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読書レビュー:科学「ジェンダーと脳」


脳は未だに新たな発見が尽きない器官であり、話題になりやすい研究が取り上げられます。その中、この本は断定もせず研究による事実を挙げ読みやすい一冊です。

男性優位の結果を導く逆向きの証明

解剖学が発達しても男性による優位性を信じたい男性研究者による偏見が残ったように、脳の領域でもジェンダーに関するおざなりな「研究」が現代にも通じていることは多々あります。

17世紀の近代医学の基礎が出来上がる科学革命が起きるまで、女性が男性に劣ることを正当化するのは宗教の役目でした。

ところが、科学こそ平等であるという考えが普及した結果、本当に公平になったどころか、身体的なあらゆる面で男女の差異を見つけ強調し、男性の優位性を「証明」する研究が盛んになりました。

〜古代ギリシャ〜
・医学者ガレノス始め「精巣」が身体で最も崇高だと考えられた
→精巣はより”優秀である”男性にしかないので当然として受け入れられる

〜19世紀〜
精神のありかと認められた頭蓋骨と脳の重量の測定が重要になる
→男性がより優秀な脳と見せると証明するにはどうする?
→当初は頭蓋骨と脳の大きさは男性の方がでかいので、優位性を証明
→ところがかなりの数の動物がヒトより大きな頭蓋骨と脳を持っている(クジラが男性より優秀と証明したいわけではない)
→不都合な事実を言い抜けるため、重要なのは脳の大きさでなく身体との体積比と提唱
→身体にたいする脳の大きさの比率は男性より女性が高いことが判明
→証明ができないと考えた研究者は…↓

ここで仮に脳の大きさの比率が女性より男性が高ければ、「男性は女性より優秀である。なぜなら脳の大きさの比率が〜」と研究成果にできたでしょう。しかし事実は逆で、学者は脳の大きさの比率が高い女性が高い知性を持つと結論づけませんでした。

そのため面白いことに、上記研究結果から以下の結論を出しました。

女性は体に対する頭蓋骨の比率が高い子供に似ている。だから女性は未発達であり、知性において男性に劣る。

ここまで来ると必死感があります。科学的でも何もありません。男性は女性より優秀であるという完成図ありきで、研究が行われていたのです。

著者は、過去にさかのぼって脳の研究の歴史を見ると、社会的および政治的な目的のために科学的な事実を捻じ曲げる男性の創造性に感服すると記述し、その通りだと思います。

目的ありきの研究は誤魔化ししか生まれてきません。期待通りの結果が得られないからといって、結果の解釈を変えたり実験手法を改めてよりよい指標に切り替えたりしてきた事実が過去の研究で明らかになっています。

19世紀のフランスの神学者ポール・ブローカー、進化生物学者ジョージ・ロマネス、ドイツの生物学者テオドール・ビショフなど様々な著名学者が、男性が(取り敢えずは勝つ)脳の大きさという事実をもとに、女性は知的能力がなく、教育を受けすぎると生殖器の発達が妨げられる恐れがあると堂々と提唱していたのです。

やばい世界だ。

このような凝り固まった目的の下、男性が女性より優れた知性の持ち主であるという「解剖学的な証拠」を著者は多々取り上げます。

この下りは発見ごとにコロコロ主張が変わって、冗談のように面白いので読んでください。

男脳女脳は存在するか?

残りは著者の研究です。簡単な脳の構造説明もあり結論から言うと、

人の脳はモザイクである、ということです。

脳はグラデーションのようにそれぞれの特徴を持っているということです。言われてみればその通りで、人間誰しも得意科目や性格があるのに、それを二分した社会規範でどっちの脳というのも変でしょう。

実験として、ラットの脳は、海馬の錐体細胞の細胞体の尖端と基底にある突起がメスに多いことを発見したものの、30分ストレスを与えるとオスが多く持つ別の突起に変化することが分かりました。

海馬:様々な昨日があるが、なかでも記憶と空間認識に重要な働きをする。

つまり、脳の特徴として性別以外の要因に依存するということ。それも変化するということです。

ジェンダーフリーの世界とは?

しかしジェンダーを2タイプだけするというのも変な話です。

調査ではシスジェンダーの人でも、約35%が男性と女性のどちらも自認することがあるアンケート結果を例にあげています。

彼らは自身を男性女性とみなす人なのにも関わらず、たまに性別が揺れているのです。

加えて、4759人のシスジェンダーの男女に性自認について訪ねたところ、38%が自分が異性ならいいのにとある程度感じると回答しています。同じく自分が異性または異性の身体であればいいと思うと回答。

アンケート対象のトランスジェンダーにも性自認に幅があり、多くが女性男性のどちらとも感じ、どちらでもないと感じているとのこと。反対のジェンダーになりたいといっても身体を持ちたいとは限らないということです。

性別(セックス)と異なるジェンダーに差異が生まれてしまうのは、2つにしか選択肢がないと教えてきたことが原因で、本当にジェンダーをなくすのは、それに従うために自分を押し付ける社会的な抑圧を取り除くことが必要です。

所感

捻じ曲げられた事実の歴史から入り、まっさらなベイビーに対して無意識によるジェンダーの押しつけを示す研究、2017年話題をさらったグーグルのエンジニア・ジェームズ・ダモアの女性が生まれつきエンジニアの能力が欠けるという社内文書、など興味深いトピックから、医学書らしい脳の仕組みの話もあり、読み応えもありながらエンターテインメント性もある面白い本です。

余談ですが、挿入するヘッダーを選択するため「脳」と入れてリアルな画像が出てきたら困るな…と思いながら検索しました(リアルなものは出ませんでした)。

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