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Fact & Fiction –現実と虚構にある物語–


《Attachement》from Anna &Eve ©Viktoria Sorochinski

「写真は、現実と空想の境界を曖昧にし、見えないものを見る魔法のような可能性を私たちに与えてくれる、映像メディアの中で唯一無二の存在です。」

アーティストであり写真家であるヴィクトリア・ソロチンスキーは、ウクライナで生まれた。1990年、11歳の時に家族とともに当時ソビエト連邦だったウクライナを離れ、イスラエルへ移住。その後、カナダ、モントリオールにて美術を学び、2008年ニューヨーク大学にて美術の修士号を取得する。言語も慣習も異なる国々で生活し、多様な文化に触れ育ってきたソロチンスキーは、国家の垣根はもちろん、現実と非現実との境界をも超える独自の視点で世界を映し取る。

これまでにヨーロッパ、北アメリカ、アジアなど23か国で約75の展覧会を開催し、彼女の作品は85以上の国際的なメディアに取り上げられている。また、Lucie Award(Discovery of the Year)、LensCulture Exposure Award、Magenta Flash Forward、PDN Photo Annual、J.M. Cameron Award、Voies Off Arles Awardなど数多くのコンペティションやフェローシップ、アワードにて受賞及びファイナリストとなっている。2013年にはドイツ、ペペロニブックスより自身初となるカタログ「Anna & Eve」を出版。2013年以降、ドイツ、ベルリンを拠点に世界各地で活動を展開している。

ソロチンスキーの作品の特徴は、鑑賞者がドキュメンタリーとフィクションの間を行き来するような物語を構築するステージング・フォトの手法である。最小限の機材を使用し、被写体の自宅や環境にあるプロ用ではない照明をそのまま使用し、叙情的な雰囲気を作り出す。そして民話や寓話などに基づくファンタジックな演出と、現実世界との境界を曖昧にする。鑑賞者はまずその絵画的な色彩や画面構成に目を奪われるだろう。しかし次第に被写体が放つ本来の関係性や現実を映し出すドラマに心奪われるのだ。ソロチンスキーの写真には物語が込められている。またしばしば一つのテーマに何年もの月日を費やし、時には被写体が幼い子供から女性へと成長する過程を追った《Anna & Eve》のようなロングターム・プロジェクトを展開する。

《Wisdom》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Temptation》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Refuge》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Reflection》 from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Premeval》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Birds》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Maternal Feeling》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski


《Nearly Woman》from Anna & Eve ©Viktoria Sorochinski

ステージング・フォトの手法で作品を制作する一方、彼女が作り上げる虚構の世界に宿る独特の空気感は残しつつ、よりドキュメンタリーに即した作品も手がけている。2009〜2018年までの期間、かつてソロチンスキーが幼少期を過ごした村を含む、ウクライナ、キーウ周辺の村々の伝統、慣習やそこに住む年老いた人々と、消えゆくそれらの記憶を留めた《Lands of No-Return》は、LensCulture Exposure Awardを受賞した作品だ。

「このプロジェクトは個人的な旅として始まりましたが、取り組めば取り組むほど、これらの人々や場所を撮影し、記念することは、より大きな価値があることに気づかされました。彼らは、かつて魔法にかけられたような活気ある文化の最後の証拠であり、やがて歴史書の中でしか知られなくなるのですから。」

とソロチンスキーは言う。

《Untitled # 8026》from the series LANDS OF NO-RETURN (2009–2018) ©Viktoria Sorochinski


《Untitled # 002》 from the series LANDS OF NO-RETURN (2009–2018) ©Viktoria Sorochinski


《Untitled # 7923》 from the series LANDS OF NO-RETURN (2009–2018) ©Viktoria Sorochinski

また2019年から始まり、現在進行中のプロジェクト《POLTAVALAND》は、ソロチンスキーの祖母の生まれ故郷、ポルタヴァ地方が舞台となる。彼女は、ポルタヴァを独自の宇宙と神話を持つ一種の小宇宙と捉え、日常にあるその特異性を表現している。本作は、ステージング・フォトの手法でこの地に宿る神話をより強調した、ドキュメンタリー作品である。

ポルタヴァ地方は、ウクライナの「心のふるさと」として連想されることも多いユニークで歴史的に重要な場所の一つだ。ポルタヴァの文化、神話、建築、宗教、神秘的な信仰は、東ヨーロッパと、モンゴル、トルコ、コーカサスなどアジアの影響、ペイガニズム(異教)、正教、そしてイスラム教が融合した独特なものに由来しているという。ポルタヴァは、ウクライナ近代文学の祖と言われている作家、イヴァン・コトリャレーウシキー、歌手/詩人のマルーシャ・チューライなどの生誕の地でもあり、作品にも登場している。

地元住民だけではなく、ウクライナの他の都市や海外に移住し、そこでキャリアを積み才能を認められた人々が再び戻ってくるような愛着があり大切に想う場所。彼女が初めてポルタヴァを訪れた時にも、不思議な親近感を覚えたという。

ロシア侵攻の一週間前まで、ソロチンスキーはキーウの実家に滞在していた。そして、ベルリンのスタジオに戻ると戦争が始まった。

《POLTAVALAND》について、ソロチンスキーは次のように語っている。

「ポルタヴァを上空から眺めると、広大な自然の中に、人々の暮らしが有機的に溶け込んでいる。この地には、大地から湧き出る力強いエネルギーがある。だから一度来ると、ずっと居たくなるのです。ポルタヴァは、私の夢の中で私を呼んでいるのです。初めて訪れて以来、私は何度も足を運んできました。そして今、ウクライナで起きている恐ろしい戦争の中で、この町が持ちこたえられるかどうか、非常に悲しい思いをしています。私が次に来ることができるようになったとき、何が、誰が、そこに残っているのでしょうか。」

http://www.viktoria-sorochinski.com/

Text: Riko

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