映画『ちょっと思い出しただけ』でちょっと思い出したこと
『ちょっと思い出しただけ』、通称・ちょい思を観た。観終わって、もう一回観たいなーと思った。
以前私がうるせーくらいに連呼していた『くれなずめ』の松居大悟監督の最新作。監督のコメントが可愛いので見て。
劇中はまあエモい場面がたくさん出てくる。パンフも激エモ写真がたくさん載っている。観ながら花束のことも愛がなんだのことも頭を過った。でも何となくギリギリで溢れない感、『くれなずめ』と同じひとの作品だった。
『くれなずめ』はアラサーの仲良し(腐れ縁)6人組がわちゃわちゃしながら、笑ったり泣いたり思い出したり踊ったり心臓投げたりする映画だったが、今度はどストレートな恋愛映画である。似てはいないはず。でも『ちょい思』も笑ったり泣いたり思い出したり踊ったりする。心臓は投げない。過去に蹴りをつけたりはっきりさせたりしない。そのまま。
現在を起点に、照生と葉、ふたりの終わった恋をちょっと思い出す。ちょっとどころかすっごい思い出すし引きずるし、未練たらたらじゃん。でも思い出した"だけ"なのがいいなあと思う。
過去はなくならないし、そのとき自分が感じた楽しさや悲しみはその時点で本物だし、たしかに存在したものだ。だけどやっぱり時間は進むし、自分も歳をとって夢を叶えたり終わらせたり、生活はつづいていく。戻れないあの頃を引きずりながらみんな生きている。
あの頃、楽しかったなあ。ごちゃごちゃした部屋のちっちゃいソファに並んで座ってケーキ食べてるみたいな、そんなにご飯の美味しくない居酒屋で対して面白くもない話を延々聞かされる合コンとか、そういうの。そういうのをたまに思い出して、あーキラキラしてたなあ、若かったなあ、つまんなかったけど楽しかったなあ、戻れないんだなあって実感して、マスク生活っていつ終わるのかなあ、でも花粉症だから外したくないなあ、みたいなことをぐだぐだ考えて。
別に、思い出すくらいいいじゃんね。そうやって思い出しながらもみんなマスクの下で息してるんだから。女の恋は上書き保存って言うけど、別に、そんなことないし。上書き保存って言ったって、ちょっとは残ってるし。人間だからさ、0か1かじゃ書き表せないものがたくさんある。0と1の間のものとか、0と1の範囲からはみ出しちゃったものとか、そういうところが"エモい"んじゃないのかな。誰にだってそういう、ちょっと思い出したい恋のひとつやふたつ、
ないよ。
おかしいな。みんな経験あるの? あんな洒落た雑貨に囲まれた部屋に住む男と付き合ったこともなければ道端で踊り出したこともないよ。いい感じに別れ話したこともないし、あんなドラマチックな告白したこともされたこともない。なのになんで"分かるわー"って思っちゃうんだろうな。池松壮亮と伊藤沙莉があまりにも自然にカップルすぎたし、國村隼と成田凌のいるバーに行きたいし、高岡早紀はどうしてあんなに綺麗なの?
悔しいな。なんか悔しい。悔しいけどパンフレットも買った。
(まあでも、私にそんな恋の思い出がなくても、いつか見たドラマとか映画とかのあの人や、いつか読んだ本のその人の恋の思い出かもしれないから、分かるんだろうな。とそっと追記しておく。)
そういうわけで、思い出したい恋がある人にもない人にもおすすめの映画です。
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