バチが当たったんだね




かねてから大好きだったバイト先の社員の先輩が、急遽異動が決まって今月いっぱいで去ることになった。
僕はこの先輩のことが大好きだった。本当に本当に大好きだった。お人好しすぎるところも、誰かに頼むくらいなら自分でやるからと一人でパンパンに仕事をこなすとこも、電話なのにニコニコペコペコするとこも、耳障りのいい声も、よく周りを見ているとこも、疲れているとたくさんミスするとこも、全部まるごと好きだった。
出会ってからまもなくで、この人はきっと、過酷な労働環境だった前職のおかげで、きつくてしんどいことが当たり前の体になっているのだと思った。普通に時間外で何時間も働くし、無謀な量の仕事も引き受けるし、そのくせいつもニコニコしている。苦労者の、麻痺したムーブだと感じた。
僕が少しでもこの先輩の負担を減らせたらと思った。テキトーに働いていたバイトが一変した。たくさん動いた。先輩が時間内で帰れるようにうんと動いた、効率よく立ち回った。先輩は定時で帰れる日が増えてきた。僕はこんなことで自分の存在意義を見出し、生きがいを感じてしまっていた。
本来の僕の目標を考えると、バイトは早く辞めるのがベストで、嫌で嫌でしょうがないような、早く辞めたくて仕方がないような存在であるべきで、モチベーションなんて持ってはいけないものだった。そのはずだった。
それなのに僕という人間はそんな意志も弱く刹那的な思考で、想いが強くなったこの先輩に対して寄り添っていくことがモチベーションになり、バイトに行くのが楽しみの一つになり、生活に活気を生む要素にしてしまっていた。それで本来の目標が疎かになり棒に振った日が何度あっただろうか。

バチが当たったのだろうと、今、ずっと、言い聞かせている。
悲しさから目を背けるように、寂しさにどっぷり沈み込まないように、
僕の生活に喝を入れるための、バチだと、
言い聞かせている。
涙を押し込むように、
言い聞かせている。
僕は僕のことしか考えている暇はないはずだから、
この先輩はぜったいにぜったいに、
この先幸せが訪れるから、
僕が手を差し伸べなくたって、
この人の人生に僕がいなくたって、
きっと幸せになるから、
だから区切りにしようと、元々の生活に戻ろうと、
今も、
朝からずっと、
夜になっても、
ずっとずっと言い聞かせている。





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