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第一話 The Fate:運命の歯車

”幸せそうな家庭” に育ちながら
母の呪縛によって感情を失った子供・Mai

自らの幸せを見つけるためアメリカに渡るも
生きる目的すら見出せずにいた頃

突如訪れたきっかけによって
自らの運命を変える旅に出発するー

ココロを忘れ、笑い方を忘れ
氷のように無表情だった私が

愛し、愛され

天職を見つけるまでのお話と

数々のWisdomを書いています。


2012年9月、日曜日。
その日のLos Angelesは真夏の暑さで

ジーンズに黒いTシャツという格好で家を出た私は、真っ青な空を背に約30分ほどの道のりをドライブし
この日の催しである”キネシオロジー体験会”の会場へと向かった。

それまで『キネシオロジー』という言葉を、耳にしたことすらなかったが
親しい友人の誘いを断りきれず、仕方なしに参加を決めたのだった。


そして体験会が始まり、約2時間後
ステージに設置されたテーブルの上で、私は無防備に横たわっていた。


場内にいた約30人ほどの人々は皆食い入るように
私と、そのすぐ横に立ちデモとして私のヒーリングを行なっている滝口いず美さんを、見つめている。

前半のデモでプラクティショナーがやって見せた『筋肉反射テスト』を初めて体験した私は

自分の筋肉が、目の前の食べ物や様々な言葉に対して力が強くなったり、逆に力が入らなくなったりと

それぞれ異なる反応を示すことに強く興味をそそられ

その特質を応用したヒーリングのデモを行うと聞いて、自ら挙手し
皆の前でそのセッションを受けることに同意したのだった。


テーブルの上に横たわる私の腕の筋肉に触れていたいず美さんは、
唐突に切り出した。


『・・・罪悪感。

という言葉に体が反応しているのですが、何か思い当たることはありますか?』


・・・・・はい?

それを聞いた私は、呆気に取られた。

全く話が見えなかったのだ。

彼女は一体何を言っているのだろう?
私は今、20年以上治らないこの鼻腔の腫れをどうにかしたくてセッションを受けているというのに。

当時私を悩ませていたその症状は、物心ついた時から絶えずつきまとっていて

鼻の内部が圧迫されるという息苦しさに耐えかねた私は、様々な分野の医者の元を訪れ、幾度となく治療を試みたが

改善するどころか、症状は悪化の一途をたどり

困惑顔の医者たちからは『そういう体質だから』と聞かされるばかりだった。


そしてわらにもすがる思いで受けたこのセッション。

突然『罪悪感』とは何のことか、と尋ねられた私は困惑した。

『あの、思い当たることが何もないんですけど・・・』


戸惑いながら答える私に


『そうでうすか・・・

Maiさんの体が”罪悪感”という言葉に反応しているのは確かなんですけど。

じゃあ、誰に対して罪悪感があるのかを、体に聞いてみましょうか。』


そう言った彼女は、私の腕の筋肉の反応を一つ一つ確かめていった。

『ええと、ご友人・・・違いますね

ご家族・・・に体が反応します。

お父さん・・・違いますね

お母さん・・・あ、お母さんに対しての罪悪感、に体が反応しますよ』


『・・・母への罪悪感、ですか??』


自分の体が示した反応とはいえ
当の私には、全くもって身に覚えのないことだった。


私の母は俗に言う ”毒親”であり

彼女の完全な支配下に置かれた子供時代を、必死に生き抜いた後

社会に出て1年で、逃れるようにして一人アメリカに越したのだった。

それまでの自分の人生を取り戻すことに必死だった私は

まさか罪悪感なんて、これっぽっちも感じたことはなかった。

『罪悪感かぁ・・・
分からないなぁ。
私、自分はそれなりに幸せだと思っているんですけど』

半ば反抗するように訴える私に、いず美さんは


『幸せ、と思っているんですよね?

・・・うーん・・・

体は幸せという言葉に全く反応していないのですが』

と困惑した表情で、私の顔を覗き込んできた。


え?体が反応していないってことは
私、自分は幸せだって本当は思っていないの??


『そんなことないと思うけどなぁ・・・
今私はアメリカにいて、前よりも幸せに過ごしているのだけど』

その言葉は、本心だった。

なぜなら日本で母と、姉たちと暮らした時代には

幸せとは一体どういうものなのか、想像すらつかないほど

自分の息を殺し、従順な大人しい娘を演じて生きていたからだ。

彼女から自分の身を守るためには、ただただそうするしかなかった。

二人の姉が受けたような仕打ちを、自分がもし受けたとしたら
もう正気で生きていく自信がなかったから。


すると私の言葉を聞いていたいず美さんは、何かを見つけたように言った。

『あ。
今Maiさんが ”幸せ”って言った瞬間、筋肉がギュウって固くなって
凍ってしまうような反応をしました』


それが何を意味しているのかは分からなかったが

言われてみると確かに、自分が幸せだと言う度に

ぎこちない違和感のようなものを

もうずいぶん前から感じていたような気がする・・・


自分では、本心から口にしている言葉なのに。

どうしてだろう・・・・?

思いを巡らせた私の記憶は

ゆっくりと、時間をさかのぼり始め


そして次の瞬間


10年前の出来事が、閃光のように記憶に蘇った。


結婚を機に家を出た姉に

私を見捨てて一人で幸せになるなんて、と怒り狂った母。

電話越しに姉を怒鳴りつけた後、私の方を向き直り

狂気の目で叫んだ。


『私を踏み台にして自分だけ幸せになろうなんて、絶対に許さない!

私が不幸なうちは

絶対にお前を幸せになんかさせないからね!

お前が幸せになったら

どこまでも追いかけて、その幸せをめちゃくちゃに壊してやる!』


母はそんなことを本気で私に言っているのではないはず—

と考える一瞬の余裕すらなかった。

歪んではいても、彼女はきっと私を愛しているはずだという

幼い時から大事にしてきた、唯一の希望であり信頼が

その叫び声を聞いた瞬間に

頭から砕け散った。


もう声も出ず、涙も出ず

ただ呆然とする私を、母は家の外に突き飛ばし


裸足の私は、行き先も分からないまま

冬の夕暮れ時のコンクリートの上を

一人歩き出したことを、覚えている。



次回第二話
Ending & Beginning:終わり、始まる
に続きます。

過去の辛い記憶にフタをし続けることで、必死に前を向いていた当時の私。

そうすることで生き延びることはできても
自分の幸せを見つけ、輝いていくことはできない。

過去の痛みが
現在の自分に影響している限り
それは完全に”過去”にはなっていないのだと

気付くことになります。



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