神様って届かないから神様なんだって

君を想って十字架に祈りを捧げているうちに気づいた。誰よりも近い存在である君が本当はいちばん遠くて遠くて遠くて遠くて、霞んで見えなくなる。ふわふわした感触が指の間を器用にすり抜けていく感覚が妙にリアルで気持ち悪くて、だから嫌いだった。永い夢、微睡みの中聞こえた懐かしい声、ただ僕を何度も何度も呼び戻そうとしているみたいだった。僕は君のためなら悪魔にだってなれるよってクサい台詞が頭の中を木霊する。共犯者だねって笑いあったあの淡く甘い日の罪を嗾けるように優しく差し伸べてくれた君の手を冷たく払い除けられるくらいには強くなったみたい。もう大丈夫、君がいなくても大丈夫だよって気持ちを押し殺して蓋をすればもうそれは僕じゃないニセモノの僕になってしまって、君はそれに気づかないから、いつまで経ってもひとつになれないね、そんなの当たり前なんだけど僕の理解者はいつだって君が良くて君じゃないとだめで、薬を沢山飲んで幸せな夢の中へ逃げようとする。意識が朦朧として身体が浮いているような感覚に陥るそのとき、また頭の中に現れて現実へ引き戻そうとする君、キミ、きみ。軟らかくて脆くて壊れやすくて儚くて弱くて薄い、君。もう随分外に出ていないんだ、って言って笑いかけてくれたのが君の笑顔を見た最後。感情の出し方を忘れてしまってからは泣いているところも怒っているところも笑っているところも見えなくなった。ただ真顔で僕を見つめるだけ。その全て見透かしているような瞳が怖くて光の中へ隠しても影のような君の奥深くに秘めている暗さで必ず見つけ出して、手を引っ張る。死体のように冷たいその手が嫌だった。繋いだ手から感じ取れる君の体温はいつだって-51℃で、それを知ってからは何度も何度も何度も殺されている。心を突き刺すような冷たさと祈りを捧げ傷付いた皮膚の内側は+51℃で、覗き込めばいつだって笑っていた。真っ白で傷だらけの美しく麗しいその皮膚を剥ぎ取って見れば、君のすべてがわかる気がするんだって、またしょーもない言葉を並べては軽蔑の目を向けられて、興奮、する。僕自身も知らない僕のことを見透かしている君のことを僕は、何一つ知らない。きっと見えているものは全て偽物で本当のことなんてないんだ。世界はそういうものだから。この目で、身体で、心で、死を感じたものしか分からない世界、そこに本物の君がいて、そこで本当の君が知れる。汚れた泥だらけの世界で綺麗なものだけを見ていたいなんてわがまま、僕たちが言って許されるわけがないよ。いつも隣で他人のフリをして僕を監視していた君も結局は共犯者。心を突き刺して奪った体温が服に、皮膚に飛び付いてくる、真っ赤で、真っ黒で、真っ白な、その、体温。どろどろでぐちゃぐちゃで血腥い。██の、体温。それが僕にとっては、僕たちにとっては心地よくて忘れられなくて、きっと僕たちが何者かによって完全に殺されるまで繰り返すんだ。大丈夫、誰にも見つけてもらえなくたって僕達は二人で一緒にいるんだから寂しくないよ。このままふたりぼっちでも心中すればひとりぼっちになる。永遠を信じる幼い僕たちへ永遠の祈りを捧げて神様みたいに。いちばん遠くて近いもどかしい距離にいる僕達はきっと死んで生まれ変わって神様になる。次は君も届くよ、ほら、だってここにいるでしょう?

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