読書レビュー:文芸書「三体」
3部作で2100万部以上を売り上げた注目の作品。ザッカーバーグもオバマ氏も夢中になり、アジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門を勝ち取りました。
作家もエンジニアとして働く傍らSF小説を書き上げたという、東野圭吾を彷彿させる経歴です。
文化革命
文化革命期、主人公の父親を糾弾するシーンから小説は始まります。
驚いたのが、革命軍の言動を違和感ありきで伝えている文体です。歴史に対するシニカルな視点を持つ現代的な小説として、中国国内でも受けたのではないかと。
文化革命について、古いですがカンヌ国際映画祭で受賞しとっっても有名で面白い映画があるので、見てみてください。変なパッケージですがw、本格ストーリーです。
VRゲーム
世界中の研究者が自殺してしまった謎を探る要となったのがVRゲームで、2人目の主人公はその高度なゲームに没入していきます。
2008年単行本化された小説内でVRゲームを扱おうと思った視点が斬新。(近未来的な宇宙はたくさん題材ありますが、VRは以外となかった?)
※FacebookがOculusを買収したのは2014年のこと。
開発視点からすると、自由操作ゲーム内の雑魚プレイヤーが、主人公と繰り広げたような柔軟でリアルな会話はできるのか?と冷めながら読んでしまい…。本や映像で登場する技術、期待度高すぎです。ナノテク素材が大活躍するシーンもあるのですが、ホント??と疑心暗鬼でした笑。現実通りだと文学は始まらない気がします。
歴史×SF×物理学の異色小説
VRの技術的ハードルは置いておき、主人公が謎を解決していく様子は楽しめます。他星の文明を探っていく様子も、同賞を獲得した1973年刊の「宇宙のランデブー」と少し似通うところがあります。
また、場所を数カ所移動するので、各地の描写が鮮明で改めて中国って大きいなぁと、コロナの中旅行気分を味わえました。
所感
全体的に緻密な文章構成と巧みな表現で、無駄のない文章です。テーマは固いですがストーリー展開も早く読みやすいです。
ただ、登場人物全員が物理学に明るいエリートで、それ以外の人物がほぼ出てこないのが生活感がなく「晴れ」しか描かない小説家なのかな、という印象。私としては、本作にぎゅうぎゅうに詰められたオン以外の面も見て、もうちょっとキャラクターやストーリーの余白を感じたかった。
同じくヒューゴー賞を受賞した「ハリー・ポッター」のようなキャラクターの成長を感じるストーリー性はなく、作者が常識を穿つ規模の新しい発想ができるか挑戦した結果のようです。
ヘッダー画像が雪なのは、ネタバレほどではないですが、雪山でちょっとした事件が起こるからです。キャラの内面が描写され印象的でした。
私はあと2部作読んでみようと思います。