没プロット『ミスティックキラードール』ver.2

鼻歌混じりに公園のベンチでハンバーガーを食べる泡。
後ろに迫る人影、振り返り睨みつける。



場転。
ガヤガヤと騒がしい高校の教室。
雑談に混じり、不穏な言葉も聞こえている。
『2限の数学小テストだって。』
『またかよ。小田先生張り切りすぎじゃねぇか?』
『3組のエミ、いなくなっちゃったんだって。』
『マジ?そういや見たって言ってたもんな。』
『朝飯食ってねぇのよ。』
『購買行く?それかコンビニ。』
『進路調査票いつまでだっけ。』
『やっぱソロじゃ限界だわ。キャリーしてや。』
『ランク全然違うだろ。』
『失踪?ただの家出だろ。』
『うちの隣のおじいちゃんもいなくなっちゃったんだって。』
『そりゃただの徘徊だろ。ボケてたんじゃねぇの?』
『ねぇ見たって何を?』
『あれだよ。【イサリビさん】。』

そんな雑談を傍目に、スマホを触る花苗(かなえ)。
隣の席に陽子が座っており、しきりに花苗に話しかけているが、生返事を返す花苗。
花苗「イサリビさん?」
陽子「知ってる?最近よく聞く話なんだけど。」
花苗「知らない。」
陽子「夜道歩いてるとゆらゆら揺れる人魂みたいのが浮いててね。それ見ちゃうと数日後に失踪しちゃうんだって。」
花苗「…都市伝説?」
陽子「そう。」
花苗「幼稚。」
陽子「だよねぇ。」
陽子「…でもね 私も見ちゃったんだ。イサリビさん。」
悲しげな表情で怯えている様子の陽子。

ファーストフード店。
めんどくさそうにストローを咥える花苗。
陽子「お願いだよぉカナちゃん!」
泣きながら花苗に縋り付く陽子。
花苗「ちょっと!鼻水!」
陽子を引き剥がそうとする花苗。しかし、思いのほか力が強く引き剥がせない。
陽子「だって、私消えちゃうんだよ!?いいじゃないお父さんに相談させてよ!カナちゃんパパ警察官でしょう!?」
花苗「だから、警察もそんなんじゃ動かないっての!!ただの都市伝説でしょう!!?」
涙ぐみながら、花苗を見る陽子。
その顔を見て深くため息をつく花苗。
花苗「……話してみるだけだからね…」
陽子の顔がパッと明るくなる。
陽子「やった!カナちゃん大好き!」
花苗(本当に私はこの子に甘い…)
陽子「じゃあ今から行こう!」
花苗「今から!?」
陽子「善は急げだよ!カナちゃんパパ今日も駐在所でしょ?」
花苗「そうだけど!仕事中に…」
陽子、花苗の手を取り引っ張る。
陽子「カナちゃんいつも言ってるじゃない。『田舎の駐在さんなんていつも暇なもんだ』ってパパが嘆いてるって。」
花苗「そうだけどー!」

場転。
人気のない駐在所を覗き込む花苗と陽子。
陽子「…お邪魔しまーす」
陽子の声を聞いて、奥のパーテーションの向こうから、花苗の父親が顔を出す。
花苗父「陽子ちゃん、と花苗。どうした?」
立ち上がった、花苗父。警察官の制服を着ており、優しそうな笑顔を携えている。

駐在所のテーブルを挟んで、椅子に座る3人。あらかた説明し終わった陽子。
花苗父「イサリビさん…ねぇ」
難しそうに眉を顰める花苗父。
陽子「そうなんです!」
花苗父「確かにここ数ヶ月で失踪者は複数出てはいるが…」
陽子「ほら!」
花苗父手帳をめくる。
花苗父「家庭の不和、友人との軋轢、リストラ、離婚調停中、借金…どの案件も、こう言っちゃなんだが、疾走の動機があるんだよ。もちろん捜索はしているがね…陽子ちゃん、君にはそう言った動機が…」
花苗「ないね。今朝の占いが悪かったとかが1日の一番の悩みだったりするやつだし。」
陽子「ひどくない!?」
花苗父「うーん。現状で警察が動くことはできないね。」
肩を落とす陽子。
花苗父「ああ、例えばGPSとか持っとくのは?最近はスマホで受信できる高性能なやつもあるみたいだし。」
陽子「そう思って買っといたんです。」
キーホルダーの形のGPS発信機を取り出す陽子。
花苗「アンタ怖いわよ…?」
花苗父「準備がいいね。よし、じゃあ花苗の携帯に受信アプリを入れちゃえ。」
陽子「はーい♪」
陽子、難なく花苗のスマホのロックを解除し、スイスイ操作する。
花苗「イカれてんのかアンタら!!!」
花苗父「えーいいじゃん仲良しでしょ2人。」
陽子「そうだよ。仲良しでしょ。」
花苗「仲良しの域超えてるっての!!」
ダウンロードされたアプリを削除しようとする花苗。

泡「ねえちゃん達、今の話詳しく聞かせてくんねぇか?イサリビさんっての。」
急に聞こえた声に驚く2人。
声はパーテーションの向こうから聞こえていた。
2人が覗き込むとそこには小柄な少年が座っていた。
花苗父「ああ、ごめんごめん忘れてたよ。」
事務用の椅子に尊大な態度で座っている泡。
手前には白紙の書類が置かれている。
花苗父が書類を覗き込む。
花苗父「ちょっと君、まだ何も書いてないのかい?頼むよ、ご両親に連絡もできないじゃないか。」
花苗「…家出少年?」
泡「だから、違うっての!!」
声を荒げる泡。
泡「俺は!この町の失踪事件を解決しにきた然るべき機関のものだって言ってんだろ!?」
花苗父「はーいはい、そういう設定なんだね。何中?住所は?」
泡「だめだー このおっさん話になんねぇ。」
花苗父「こっちのセリフだよ家出少年。」
陽子「はい!その子、私の親戚です!」
花苗「…アンタね」
陽子「ホントだもん。従兄弟の姉の弟の息子だもん。」
花苗「意味わかって言ってる??」
泡「ねえちゃん、話わかるな。よし、こっから逃げるから話聞かせてくれるか?」
陽子「了解!」
花苗父「あのね…いくら陽子ちゃんの頼みでもそれは…」
泡、ポケットからピンピン球のようなものを取り出し、花苗父に渡す。
花苗父「なんだいこれ…?」
とピンポン球を顔に近づけたところでポフンと小さく爆発し顔の周りが煙で覆われる。
花苗「何やってんの君!!」
泡「それ逃げろ。」
泡がは駐在所から走り出した。
陽子も楽しそうにきゃーと悲鳴を上げながら、後を追う。
葛藤する花苗。
花苗「父さんごめんね!」
陽子を得体のしれない中学生と2人にはできないと後を追う花苗。

公園。
肩で息をする花苗と陽子に対して息はおろか汗の一滴も掻いていない泡。
泡「ここでいいか。ねえちゃん早速いいかい?」
振り返る泡。死屍累々という感じで息を切らす花苗と陽子。
陽子「ちょっと、お水飲んでもいいかな…」
泡「ああ、ごめん」

自販機で水を買う陽子と花苗。
泡「俺コーラ。」
後ろで泡が頭の後ろで手を組みながら笑顔で言う。
花苗、怪しげな目で泡を見た後、ホレと缶のコーラを投げる。キャッチしながらあんがとと軽口を叩く泡。

ブランコに座る2人とその前の柵に座る泡。
泡「じゃ早速。」
話し始めようとする陽子を制する花苗。
花苗「その前にアンタのこと教えてよ。ここは町の人みんな顔見知りなくらいの田舎街だけど、アンタのこと見たことないわ。アンタ何者?」
泡「そういや自己紹介がまだだったな。」
泡「俺の名前は泡。14歳だ。つってもそれ以上一般人に言ってもわかんねぇしな…くっそー1人ってめんどくせぇな。」
うーむと考え込む泡。
花苗(変な名前…アカウント名か何かかな…?)
泡「なんだ…こう…“通常では解明できない事件を追う秘密警察的なやつ”…?」
花苗「煮えきらないわね…せめて言い切りなよ…」
陽子「“通常では解明できない事件を追う秘密警察的なやつ”!!?」
呆れる花苗に対して、目を輝かせる陽子。
再び深くため息をつく花苗。
花苗「アンタはそういう反応するわよね…陽子冷静になってわたしたちより年下の男の子がそんなたいそうなものな訳ないでしょ。」
陽子「知らないのカナちゃん。こういうのに年齢は関係ないんだよ。浦飯幽助も14歳だったでしょ。」
泡「おお、いけた。」
少し引いている泡。
花苗(いけたって言ったし…)
めんどくさくなった花苗。
花苗「じゃあもうそれでいいから進めて。」
泡「おお、物分かりが良くて助かる。早速イサリビさんっての教えてくれるか?」
陽子「了解です!発端は確か3組の恵美だったと思うんだけどね…」

モノローグ。
「恵美は1週間くらい前に失踪した同じ学校の女の子なんだけどね。その子がいなくなる前に言ってたの。」
「「人魂を見た」って」
「それ以来、いつの間にか名前がついてたの。見た人間を失踪させる人魂『イサリビさん』って」

泡「はーん?」
花苗(…信じてなさそう!!)
泡「で、その『イサリビさん』をねえちゃんも見ちゃったと。」
陽子「そうなの!!」
力強く頷く陽子。
陽子「1週間前、学校から帰るときにね?人魂みたいにふよふよ浮いてたの。それ以来、毎晩夢に見るんだから!」
泡「…ふーむ、人魂…炎か…『洗脳』、いや『魅了』の方が性質的にはありえるか?」
花苗「イサリビさんにあの世に連れて行かれちゃうんだっけ?」
陽子「茶化さないでよ〜!」
戯れる花苗と陽子。
花苗「で、何かわかった?秘密警察さん。」
泡「ああ、十中八九な。」
驚く花苗と陽子。
泡「まぁ犯人が誰かとか、いなくなった奴がどこにいるかとか生きてるかとかは知らねぇけど。」
陽子「さすが秘密警察…!それで何者なのイサリビさん!」
泡「“魔術”だよ。」
花苗「は?」
泡「いいか?この日本における年間8万人超の行方不明者、1000件近い未解決事件、さらに認知すらされないそれらの大多数は魔術師による犯行だ。イサリビさんもおそらくそうだな。失踪に見せかけてるのが奴らのよくある手口だよ。拐われた奴らは今頃実験材料か兵隊かどっちかだな。」
花苗「アンタ、いくらなんでもそれは…」
花苗、ちらりと陽子を見る。
陽子「うーん、ちょっとそれはないかな。」
花苗「これは信じないのね!」
引いている陽子。
陽子「うん、UMAとか宇宙人ならあり得るけど魔術はちょっと…ないかな…」
花苗「違いがわからん!」
陽子の目の中に小さく炎がゆらめく。
泡は鋭い目でそれを見ている。
陽子「まぁ信じるも信じないもアンタ達次第って奴だぜ。」
陽子「というわけで、もう帰るね。行こ、カナちゃん。」
陽子がかなえを強引に引っ張る。
花苗「ちょっと陽子!?」
泡「おー失踪したら教えてくれや。しばらくこの公園にいるからよ。」
ヒラヒラと笑顔で手を振る泡。

真っ暗な廃墟。
犯人のシルエット。
「ふむ。なかなかに目敏い。」

日が暮れかけた頃、帰宅した花苗。
ぐったりとしている。
花苗「あー、つっかれた。」
花苗「結局、振り回されっぱなしだったな。」

陽子回想「しばらく一緒にいてよね!私が失踪しないように!」
花苗回想「楽しんでるでしょアンタ…」

花苗「ただいまー」
靴を脱ぎ、リビングに入る花苗。
ソファに座った花苗父。
花苗父「おかえりー。」
花苗(…はっ!完全に忘れてた!あいつのことどう説明しよ!?)
花苗「…父さん昼間ごめんね…あの中学生なんだけど…」
疑問符を浮かべる花苗父。
花苗父「昼間?中学生?なんのことだい?」
驚く花苗。

夜が更けた頃。
陽子部屋。ベッドで眠りにつく陽子。
『来い』
陽子の脳内に声が響く。
突然、虚に目を開くと、上半身を起こす。
そして身体が発火し、跡形もなく消えた。

花苗部屋。
父が泡のことを覚えていなかったことを陽子にLINEで連絡していたのだが、数時間経っても返事がな区疑問に思っているところ。
突然、部屋の扉が乱暴に開かれる。
飛び込んできたのは慌てた様子の花苗父。
驚く花苗に父が深く息を吸って言った。
花苗父「落ち着いて聞いてくれ…陽子ちゃんがいなくなったらしい…!」
花苗「……!」
花苗息をのむ。スマホを手にしたまま部屋を飛び出した。

回想。
幼い頃、田舎町に引っ越してきた花苗。
しかし、田舎町の閉鎖的な空気から周囲に馴染めずにいる。
そこに話しかけてくる陽子。
写真のように数カット一緒に成長してきた様子が映る。

夜の公園。
息を切らす花苗。
辺りをキョロキョロと見回すが人の気配はない。
花苗は苛立たしげに大声を上げる。
花苗「いるんでしょ!!出てきなさいよ!!」

ざあっと風が木々を揺らす音が響いた後。
泡「ぎゃっはっは、そんなでかい声出さなくても聞こえるよ。」
高所から聞こえた声に花苗が見上げると、ジャングルジムの上に器用に腰掛けた泡がいたずらっぽい笑みを携えていた。
泡「どうしたねえちゃん。今度は1人かい?」
花苗「…陽子が消えたわ」
泡「だろうな。魔術の話を聞いたときあのねえちゃん明らかに反応がおかしかったろ?多分敵さん魔術をかけた人間を向こうから監視してやがんだ。俺の接触に気がついて慌てて嬢ちゃんさらいやがったのさ。」
花苗「…て」
泡「んあ?」
花苗「お願いあの子を助けてあげて!アンタみたいな子供を頼るのがおかしいし馬鹿げてるってわかってる!でも、他に頼りがいないの!」
泡「ねえちゃん魔術なんて信じてないんじゃなかったのかい?」
ギリと歯を食いしばる花苗。
花苗「陽子を助けてくれるんなら、魔術でも魔法でも信じるわよ。」
笑いながら、ジャングルジムから飛び降りる泡。
泡「ぎゃっはっは、いい気概だな。」
泡「言ったろ。犯人を追ってるってよ。もとよりこの町の事件を解決するのが俺の仕事だ。ついでにねえちゃんの友達も助けてやるよ。」
花苗「本当?それで陽子の居場所は…」
泡「俺は知らねえよ。」
花苗「え…」
泡「こういうのは本来俺の上司の仕事なんだけど今あいにく他の仕事が忙しくてな。俺、魔術の探知なんてできんから居場所は知らん。」
花苗「何それ!!?」
泡「まぁ今から上司を呼んでもいいが…頼るのも癪だしな。それよりアンタ居場所わかるんじゃねぇか?」
泡、かなえを指差す。
花苗「え、あたし!?」
泡「化学の力ってすげー!って奴だぜ。」
花苗がスマホを見る。

スマホ画面にGPSの位置情報が表示されている。
泡「廃ホテル跡?こんな山奥にか?」
花苗「あたしが子供の頃にはもう潰れてたからよく知らないんだけど、バブルの頃にできたままオーナーが夜逃げしたとかで残ってるの。周囲に人は住んでいないし気味悪がられて人も近づかないわ。」
泡「なるほど、魔術師が根城にするにはうってつけってわけだ。それにしても…」
泡、花苗を抱えて屋根の上を飛び跳ねている。
泡「40キロも離れてるなんて聞いてねぇぞ!!!」
花苗「大変だったらあたしの事置いて行ってもいいよ…?」
泡「いや、それは困る。」
泡「俺、方向音痴だから土地勘ねぇところだと100パー迷う。」
花苗「そんな理由なの!?」
泡「それにまぁ、アンタがいた方が拐われたねえちゃんも安心すんだろ。」
花苗、陽子を思い出し不安そうに目を閉じる。

泡「せいぜい無事を祈ってろ。でも覚悟もしてろ。」
ふうと弱々しく息を吐く花苗。
花苗「ねぇ、あたしを抱えてこんなに走れるのも魔術なの?」
泡「…舌噛むぞ。」
花苗「気を紛らわしたいの。」
面倒そうにため息をつく泡。
泡「ちげえよ。鍛えたんだ。奴らに遅れを取らないようにな。」
花苗「じゃあ、お父さんが君のこと忘れてたのは?」
泡「おお、上手くいってたか。上司の棚から勝手にパクってきた奴なんだけど俺が使っても行けるもんだな。」
花苗「そんな得体が知れないもの人の家族に使ってたの!!?」
泡「ありゃ魔具っつって魔術を帯びた道具だ。あれに入ってたのは『記憶消去』。煙浴びたやつはちょっと記憶が飛ぶ。」
花苗「便利だね魔術。」
泡「そうでもねえぞ。基本的に人間にできることしかできん。その過程や労力を多少無視できるってだけだ。アンタの友達が使われた魔術もおおよそ見当がついたしな。」
花苗「知らなかった魔術なんてものがあるなんて」
泡「多分、偉い政治家さんだって知らないぜ。存外こういう得体のしれねぇもんはすぐ近くにあったりするんだぜ。運がいい奴、いや悪い奴だな…はたまに足を踏み外して迷い込んだりするもんだが、俺たちみたいな境界を守る存在がいるからお互いの世界の秩序は守られてんだよ。」
花苗「どうして陽子は攫われたの?」
泡「知らねぇよ。魔術師どもの考えることなんざ。アイツらイカれてんだよ。」
花苗「昼間は実験材料か兵隊って言ってたよね?」
泡「よく覚えてんな。言った通り魔術の人体実験に使うか、兵隊ってより労働力だな。操って素材調達やら資金調達要員にするかだよ。」
花苗「陽子は…」
泡「…例えば、俺の家族…父ちゃんと母ちゃんと姉貴と愛犬は突然攫われて見つかったときには死体が一つだった。」
花苗「…他の人たちは…?」
泡「ああ、違う違う。3人と1匹の死体が一つに混ざって1つの死体だったんだ。」
花苗、息を呑む。
泡「だから俺はこっち側に来たんだよ。探してんだ、家族を殺したやつを。まぁよくある復讐だな。」
花苗「…よくあるって…」
飄々と喋る泡の顔を花苗が見る。
その表情は普段の笑顔とは違う邪悪な笑みだった。
花苗、息を呑む。
泡が強い。踏み込みの後高くジャンプする。
いつの間にか泡が足場にしていたのは屋根から木や岩に変わっており、
高い木の上に着地する。そこからは廃ホテルの全景が見えた。
泡「さぁ、ここから敵陣だ。おしゃべりは終わりでいいな?」

廃ホテル内部。最上階のホールのような場所。
ガラス製の天蓋から月明かりが差し込み、内部は明るい。
虚な目をしていた陽子がパチンという指を鳴らす音で我に還る。
辺りを見回すと全く見覚えのない場所に怯えた様子で辺りを見回す。
陽子「え?ここ…どこ。」
そして傍に立つ男に気がつく。
ホリが深く長髪で細身の陰気そうな男だ。
陽子「…誰?」
男は答えない。
陽子、危機を感じて逃げようと立ち上がろうとするが、足が上手く動かない。
縛られている感覚があった。そう認識すると手も後ろ手に縛られている。
体制を変え、足元を見ると両足首に炎が纏わりついている。
足が燃えていると錯覚し悲鳴をあげるが、なぜか足はほとんど熱くない。
男「それは君を焼く火ではない。」
男が陽子に見向きもせずに言う。
男「【火縄】という私が開発した基礎魔術の一つだ。燃やす力は弱いが、切れることはない。このようなことを言っても君のような無能力者は理解すらできないだろうが。」
男「君を焼く炎はこちらだ。」
男が手のひらを挙げると火の玉が現れる。
陽子が小さく悲鳴をあげる。
男「この街も嗅ぎつけられてしまったようだからな。君で最後にするとしよう。」
男「今から君には、私の魔術の礎の一つになってもらう。喜んでくれたまえ。まずはどの部位がどの程度の火力で壊死するか四肢から試してみよう。いや、君、声が大きそうだな。まずは唇を火傷で癒着させるとしようか。」
言いながら男が迫ってくる。
陽子はそこで自分が寝ているのが、実験台のような場所だと言うことに気がついた。
泣き喚く陽子に男の炎が迫る。

店外のガラスが轟音立てて割れる。
陽子と男が驚いて天窓を見上げる。
ガラスが割れ、月明かりをバックにした泡と抱えられた花苗のシルエットが飛び込んできた。
それらをかき消すように花苗の悲鳴が響く。
空中で数回泡(と抱えられた花苗)が回転する。
それに合わせて悲鳴も上下する。 
そのままホールの中央、陽子が寝かされている辺り目がけて着地する。
魔術師の男は飛び退いて回避した。

台座の上、砂煙を上げながら、泡が立ち上がる。
後ろには頭を押さえた花苗と驚いて固まっている陽子。
泡「間に合ったみてーだな。」
泡が魔術師を見据える。

花苗が背後から泡の後頭部を引っ叩いた。
泡「あいた!」
泡「何すんだアンタ!空気読め!?」
花苗「うるさい!!飛び降りるんなら先に行ってよ!後なんで回ったの!!?落ちてる時!」
泡「…別に理由はねーよ」
花苗「カッコつけただけって事かこの中学生!吐くかと思った!!」
泡「中学行ってねぇよ俺!いいだろ別に間に合ったんだから!ほれ、ねえちゃんも無事だぜ?」
花苗が改めて陽子を見ると同時に陽子が花苗に飛びついた。
陽子「カナちゃーーーーーん!!!」
花苗「あだっ。」
陽子が頭突きした形になり、陽子の頭が花苗の花に直撃する。
花苗「…無事そうね。」
陽子「怖かったよう!家で寝てたのに起きたらこんなところに!!何が起こったの!!?」
泡「…火を用いた転送魔術だな。発動を見た人間を好きなタイミングでここに飛ばすってところか。」
泡が魔術師の方に向き直る。
泡「合ってるかい?“イサリビさん”?」
魔術師が少し間を置いて静かに話す。
魔術師「そんなに便利なものではない。移動距離を魔力で省略しているが、時間までは省略できない。あの街からここまでおよそ40キロ。徒歩でおおよそ10時間ほど必要だ。つまり、魔術にかかってから10時間は飛ばすことができん。」
泡「なるほど。まぁなんでもいいや。」
魔術師「…連合の手の者か?」
泡「おー、そうだぜ。魔術師団連合直属部隊“秘匿隊(オブスキュラス)”っつっても知らねぇだろ。」
魔術師、深くため息をつく。
魔術師「ふむ、初耳ではあるが、邪魔しないでくれると助かる。」
泡「できねー相談だな。」
魔術師も鋭い目で泡を見る。そしてその右手を上げる。

泡が腰のベルトの辺りの鞘からナイフを抜く。
器用にクルクル回した後、穂先を魔術師に向ける。
魔術師、疑問符を浮かべながら、上げていた右手の掌に炎の球体を作り出す。
魔術師「見た所、そのナイフに魔術は宿っていないようだが?」
泡「ああ?俺は真人間だぞ。魔術なんざ使えるわけねぇだろ。使いたくもねぇしな。」
花苗「…お父さんに使ってなかったっけ?」
泡「戦闘においては!だ!水差すなっつってんだろ。」

魔術師が低い笑い声をあげる。
笑い声は徐々に大きくなり、3人が魔術師の方を見る。
魔術師「クハハ…何かと思えば無能者だったか。連合もよほど人員不足と見える。」
魔術師「驚いて損したよ。では、君も燃やしてこの場を収めるとしようか。」
魔術師の掌の炎がぐにゃりと形を変える。
そして3メートルほどの人型の作り出した。
魔術師「『火兵(トルーパー)』。3人とも材料とする。捕らえろ。」
人型の炎がうねり泡の方へと駆け出す。
花苗が陽子を守るように抱きしめる。その前に立つ泡だけが悠々と立っている。
泡「ねえちゃん達、トラウマ喰らいたくなけりゃ今からしばらく目と耳塞いでな。」
言い終わると泡が前方に飛び出す。
人型の炎とぶつかり合う瞬間、その腕が泡を抱き締めるように絡め取る。
炎に包まれる泡。
花苗「泡くん!!」
炎がさらにぐにゃぐにゃと動き再び人型となる。先ほどに比べて腹の当たりが膨らんでいる。
魔術師「次だ。」
指示を出すと炎は花苗達の方にゆっくりと動き出した。怯えた表情の花苗と気を失う陽子。
炎の腕が花苗に伸びた時。
フォンという短い空気を裂くような音が響く。
遅れて、炎の腹の部分が裂けて、無傷の泡が何事もなかったかのように着地した。
泡「ぎゃっはは、それで?」
魔術師が目を剥いて泡を見る。
魔術師「何をした!?」
泡「別に大したことねぇだろ。ナイフを振って炎を切っただけだぜ。」
魔術師「切るだと!?炎を!?そんなことできるわけ…」
泡「できるさ。」
言いながら泡が数回ナイフを振るう。
すると、人型の炎は細切れになり形を保てず揺らいで消えた。
泡「ほらな。」
魔術師(…『火兵』が消えた?まさかナイフを振った箇所に真空を生み出しているとでもいうのか?そんなこと…無能者にできる芸当ではないぞ。)
魔術師が後ずさる。
泡「こんな立場だからよ。俺の雇い主は俺に魔術の一つでも教え込もうとしたんだ。」
泡「断ったけどな。」
泡「俺がなんで魔術を使わず魔術師(おまえら)と戦ってるかわかるかよ?」
泡「一つは、まぁ俺は復讐者だからよ。ぶっ壊したいほど憎んでる魔術を使いたくないんだわ。」
泡「もう一つ。」
泡がナイフで魔術師を指す。
泡「それだよ。」
泡「魔術に絶対の自信を持ってるお前らが、非魔術師に負ける時のその顔がよ。最高に笑えんだ。」
ニヤリと笑った泡に魔術師だけでなく後方の花苗も総毛立った。

魔術師が両手を前に出す。
魔術師「無能者風情がぁ!!」
魔術師「ならばこれならどうだ!!」
部屋を覆い尽くすほどの炎が現れる。
魔術師「この規模であれば掻消せまい!!」

泡「おっせえよ。魔術師風情が。」
一歩で距離を詰めた泡が魔術師の頭を掴んで押し倒す。
そしてその首筋にナイフを突きつける。
泡「最後に聞いときてぇ事がある。」
泡「廻星教って連中のことしらねぇか?」

魔術師「…知らない。」
泡「オッケー。なら用はねえや。」

魔術師「待て!待ってくれ!」
泡「あ?」

魔術師「ここは見逃してくれないか。私はこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。」
魔術師「復讐といったな。魔術師に大切な者を殺されたか?であれば、私を逃せ!私たち連合に属さない魔術師は連合が禁忌とする魔術も研究している!君が失ったものを取り戻せるかもしれないぞ。」
泡が手を止める。
魔術師がその反応を見てニヤリと笑う。

泡が高らかに笑う。
背後の花苗が心配そうに泡を見ている。

泡「なるほどおもしれーこと言うな。」
魔術師「そうだろう!連合の魔術師に尻尾を振るより建設的にだろう。もちろん君の復讐にも協力しよう!!」
突如、泡がナイフを降りあげる。
魔術師がヒッと短い悲鳴をあげる。
勢い良くナイフを首の横の地面に刺す。
泡「いらねーよ。俺の復讐は俺のもんだ。」
泡「8年だ。ウチの家族がてめーら魔術師共に殺されてから。家族を取り戻してーなんて感傷、もうとっくに消え失せたよ。」
泡「ぶっちゃけ恨みや怒りみてーなもんも残ってんのかわかんねー。」
泡「とは言えてめーらみてーな連中が人を殺してんのは我慢できねーのよ。」
泡「だから俺はお前らを殺すんだぜ。」
魔術師「やめてくれ!復讐は何も生まな…」

ヒュッと空を切る鋭い音が響く。
魔術師の首に赤い線が入り、一瞬置いて傷口と口から血が噴き出す。

泡、立ち上がり、ナイフに付いた血を払う。
そこで魔術師はもがきながら、なんとか手で抑えようとするが、
血はどんどん溢れ、そのまま地面に崩れ落ちた。
一目で致死量だとわかる量の血が地面に血溜まりを作っている。

一部始終を見ていた花苗。
陽子はその後ろで目を閉じている。
花苗「殺したの…?」
泡「ああ、言ってなかったな。魔術師共の法に拷問や拘束はないんだと。魔術の秘匿を暴くこと、非魔術師への被害は特に大罪だ。即死刑が原則らしいぜ。イカれてるだろ。」
泡「それにホレ。」
泡がナイフでホールの天井に近い壁を指す。
花苗がそちらを見ると小さく悲鳴を上げた。そこには首から下が真っ黒な炭となった人間が大勢磔にされていた。そのどれもが苦痛に泣き叫ぶ表情をしている。
泡「アイツらに生きてる価値なんかねぇよ。」

泡が陽子に近づき、手足の拘束をナイフで切り落とす。
泡が花苗の視線に気づく。
泡「そんな憐れんだ目で見るんじゃねぇよ。」
花苗「!! …いやその、ごめん。」
泡「ぎゃっはっは、構わねえよ。慣れてる。」
花苗「泡くん…」
花苗が何か言いかけたところで、後ろで陽子が目を覚ます。
花苗「陽子!!」
泡「おお、ねぇちゃん目ぇ覚ましたか。」
陽子「カナちゃん!火が!逃げて!」
花苗「もう終わったよ。」
泡「さて。」
泡がナイフをしまい、気を失った陽子を担ぐ。
泡「脱出するか。燃えちまう。」
花苗が辺りを見回すと、魔術師が残した炎が広がっていた。
花苗「うわー!」
悲鳴を無視して、花苗を肩に抱える。
そして、踏ん張ってから天窓から飛び出す。
花苗と陽子の悲鳴が響く。

公園に戻ってきた3人。
自販機で飲み物を買う花苗。
花苗「はいこれ」
陽子「ありがと」
受け取る陽子。
花苗「はい…」
泡「おー…」
ベンチに寝そべる泡。
花苗「大丈夫…?」
泡「2人は…存外…しんどかったぜ…」
息を切らしながら、サムズアップをする泡。
陽子「すごいねー!泡くん!スパイダーマンみたいだったよ!」
泡「ありがとよ…」
花苗「こちらこそ。ありがとう。」
泡「…は?」
花苗「いや、助けてくれたから…」
泡「あ…ああ、なんだびっくりした。」
花苗「でも、それだけじゃなくて。」
陽子「そうだね!ありがとう!」
花苗「いつもこんなふうに戦ってくれてるんでしょ?」
泡「……ああ、でもまぁ別に非魔術師を助けたいってより人を殺す魔術師を殺したいってだけだぜ?」
花苗「それでも。」
泡が後ろを向きながら、頭をかく。
照れている泡を見て花苗が笑う。
勢いよく水を飲み干す泡。ふうと一息つく。
そして立ち上がる。
泡「ねえちゃん達。」
2人が泡の方を見る。
泡「よーくわかったと思うが、魔術みてーな胡散くせぇもんは意外と身近にあるもんだ。そんで関わると碌な事がねぇ。気ぃつけろよ。気ぃつけようがねぇけどな。まぁそれでも巻き込まれたら…」
陽子「泡くんが助けてくれるんだよね。」
泡「どうだろうな。」
泡、空になったペットボトルをゴミ箱に捨てる。
花苗「泡君はこれからどうするの?」
泡「んー、一度本部に帰るかな。軍資金も尽きたし。そろそろ上の連中が今追ってる魔術師共の足取りを掴んでるはずだし。なんつったかな。十人会だっけか。」
花苗「また戦うんだ。」
泡「戦うんじゃねぇ。殺すんだよ。人に害をなす魔術師共が消えるまでは。」
花苗「また会えるかな。」
陽子「そうだね。魔術のこともっと聞きたい!」
泡「そりゃ無理じゃねぇかな。」
2人が不満の声をあげかけたところで、泡が2人にピンポン玉のようなものをトスした。
花苗がそれの正体に気がついた瞬間、ピンポン玉が2人の顔の前で爆発し2人が気を失った。
泡、スマホを取り出して電話をかけながら公園を去る。
泡「あーもしもし警察ですかー?なんか○○公園ってとこで、女の子が2人寝てるんだけどー。」

朝。制服姿で戯れながら投稿する花苗と陽子。
そこにクラスメイトが話しかける。
クラスメイト「アンタそういや、“イサリビさん”見たっていってなかったっけ?」
不思議そうな顔をする2人。
花苗「何それ?」
陽子「知らない。」

その様子を電柱の上で見ている泡。
泡「せいぜい道を踏み外さないように祈って生きろ。」
誰もあぶくには気がつかない。

泡のスマートフォンが鳴る。
画面には『ロゼ』と表示されている。
泡通話ボタンを押す。
泡「おーどうしたおっさん。手がかり掴めたかい?」
電話口のロゼ『うん、なんとか。って言うか君今どこいるの!?何日も帰ってないらしいけど!』
泡「九州。」
ロゼ『九州!?なんでそんなとこに!?』
泡「いやネットで魔術師っぽい噂見かけたからよ。ほんで昨日ぶち殺しといたぜ。」
ロゼ『ええ!?ちょっと勝手な…』
泡「あ、それよか金無くなっちまってよ。足代送ってくんない?」
ロゼ『もー!』
泡『あと土産代も。』
ロゼ『図々しいな君!!』
と電話で話しながら、周囲に人影がなくなったのを見て電柱から飛び降り、
話しながら去っていく泡の後ろ姿。

『魔術』
『魔力という未知の力を用いて、超常に近い現象を起こす技術』
『それは確かにある』
『平和維持、神秘性の保全、人種差別の危惧など様々な観点から隔離・隠蔽されている』
『しかし、その思想に叛き、魔術を用いて文明社会を脅かす者達も一定数存在する』
『この日本における年間8万人超の行方不明者、1000件近い未解決事件、さらに認知すらされないそれらの大多数は魔術師による犯行だとされているのだ』
『魔術を知らない者たちの法制で裁くことができない彼らを』
『魔術の秘匿という魔術界最大の禁忌を犯した彼らを』
『必殺という形で刑を執行する者たちがいる』

『これは』
『魔術師専門の殺し屋たちの戦いの物語である。』
タイトル『ミスティック・キラー・ドールズ』(仮)

【1話 了】


























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花苗の親友の陽子がある時『イサリビさん』を目撃してしまう。
怯える陽子。半信半疑ながらも陽子を慰めるため一緒に行動する花苗。
多少ウザいなと感じてる花苗だったが、バイト終わりの夜道を走る。駅近くの地下通路に差し掛かったところで、ふと壁に目がいく。そこにはスプレーで『ヒトダマ見た奴 ココに電話↓』
と携帯電話の番号が書かれていた。趣味悪と思いながらも、写真を撮る花苗。
次の日、例の番号を陽子に見せたところ、すぐに電話をかけ始める陽子。
電話口から若い男の声が聞こえる。1人で来てねと念を押す電話口の声。
駅前のファーストフード店出待ち合わせをすることになった。花苗は陽子を心配しついていく。

待ち合わせの席に着く2人。
警戒して会話をしているととなりの席の少年に声をかけられる。
泡「ねえちゃんたちが電話したのかい?」
泡と情報共有をする。

まだ都市伝説の域を出ないと、言いながらも泡は自身が魔術による犯罪を追う者だという。
花苗は完全に泡を警戒し、陽子を連れて店を出る。

手を繋いで夜道を歩く陽子と花苗。人気がない所を通りかかった時、突然陽子の体が発火する。炎が花苗の手に燃え移る瞬間に陽子が花苗の手を振り払った。

そこに駆けつけた2人の後を追ってきた泡。

陽子の身体が燃え尽きて消える。
取り乱し涙を流す花苗。

陽子がまだ死んでいないことを示唆する泡。
「確かに燃えたが肉が燃えた匂いがしねぇ。あれはただの炎じゃねぇよ」
ようやく泡の話を聞く気になった花苗。
「魔法でも魔術でもなんでも信じてやるわよ。その代わり絶対陽子を助けて」

場所を変え話す2人。
この街で人攫いをしているのは魔術師。泡は魔術師による犯罪を抑止する存在。また、その力を手に入れたこと。(これで花苗は泡も魔術師だと勘違い)
炎は燃やすためのものではなく、燃えた物を転移させる魔術である可能性が高い。
それは泡の家族をさらった魔術と似ており、泡も高揚する。

手を離したことを後悔する花苗。それは両親と共に攫われ死体で見つかった泡の妹を思い共感させた。

「『イサリビ様』が実際に燃えている人だったなんて」
花苗の呟きに泡が感づく。
「俺とアンタも『イサリビ様』を見たことになるんじゃねぇか?」
と言う段階で2人の体が発火し始めた。

2人は気がつくと廃墟の教会のような場所にいた。
手足には炎でできた縄のようなものが巻き付いており、縛られている様子だった。
奥から悲鳴が聞こえ2人が同時にそちらを見る。悲鳴の主は同じように縛られ、その上、磔にされた陽子だった。

「君は次だ。静かにしたまえ。」
磔の前に立つ男が、静かな口調で言う。
手をかざすと、陽子の横で磔にされていた全身が火傷に覆われている男子生徒が、悲鳴をあげる。内側から発火するように燃えて、男子生徒の体は消し炭となった。
その隣に同じ姿勢の焼死体がずらりと並んでいるのに気がつく泡。

涙を流す陽子。
男は花苗と泡に気がつく。
花苗と陽子が友人であることに気がついた男は、同じ炎で燃やすことで、一つの死体にしてやろうと低い声で言う。
その瞬間泡が手足の拘束を解いた。恐ろしい目で男を睨みつける。
手には鋭いナイフが握られている。
秘匿部隊を名乗る泡。
男に飛びかかるが炎の壁で阻まれる。

魔術で戦うよう叫ぶ花苗に
「ぶっ壊したいほど魔術を憎んでる俺が魔術なんて使えるわけねぇだろうが」
と泡の叫び。
嘲笑し炎の塊を放つ、男に対して目にも止まらない速さで炎ごと男の両手を切り落とす。
悲鳴をあげる男とそれを組みしく泡
「○○って街で殺しをしたことがあるかい?」
否定する男の喉元をナイフで刺しとどめを刺す。

殺したことを糾弾する花苗。
「魔術師ども法に監禁や拷問はないんだと。まぁそもそも俺が生かして置く義理はないし
」周囲の焼死体を視線で指す。
「生かしておく価値もねぇよ」
憎々しげに表情を歪める泡。

泡、スマホを取り出し電話をかける。
何かしら会話をした後、スマホをスピーカーにする。
「ねえちゃんたちこれ聞いて。」
と言いながら、耳を塞ぐ泡。
『忘。睡。』
電話から聞こえた声で、花苗と陽子が意識を失う。

花苗と陽子が下校をしている。
友人が話しかける。
「アンタ『イサリビ様』見たって言ってなかったっけ?」
疑問符を浮かべる2人。
その様子を電柱の上で見ていた泡。
「せいぜい道を踏み外さないように祈って生きろ」

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