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初めて化粧をして泣いていた私がコスメ好きになるまで

初めて化粧をした日のことを覚えているだろうか。

あの日、私が抱いた感情は「悲しみ」だった。

私が初めてコスメを手に取ったのは高校卒業直前だった。受験が終わって、友達と遊びに行く機会も増えた。おしゃれなものが大好きな友達は目元にかわいいラメのアイシャドウを載せていて私も真似をしてみたくなった。

キャンメイクだったかセザンヌだったか、もう忘れてしまったけれどドラッグストアで購入したパウダーファンデーション、小さなピンク色のグラデーションのアイシャドウパレットや口紅を鏡の前に並べた。

何だか少し緊張しながら雑誌やインターネットで聞きかじった手順を見よう見まねでやってみる。でも、できなかった。

私の顔には痣がある。だから、手元に揃えたファンデーションでは上手く隠せなかったのだ。目の周りから頰、額の方に広がる茶色や青色のせいで、アイシャドウのピンク色はいくら塗っても飲み込まれていく。

悲しかった。私の欲しい「かわいい」には手が届かない。鏡の向こうの私はほとんど泣いている。さっきまでのワクワクした気持ちはどこかに消えて、心がどんより曇った。それまで「何となく邪魔」くらいの存在だった顔の痣が、その日からはっきりと私のコンプレックスになった。

それからしばらく、メイクやコスメのことが嫌いだった。大学入学が近づいてどんどん綺麗になる友達の顔は直視できなかった。

でも「綺麗になりたい」という気持ちは無視できなかったから、だんだんと私はメイクのことを雑誌やインターネットで調べるようになった。

何とか痣を隠して均一な肌色に近づけられないかと調べているうちにカバーメイクというものがあることを知り、専用のコンシーラーやその使い方を真似した。近所にあったデパート(もう潰れてしまった)のコスメカウンターにも行ってみたけれど、BAのお姉さんはあんまり詳しくなさそうだったから自己流で自分の痣に合う色やテクスチャーを探した。

都内に住んでいたらもっといろんなブランドを気軽に試せたのかもしれないけれど、まだお金のないころだったから。今みたいにYouTubeに美容の情報はそんなになかったし、Instagramもまだ存在しなかった(使っていなかっただけかも)から結構苦労した。

結局たどり着いたのは資生堂のスポッツカバーファウンデイション。

痣や肝斑、傷跡をカバーするために開発されたものでカバー力がとても高い。色味は痣の青を打ち消す補色のオレンジに近い濃い肌色。お値段は1,000円ほど。量がたっぷり入っているので一生なくならないんじゃないかと思う。

最初のうちは付けすぎたり上手くカバーできなくて苦労したけれど、何度か試すうちに自分の痣に最適な付け方が分かってきた。リキッドファンデーションを塗った後に、これを指にごくごく少量取って肌にぽんぽんと載せると痣はほとんど隠れた。

鏡の向こうの自分の顔は綺麗だったしちゃんと笑っていた。

ベースメイクが上手くできるようになると、そこからメイクの世界が広がる。アイシャドウやチークの色も痣に飲み込まれてしまうことはない。ピンクやオレンジの、私の好きな色がまぶたの上でキラキラしている。

カバーメイクを研究するようになって、私はすっかりコスメに詳しくなっていた。大学に入ってからは、スキンケアもちゃんとしよう!と思ってバイト代をはたいてIPSAの化粧水や乳液もライン使いした。

メイクをすると、鏡の向こうの自分を少しだけ「いいじゃん」と思えるようになる。楽しい。コスメは嫌いになったはずなのに、いつの間にか私はコスメに魅了されていた。

こうして私はコスメ好きになった。昨年、太田母斑のレーザー治療を始めてから少しは薄くなってきたけれど、まだまだ資生堂のスポッツカバーは私の相棒だ。他にもカバーメイク用のコンシーラーがあるのだけれど、使い慣れたこれに戻ってきてしまう。

私のコスメの世界を広げてくれたのは、間違いなくこのスポッツカバーだ。勝手に感謝状を送りたい気持ち。ありがとう、これからもよろしく。

そして、あのとき「綺麗になりたい」を諦めなかった私、間違っていなかったよ。ちゃんと、コスメもメイクも楽しいよ。

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竹野まいか
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