなしのテレビをぼーっと眺めたり、お店に置いてある沖縄タイムスを読んだり。ツトムさんや他の常連さん(大体皆、一人で来てカウンターに陣取ります)とカウンターで一緒になるときは、お互いの近況を話したりもしました。

職場や学校とは別で、自宅とも別の、居心地のいい場所のことを「サード・プレイス」と呼ぶことがあるそうですが、僕にとってこの居酒屋は、まさにサード・プレイスとして沖縄生活序盤の精神安定を助けてくれました。

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