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不思議なバーの物語②クリスマス

クリスマスの3日前

「今夜はあんたかい」
マスターは仏頂面をしている。

「・・・そんなこと言ったってね」
「私だって酔いつぶれたい時もあるの」


「なんのあてつけだい?」
「こんな雪の降る寒い夜に」
マスターはますます機嫌が悪い。

「クリスマスがくだらないとか」
「イエスの本当の誕生月が12月じゃないとか」
「・・・そんなね・・・私だって人並みにね・・・」
泣いてしまって言葉になっていない。

BGMはずっとクリスマスソングが流れている。

「まあ・・・ある意味、それは本当だろうなあ・・・」
「イスラエルの荒野で、12月の凍えるような馬小屋で出産なんて、あるわけないさ」
「・・・でも、間違いだな」
「それは、あいつが悪い」
マスターの言葉は、わかるような、わからないような・・・

「それでな・・・」
マスターは湯を沸かし始めた。

「え?バーであたたかいもの?」
女は少し顔をあげた。

「ああ、そろそろ来るだろうからな」
相変わらず仏頂面ながら声は少し明るい。

「え?来るの?」
女は途端にドギマギした顔になる。

マスターが二人の前に置いたのは
「柚餅子と緑茶」

キョトンとする二人に
「ついでに、このシャンパン、持って帰れ」
「世間様と同じようなお祝いをしろ」
「それが人としてのタシナミってもんだ」
マスターは二人の前に、どんと「クリュグ」を置く。

クリスマスの日には、男と女の故郷から
「みかん」と「りんご」が届けられた。

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