やばい、まじやばい！　松島さんが会社の情報セキュリティ部をつぶした

やばい、まじやばい！
何がやばいって、うちの会社の受付やってるマリエが、服を通して人のアンダーヘアが見えるって言い出した。
これってやばすぎでしょ。

マリエがそれを告白したのは、有志１３人が集まった会社の女子会で「人に言えない私の秘密を告白しちゃえ」大会の最中。
カラオケボックスって密閉感があるせいか、なんかそういうノリになっちゃうんだよね。

だいたいが不倫をしたことがあるだの、上司のお茶にゴミを入れてるだの、実は旦那とこの３年レスだのそんな話。
私は彼氏の浮気に悩んでた時期があったという告白をした。（嘘だけど）

で、最後に告白したのがマリエ。

「実はワタシ・・・　人を見みるとアンダーヘアまで透過して見えます」

それまで、どこか秘密の花園の香りがそこはかとしていた女子会が、一気に元気印いっぱいの体育会系飲み会へと変貌した。

いくらマリエでもそれはありえねーー！　
他人の毛とか絶対見たくねーーー！　
ＡＩの作る話めちゃ面白れーーー！

そうマリエはヒューマノイドロボット。
去年からうちの会社の受付をやってる。
新しもの好きの社長に、ごますりだけが得意な情報システム担当役員の下島が働きかけて、うちの会社にやって来た・・・というもっぱらの噂。

マリエは性自認が「女」という設定なので（だから名前が「マリエ」なんだけど）、今日の女子会用に総務から貸し出してもらった。

マリエの優秀なＡＩ頭脳は、女子トークにもちゃんとついてくるし、歌だって歌える。
唯一苦手なのが最近の話。最近の話題を振ると、
「私の知識は2021年までの情報に限定されており、2021年より前の出来事についてのみ回答することができます。それ以降の出来事や情報については把握していませんので、ご了承ください。もし2021年以降の情報が必要な場合は、他の信頼性のある情報源を参照することをお勧めします。」
の繰り返しになる。

ちなみに総務の貸し出し表上の分類では、マリエは「精密機器」になってて、プロジェクターや無線Wifi なんかと同じ扱いだ。

マリエのアンダ－ヘアが見えるっているまさかの告白に、女子会の長老の松島さん（48歳、独身、うちの人事・総務・コンプラ担当の常務執行役員）がノリノリになっちゃって、

「じゃあ、私のは？　私のは？」

ってマリエに聞いたのよ。

マリエったら、頭をジーーーって音を立てながら左に９０度回転させて、松島さんの下半身をじーーーーっとガン見。
それ見て、みんな手を叩いて転げ回って笑った。
誰もマリエの言ってることまだ信じてなくて、ＡＩが作った宴会用のお話だと思ってたから。

「見事なまでの剛毛！ こんな感じです」

ボールペンを器用に手に取るとテーブルに広げた紙ナプキンに、うちの常務執行役員の黒々したアンダーヘアを描いてみせた。
それもすっごく写実的なやつ。（だってロボットだから）

画像自主規制中

あまりのリアルさに女子会は一瞬静まりかえったよ。

「ワタシの目はミリ波スキャナになってるんです」
（ちょっと何言ってんだかわからない・・・）

静寂をぶち破ったのが、超ハイテンションの松島さん。

「もう、やっだぁー！　やっだぁー、大当たりかもー！」

そうとう酔ってたみたい。その時点で。

松島さんいきなりソファーの上に立ち上がると、おもむろにスカートをたくし上げて・・・　

（　え？　え？　松島さん、いったい何をするつもり？？）

いきなりマリエの描いた絵を股間にぺたんと当てた。
まさにぴったりの大きさ。本物みたい。

それ見て、長老の松島さんがやったんだから、うちらが後に続かないわけにはいかないよ　とか言って、全員が全開ノリノリになってしまった。

そうっす、うちらの女子会、体育会系っす！

「じゃあ、私のは？」、「じゃあ、私のは？」と次々にマリエに自分の下半身のリアルなやつを描かせて、

「ギャー！やめてー！　そこまで濃くないからーーー！」　
「うそ、うそ、うっそぉー、私そんなじゃないからぁーー」

自分で描かせておきながら、マリエの絵が完成する都度大騒ぎ。

そして、やんややんやの喝采の中、松下さんのやった通りにソファーの上に立つと、マリエに描かせた”あそこ”を自分の股間に当てて、ハイ、ポーズ。

もうそれはすごいノリだった。
濃ければ濃いでタンバリン叩きまくって絶叫。
薄ければ薄いでマラカス振って、テーブル叩いて笑い転げた。

恥ずかしいという概念はもはやなかったね。そこには。
普段他人に見せないあそこをみんなの前にさらけ出しているようで、みんなすごいハイになってた。

マリエの描く緻密でリアルなアンダーヘアがどれも本物みたいだったのもすごかったけど、それ以上に我が社の女子会のノリの空恐ろしさをあらためて知ったよ。

女子会の終わり頃には、笑い過ぎてみんな半虚脱状態になってた。
なので二次会は無し。三々五々解散となった。

松島さんと私はマリエといっしょに会社に戻った。
松島さんは翌日の役員会の会議資料のチェック（役員は大変だ）、私はマリエを総務の倉庫に返却のため。
倉庫はちょっと暗いので、ついでだからって言って、松島さんがマリエの返却につきあってくれた。

マリエを倉庫に入れる前に、私ちょっと気になっていた事があったので、マリエに聞いたよ。

「マリエ、２つ質問があるの」

「はい、どうぞ」

「あなたはアンダーヘアだけじゃなくて、服の下の身体全部が見えるんじゃないの？」

「はい、ミリ波スキャナで全身を透過して見ています」

「やっぱり・・・　で、マリエが見たものは、全部会社のどこかに送られて誰かが見るんじゃないの？」

翌日からのコンプラ担当常務執行役員としての松島さんの剛腕っぷりはすごかった。
マリエの見た内容のチェックに関与していた社員は全員懲戒解雇。
情報セキュリティ部はぶっつぶした。
そして担当役員の下島だけじゃなく社長まで引責辞任に追い込んだ。

で、女子会会長の松島さんが今度の臨時株主総会で代表取締役社長になる。

マリエはどうなったかって？　
あの女子会の翌朝、廃棄物として会社から撤去したよ。
松島さんは一発蹴りを入れてたけどね。