読書レビュー:ビジネス書「『見えない資産』が利益を生む」
本Note初のビジネス書レビューな気が。ビジネスという視点だけでなく、法律やIT企業のビジョンを比較できて面白い。
知財ミックスとは?
タイトルにもなっている「知財ミックス」。著者は、以下のように定義している。
多様な知財の集合体である知財ポートフォリオをつくって知財ミックスを実現し、明確な方針に向かって事業を展開するビジョン経営を実践することが、これからの企業に不可欠だと説いている。
将来の予測が難しいVUCA時代に、自分たちが目指すビジョンを打ち出し未来を先取りし、時代の流れに合った形で変革(イノベーション)を起こし続けることで企業は持続的成長を叶えます。
イノベーションとは?
経済産業省は、平成27年度にイノベーションをピッタリな言葉で定義している。
想像しやすいが、日本人は良いものを作れば売れるという発想が染み付いていて、1)の発明はできても2)のマーケティングやブランディングは手薄く、清貧思想の弊害なのか3)のお金を儲ける(持続的に成長できる)モデルの構築は苦手のように思える。
1989年に世界時価総額企業ランキングを総なめした日本が、失われた30年を過ごしたのもビジネス的にはイノベーションを成し遂げられなかったことは大きい。
イノベーション後進国から脱却するために、著者はGAFAを例に具体的に知財活用を説く。
日本企業の慣習であるクロスライセンスの弊害
Appleの製品を見ると、誰もがブランドを認識できる。それは企業が持つ知財(デザイン、それを生み出すための意匠権他)の賜物である。
一方、日本国内のメーカーでひと目見て分かるブランドはあるだろうか?日本企業では、家電・通信機器を中心に、クロスライセンスが取り入れられるケースが散見される。
具体的には、家電メーカーの中にはA社が開発した新技術を、B社も同タイミングで別商品に組み込み販売することがある。この場合、A社は新技術を提供し、B社は別の特許を提供してクロスライセンスを交わすことも。両社の開発費用を抑え、特許が使えるようになり裁判リスクもなくなります。
このような仕組みは、一見提供側にとってメリットがありますが、ロゴをいないとどのメーカーか分からない製品を、消費者は愛して購入し続けてくれるだろうか?
Appleの知財ミックス戦略
Appleの場合、明確なビジョンがあり勝てる知財ミックスを巧みに組み込んでおり、多くのコアなファンを獲得しながら独自の世界観を提供している。
ビジョンに即した商品の提供により、他社と差別化でき価格競争を回避しているのがAppleだ。
Appleは同社初となるホテルの開業をテキサス州・オースティンに計画しているが、ホテル経営は人の五感を包み込むというビジョンの中に違和感なく収まっており、ビジョンに基づいた事業戦略は培われてきた知財を次の事業で応用できることに。
Amazonが持つ特許
Amazonでも同様のことが言える。多様な商品の中から気に入った商品がさがせ、安価に購入できるAmazonは、「予測出荷システム」と「ワンクリック購入」の特許を取得している。
いずれも最適なものがすぐに見つかる、少ない手間で買える、翌日には家に届くなど、ビジョンを体現した技術だ。
所感
冒頭では誰もが知る企業のキャッチーな事業展開とビジョンを、中盤では具体的な対象となる知財と活用例を挙げており、説得力のある飽きさせない構成になっている。
一方で、後半の具体的なアクションに関してはフレームワークとしては参考になるが、著者が実行したわけでもないGAFAMの事例を中心に概念的な解説なので、既に事業をしている経営者や事業責任者にとっては物足りない。
ただここで紹介した以外でも、2007年にiPhoneを出したAppleは5Gの動画や画像を送受信できる未来を見据えていたなど、バックキャスティング(未来から逆算する発想)をしながら経営していたというエピソードもあり、導入的な事例を知ることはできる。
本Noteでは一部しか紹介していないので、気になったらぜひ読んでみてほしい。
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