没プロット『スーパーマンズ・デッドエンド』

1話

薄暗い研究所。
大量の機材に囲まれた中央に、白衣の猫背の老人。
老人は部屋の中央にある巨大な装置を拝むように見ている。
機材には大量のケーブルが繋がった何かがあった。
老人「ようやく完成したぞ…!!“指定した任意の人間を消し去る装置”これで私は理想郷を作るのだ!!」
叫んだ直後に、老人は苦しそうに胸を抑える。
老人「そんな…」
老人はそのまま血を吐き倒れた。

『老人の名は我那原松造(ガナハラショウゾウ)。世界終末論を唱え、学会を追われた悲しき博士。彼は遂に自信を認めなかった者達を消し去る装置を作った。』
『しかし、装置完成の直後。』
『彼は病によりその生涯を閉じた。』

『残された装置〈SNS-18〉は世界の破滅こそ産まなかったものの、争いの火種となった。』
『装置を破壊しようとする者達。抑止力として所持しようとする者達。私欲の為に利用しようとする者達ーー。』
『やがてそれは世界規模となり、各国が秘密裏に研究・所持していた“超人”たちさえも導入した過去に類を見ない“戦争”へと発展した。』
『さらに戦争の過程で超人たちは国家の手を離れ、正義の軍団、悪の軍団、中立の者たちに別れ、戦争の中心となる。』
『超人たちの力は拮抗し、僅かな差引はあったものの決定的な変化はもたらさず、』

『戦争は20年にも及んだ。』

『しかし、戦争は予期せぬ形で終結を迎える。』
『それから3年。』



瓦礫に腰掛けあくびをする目元を黒いペイントで覆ったギザ歯のロングコートの大男。
片手には吸いかけのタバコ。
画面が引くと焼け野原となった銀行の残骸。
マスクを被った子分たちが、袋に詰めた札束を盗み出している。

「相変わらず、前時代的なことをやっているな。ボムラッシュ。」
ボムラッシュと呼ばれた大男が立ち上がりながら期待に満ちた目で振り返る。
そこには一人の警察官が立っている。
今にも戦いが始まりそうなピリついた空気。
ボム「よォ、元ヒーロー。1人かい?お仲間はどうした?」
警察官「はっはっは、そうだね。みんな遅くて。僕は能力なんて使っていないのに。」
警察官が帽子を脱ぎながら、からからと笑う。
金色の髪に碧眼、屈強そうな体躯に爽やかな顔つきだ。
それを見てボムラッシュは再びつまらなそうに瓦礫に腰掛け直した。
ボム「ご苦労なこった。楽しいかよ。平和維持ごっこ。」
警察官「…手厳しいなぁ。ちゃんと警察官してるよ。今日だって幼稚園の交通安全集会で大忙しだったんだぜ?」
呆れるように煙を吐くボムラッシュ。
ボム「マッハ3で走る人間に気をつけましょうってか?スピードスター。」
スピードスターと呼ばれた警察官はボムラッシュの向かいの瓦礫に腰を落ち着ける。
スピード「マッハ4だよ。全盛期はね。」
スピードスターが寂しげに答えながら右手をあげてひらひらと振る。
その手には小さなブレスレットのようなものがある。
スピード「今はこれのせいでただの人同然だよ。」
ボム「能力使うと死ぬんだっけか。」
スピード「そんなところだよ。」
スピードスターがボムラッシュのタバコを指差す。
スピード「それ、1本くれない?」
ボム「……」
ボムラッシュがポケットに手を入れ、タバコを取り出しスピードスターに向ける。
スピードスター慣れた手つきで一本手に取り咥える。
タバコの先端が小さく爆発し、火がつく。
スピード「ありがとう。相変わらず便利な力だね。」
ボム「…ふん」
瓦礫を眺めながら、2人タバコを噴かす。

ボム「いいのかよ。お前、警察官だろ。俺捕まえなくて。」
スピード「交通課だからね。」
ボム「ハッ、お役所だな。」
スピード「元ヒーローは何かと制限が厳しいんだよ。僕も職を失うわけにはいかないからね。」
ボム「…つまんねぇな。」
スピード「………。」

ボム「大戦が終わって3年か。」
スピード「そうだね。」
ボム「つまんねぇ終わり方しやがって。」
スピード「…それには同意だよ。まさか…」

ボム「ああ、まさか、兵器の使用期限が切れるとか。」
スピード「再充電まで6億年とか言われた日には笑うしかなかったよね。」
スピード「それからあれよあれよとヒーローズは解体、安全保持のために能力使用制限がかかるわ、それまで英雄扱いで散々持ち上げてきた連中がいきなり手のひら返すわでヒーローたちの立場は世界の隅に追いやられた。」
ボム「お陰で俺たち(ルビ:ヴィラン)も戦う相手がいなくなってこういうケチな商売で稼ぐしか無くなったわけだ。」
ボム「全く。つまんねぇな。本当に。」
スピード「…平和なのはいいことだよ。」

??「それは君の本心ではない。」
突然の背後からの声に2人が振り向く。
そこには細身のスーツ姿の若い男が立っていた。
ボム「にいちゃん誰だい?」
男「そうだろう。スピードスター。今の平和は君が求めていた平和とは違うはずだ。」
ボムラッシュの言葉を無視して続ける。
男「少なくとも僕はそう思う。だってそうだろう。能力があるものが腫れ物扱いされ、存分に力を振るえない世界。そんなものが正しいはずがない。」
ボムラッシュの周囲に複数の火の玉が浮かび、それらが男の周囲を囲む。
ボム「無視たぁいい度胸だな。もう一度だけ聞いてやる。」
ボム「にいちゃん。誰だい?」
ボムが指先を男に向けると、火の玉が男に近づく。
男「失礼した。僕の名前は黒須。君たち超人を救いたいと願う者だよ。」
ボム「救うだと…?」
黒須「…これ消してくれないか?名刺を渡したいんだが。」
黒須が火球を指差す。
ボムラッシュが訝しそうに黒須を睨みつける。
スピード「ボムラッシュ。」
スピードスターの言葉にボムラッシュが渋々火球を消す。

スピード「僕らを救いたいと言ったが、君は政治家か何かかい?」
黒須が2人に近づく。
黒須「いいや。僕はこういう者だよ。」
名刺を差し出す。
『フォー・ザ・スーパーマンズ・カンパニー、CEO 黒須創也』
黒須「新興の会社だから知名度は大したことはないが…一応代表をやらせてもらっている。イベントの企画運営を主に行っている会社だよ。」
ボム「イベント会社の社長さんがどうやって俺らを救うってんだよ。サーカスでもやろうってか。」
黒須が目を輝かせて、ボムラッシュの手を握る。
黒須「その通り!!」
黒須「正確にはテーマパークだ!超人たちの人間離れした力!ヒーローの頼もしさ!ヴィランの恐ろしさ!それらを楽しむための巨大なテーマパークを作る!!園内での超人たちの能力の使用制限は無い!人々は君たちを賞賛し、恐れ、尊敬するだろう!!まさに超人のための“楽園”!!世界が再び、君たち超人を求める世界が訪れるんだ!!」
超人2人はそれぞれ過去の栄光が頭をよぎり、心が高揚するが、すぐに我に帰る。
ボム「馬鹿らしい!俺に客寄せパンダをやれってか!!」
スピード「…能力の使用制限はないと言いましたが、我々ヒーローは国と契約を結んでいます。そう簡単には実現できないと思いますが?」
黒須がスマートフォンを取り出す。
黒須「はい、だから、現在超人を所有している180ヶ国と超人の引き渡しの約定を結んだ。多少手間取ったが…やはりどこの国も平和な世界で強大な力を持て余しているようだ。先程、締結が済んだよ。」
黒須がスマホの画面を2人に見せる。
2人は画面を覗き込み、驚いた表情を浮かべる。
黒須「ただし、自由意志という形でだが。つまり、スピードスター。君が望むのであれば、その腕輪はいつでも外せる。そして再び人々からの歓声を浴びるんだ。」
寂しげだったスピードスターの目に希望の光が宿る。

ボムラッシュが唾を吐く。
ボム「くだらねぇ!俺は興味ねぇぞ!?元々俺たちは好きに力を使ってるんだ!」
黒須「これがかい?」
黒須が手を広げ、周囲の瓦礫を指し示す。
黒須「こんなケチな商売で君の素晴らしい力は満足していないだろう。」
黒須がボムに顔を寄せる。
黒須「言っただろう。僕が作りたいのは“楽園”だ。君にとっての楽園とはどこだ?“ヒーローとの戦場”じゃないのかい?」
ボムラッシュが僅かに反応する。
黒須「多くのヒーローが僕の元に集まる。もちろん多少のルールは設けさせてもらうが…“限りなくあの戦争に近い戦場”は用意できるつもりだよ。お互いが能力を限界ギリギリまで振り絞った戦い…それがいくらでも実現できるんだ。どうだろうか?」
ボムラッシュ、黒須の言葉を受けて大声で笑い始める。
ボム「にいちゃん、いや、社長?人をのせるのがうまいじゃねぇか。」
振り返るボムラッシュ。
ボム「おい!部下ども!俺は1抜けだ!!やることができた!」
金を運んでいた部下たちがオロオロと慌て出す。

黒須も笑みを浮かべる。
黒須「車を用意してある。これから我が社で詳細を話せたらと思うが、いいかな。」
2人の表情で肯定を察した黒須が振り返って歩き出す。
超人2人はその背について歩き出した。



巨大なテーマパーク。各エリアでアナウンスや実況、マスコットの声が響き渡る。
『【パニックタワー】!!トラップやヴィランの猛攻を乗り越えて最上階のゲストを助け出せ!!スピードスターが新記録を更新だー!!』
『【スーパーマンズ・ブリーフィング】は13時から!倍率百倍以上の抽選を勝ち抜いた強運なみんな!中央広場に集まれ!!今回の超人は〈不死身の女エリクサー〉、〈当園の屋台骨カーペンター〉〈難攻不落バリアマスター〉をはじめとしたチーム裏方だ!渋いぜ!!写真とサインは一生の宝物にしろよな!!』
『【エレメント・ダンサー】水地火風それぞれを操る4人の超人による体験型ステージ!!大自然の四重奏に酔いしれろ!!』

どのエリアも人で溢れかえり、歓声を上げる者、涙を流す者、グッズを身につけ記念撮影をする者たち大人から子供まであらゆる世代がテーマパークを満喫している。

テーマパークの外観。
煌びやかな文字で書かれた『スーパーマンズ・パラダイス』の文字。

興行は大成功した。
初年度の入場者数は2000万人を超え、既に全世界10ヵ所に支部ができることが決定していた。

中央にある巨大な円形ステージ。
向かい合う5人のヒーローと5人のヴィラン。
『メインステージ【コロッセオ】では5対5のヒーロー対ヴィランのガチマッチ!!強敵ボムラッシュを止めるヒーローは現れるのか!!!』
ステージ内部は市街地を模した構造になっており無人の建物が乱立している。

それらの建物を破壊しながら戦う双方。
ボムラッシュが火の玉を爆破させながら先陣を切る。
邪悪だが心からの笑顔。



広い円卓のようなデスクがあるオフィスビルの高階。
円卓にはそれぞれ、代表格の超人たちが座っている。
その一席で瓶酒を煽りながら、大声で笑うボムラッシュ。
ボム「ぎゃっはっは!!今日も勝った!!」
若いヒーロー「全くボムさん、手加減してくださいよ!ヴィランズこれで8連勝じゃないっすか!!ヒーローの立つ瀬がないっすよ!!」
ボム「ああ?誰がそんなつまんねぇことするか。実力で勝ってみやがれ!!」
上機嫌のボムとため息をつく若いヒーロー。
円卓の一席に座ったエリクサーがふふっと笑う。
エリクサー「そうよ。あんた気合いが足んないのよ。私がいる限り怪我は直してあげるし、全員死ぬことはないんだから。死ぬ気で行きなさい。」
若いヒーロー「エリクサー姐さん手厳しいっすー…」
ボム「ところでテメェはコロッセオにでねぇのかよスピードスター。テメェが出てくりゃ今よりいい勝負になりそうなんだが。」
スピードスター「僕のスピードじゃ常人は目で追えないから観客が楽しめないだろ。接触系や救助系のエリアの方が合っているよ。」
ボム「ケッ、まぁそれなら今シーズンもこっちが勝ち越すだけだ。なぁ社長?」

窓をバックにした1番奥の席に座った黒須。
黒須「そうだね。ヒーローズにも頑張ってもらわなければね。期待しているよ、忍(しのぶ)くん。」
忍と呼ばれた若いヒーローは敬礼をしながら満面の笑顔。
忍「うっす!頑張ります!」

黒須「さて、みんな。今日はオフィスエリアまでご足労ありがとう。今月の定例報告会だ。橙子さん。」
黒須の傍に立っていた。気の弱そうな女性が慌てたように返事をしながら、タブレットを手に取る。読み上げると同時に、円卓の中央に巨大なホログラム、各席の前にも同じものが小さく浮かび上がる。
橙子「我が社、『フォー・ザ・スーパーマンズ・カンパニー』が手がける“超人エンターテインメント事業”が形になり、『スーパーマンズ・パラダイス』開園から本日でちょうど1年となります。」

橙子、スイッチングしてホログラムを切り替える。内容はグラフやテキスト。
橙子「ええと、初年度の入場者は2000万人を超え、利益剰余は30億ドル、株価の上昇率は1500%と記録的な数字を記録し、なお上昇しております。」

ボム「難しい話は…」
忍「わかんねぇっすね」
しかめっ面のボムラッシュとけらけらと笑う忍。

橙子「ははは…ですよね。すみません。簡単に言うと…“大成功!引くほど儲かりました!”と言う感じです!」
ぐっとガッツポーズをする橙子。
はははと困ったように笑う黒須。

橙子「さらに!ニューヨーク、オーストラリア、上海、シンガポールへの支部の企画も進行しております!!」
おおーとヒーローたちから歓声が上がる。

黒須「その辺は追々、説明いていくよ。視察や説明会も増えると思うが、頑張ってくれると嬉しい。早速私とスピードスターは明日午後にメディア向けの会見がある。よろしく頼むね。」
スピード「了解だ。ボス。」

橙子「あとは各エリアと皆さんへのご意見とご要望をまとめたものですね。各々にお送りいたしましたので、確認しておいてください。」

つつがなく会議は進んでいく。



時間は飛んで、巨大なオフィスから外に出るヒーローたち。
伸びをするボムラッシュ。
ボム「ったく、この毎月この長ったらしい会議はなんとかなんねぇのか。」
忍「普段好き放題やってんだからこのくらい我慢しましょうよ。」

ボム「つっかれたぜー…ヨォ、オメェらこの後、1杯どうだ。」
ボムラッシュ、くいっと酒を飲みにいくジェスチャーをする。
数名の超人が賛同しボムの元に集まる。
忍「是非是非!!姐さんとスピードさんもどうです?」
エリクサー「あたしは遠慮しとくわ。この後ちょっと用事があってね。」
ボムラッシュが顔を顰める。
ボム「お楽しみもいいが、程々にしとけよ。」
エリクサーがせせら笑う。
エリクサー「関係ないでしょ。何かあっても会社がもみ消してくれるんじゃない?あたしたちを失うわけにはいかないんだから。」
スピード「オフィス周りで滅多なことは言わない方がいいよ。」
スピードスターが不穏な空気を割るような快活な声で言う。
スピード「僕も遠慮しておくよ。明日は会見だからコンディションは完璧にしておきたいからね。」
ボム「ふん、完璧主義者め。」

オフィス前に送迎用の豪華なバスが待っている。
運転手「みなさん。住居エリアへに向かうバスはこちらです。必要な方はお乗りください。」
超人たちがバスに乗り込んでいく。
スピードスターはお先!と言いながらダッシュで去る。


楽しそうに酒を飲む超人たち。
トレーニングをするスピードスター。
暗い部屋で恍惚な表情で舌なめずりをするエリクサー。



会見の会場。
記者たちとその手前に立つスピードスターと黒須。
黒須「海外4支部に関しては、日本支部と同様、巨大な人工島に施設を作り、超人たちの住居エリアから、オフィスエリアも全て島内で完結させる予定です。こちらは来場者の没入度を高める目的の他、安全性と秘匿性を向上させる機能的な構造となっております。」
黒須「開場は半年後を予定しており、超人たちはシフト制で各国で活躍してもらう予定です。」


配信画面を見ている楽屋の超人たち。
ブラックソードを生で観れる!!!??
儲かってんなSP!!
早くきてくれ!超人たち!
半年後??過労死すんなよ??
など、さまざまなコメントが流れる。そのほとんどが喜びの声。
超人1「マジかよ!家族はどうすんだ?」
超人2「現地妻作り放題じゃねぇか!」
2人を引っ叩くエリクサー。
エリクサー「余計なこと言ってんじゃないの。」
超人1「へへへ。すいやせん。姐さん。」
エリクサー「あんたたちそろそろ出番でしょ。ほら。」
エリクサーが差し出した手のひらが光る。
『治癒力付与(エリクシール)』
2人がその手に触れると、2人の体を光が包み、やがて光は体に吸い込まれた。
エリクサー「ホラ、行ってきなさい。怪我してもなんなら死んでも、1時間もすれば元に戻るわよ。」
超人2「毎度思うんですけど、姐さんみたいに一瞬で傷が治るようにはできないんですか。あと痛いのもやなんですけど。」
エリクサー「バカね。そんなことしたら血も苦悶に歪む表情も見れないでしょ。客が何を観にきてると思ってるのよ。臨場感よ。臨場感。キャストとしての自覚持ちな。」
超人1「うへー…」
ノロノロと控室を出ていく超人たち。


再び会見のシーン。
記者「超人たちの体調や生活は大丈夫なのでしょうか。」
黒須がチラリとスピードスターを見る。
それに気がついたスピードスターは、ウインクをして再び正面を向く。
スピード「それについては気にしないでくれ。私たちはそんなにヤワではないし、社長を含めて我が社のスタッフたちが万全のサポートをしてくれている。」
スピード「何よりファンの笑顔を見ると疲れなんて吹っ飛ぶさ。私も、みんなに会えるのを楽しみにしているぜ!!ぜひ会いにきてくれ!!」
爽やかな笑顔のスピードスター。


配信。
スピードスターを称賛するコメントが高速で流れる。
それを観ていたエリクサー。
エリクサー「相変わらず優等生やってるわね。広告塔さん。」
突然、エリクサーのスマホが鳴る。
画面を確認してエリクサーの表情が曇る。
それに気がついた他の超人が話しかける。
超人「どうしたんすか?エリクサーさん。」
エリクサー「なんでもないわ。」
スマホを強く握りしめるエリクサー。



夜。閉園するスーパーマンズ・パラダイス。
コミカルな動きをするマスコットキャラクター。
マスコット『みんな!!今日もありがとな!!楽しんでくれたかい?夢の時間はここまでだ!!気をつけて帰れよ!!そして、また来てくれよな!!』
帰っていく客たち。



夜。車の後部座席に座る黒須とスピードスター。
黒須「さっきは助かったよ。エディ。」
スピード「コスチュームを着ているときはスピードスターで頼むよ。」
黒須「おっと、そうだった。すまない。」
スピード「さっきというのは?」
黒須「会見の時さ。あの記者は他のイベント企業の回し者だよ。我々のネガティブ・キャンペーンをしたかったのだろうが、見事に失敗したようだ。」
スピード「あれは社長の指示だろう。」
黒須「それでも君は100点以上の返しをしてくれたよ。本当に私は君たち超人には感謝してもし切れないよ。」
スピードスターが真剣な顔で黒須の顔を真っ直ぐ見る。
スピード「それはこっちのセリフだよ。社長。君はやりがいも目標も何もかもを失っていた私たちを導き、以前のような栄光を取り戻させてくれた。」

スピード「社長。君は私たち超人を生き返らせてくれたんだ。」
スピード「だから私は…」
言い淀むスピードスターと言葉を待つ黒須。

スピード「私は、私たちと君の楽園を守るためならなんだってするよ。」
黒須「どういう意味かな。」
スピード「最近、超人たちがかなり羽目を外しているのは知っているだろ。それこそちょっとした悪行から、完全な犯罪行為をおこなっている者もいる。戦争時代から素行の悪い連中はいたが、一度返り咲いたことで完全にタガが外れてしまっているんだ…!」
黒須「…ああ。」
スピード「社長がそいつらを裁けないことを奴らはわかってるんだ!」
黒須「…そうだろうね。」
スピード「だったら代わりに私が…!」
黒須「スピードスター。」
スピード「!!」
黒須「君は今ヒーローであると同時にエンターテイナーなんだ。あまり物騒なことはしないでほしい。」
黒須「彼らだって、気がついてくれるさ。この楽園がとても脆いということに。」
黒須「それまでは私はいくらでもケアはするつもりだよ。」

スピード「社長。何かあったら私を頼ってほしい。私は君に返しきれない程の恩があるのだから。君のためならいくらでも泥をかぶる準備はできている。」
黒須「…ありがとう。覚えておくよ。」



夜。社長室で1人佇む黒須。
黒須「ようやくここまできた。」
黒須「スーパーマンズ・パラダイスは世界的な大成功。超人たちは金も名誉もプライドも取り戻し、再び表舞台へと舞い戻った。」
黒須「ようやくだ。」

※このシーンない方がいいかも?
黒須が立ち上がり、社長室の壁にある会社のシンボルマークの隠しスイッチに触れる。
壁が割れて隠し部屋が現れた。
そこには各種ヒーローの情報が壁一面に張り巡らされている。その中央に置かれたデスクにある写真立て。家族と共に写る少年の写真。
写真を取り出すと、火を付け灰皿の上に置く写真が燃え尽き、灰になる。
黒須「悪いねスピードスター。君が泥を被るのはまだ先だ。」
黒須「ようやく。僕の復讐がはじめられる。」
黒須の目に強い憎しみの色が灯る。
顔を上げると、とあるヒーローの情報を見上げる。
黒須「まずは君からだ。」



夜の閉園したスーパーマンズ・パラダイス。
明かりはついておらず、人の気配もない。
いつもの煌びやかな装いは影を潜め、闇に包まれている。

そこを歩く人影が一つ。
キョロキョロと周囲を確認しながら、真っ暗な施設を歩いていく。

とある場所で立ち止まる。
ここで人影の正体がエリクサーだとわかる。
エリクサー「ねぇ!約束通り一人で来てやったわよ!出てきなさいよ!」
手元にはスマートフォンが握られている。

エリクサーの背後にあった巨大なモニターに電源が入る。
そこには人影が見えるが、画面が暗く、何者かまでは判断できない。
人影『よく来てくれた。エリクサー。』
エリクサー「あんた誰?こんなところに呼び出しておいて!何が目的!?」
エリクサー(…男の声?)
人影『送った映像は見てくれたかな。』
エリクサーは答えない。
モニターの映像が切り替わる。
そこには、暗い部屋で、拘束された男に刺し傷を負わせるエリクサー。絶叫する男を恍惚な顔で見つめたの血に傷を癒す。次の器具を手に取る。

人影『全く悍ましいな。君の【不死】はそのようなことのために使う代物ではないだろうに』
映像が切り替わり、暗い画面。
マスコット『エリクサー。君が若い男を数人囲って、不死を付与した上で何度も何度も死ぬまで痛めつけているのは知っているよ。この楽園ができてから1年。何人の男を壊した?』

エリクサーの口元が歪む。
エリクサー「知らないわよ。そんなの。」
エリクサー「おもちゃがいくつ壊れようがあんたに関係ないでしょう。」
エリクサー「何?そんなことで私を脅してどうするつもり?お金?いいわよ好きなだけあげるわ。言っとくけどマスコミへのリークとかはやめておいた方がいいわ。うちの会社がどれだけ力を持っているかは知っているでしょう?あんた消されるわよ。」

モニター越しの男が低い声で笑う。
人影『いやいや、お金はいらないよ。代わりに私と遊ばないか。君が勝ったら写真のデータも渡すし、このことは誰にも口外しないと約束しよう。』
エリクサー「……」
人影「もちろん君に拒否権は無いんだが。」

モニターの前にマスコットが落ちてくる。
マスコット「ハローハロー、エリクサー。上役の長ったらしい話も終わったようだし、ここからはオレが仕切らせてもらうぜ!!」

マスコットが芝居じみた動きで指を鳴らすと、モニターの後ろにあった施設に明かりが灯る。
いつものポップなデザインが狂気じみた様相に変わっており、
ネオンで描かれたテーマパークの名前も変わっている『スーパーマンズ・デットエンド』

エリクサー「…悪趣味ね。」
マスコット「アンタが言うかねサド女!!」
マスコット「アンタは基本裏方の回復担当(ヒーラー)だから参加するのは初めてか!?だがルールくらいは分かるよな?アンタが今回挑戦するゲームはコレだぜ!!【パニックタワー】!!!」
モニターの背後に立つ巨大なビル。
マスコット「災害現場に見立てたこのビルの最上階には逃げ遅れた一般人!!ヒーローは無事時間内に助けることができるのか!!!」
マスコット「ってのがいつもの口上だが、今ここは楽園なんかじゃねぇ!!ここは『スーパーマンズ・デットエンド』!!お前ら英雄の行き着く先の地獄だぜ!!」
マスコット「用意されたトラップは全て致死級!!いつもの10倍!!危険度MAXの地獄の塔を登り切ることができるかな!!!?」
マスコットがエリクサーを指差す。
つまらなそうにため息をつくエリクサー。
エリクサー「アンタたち、私の力をなめてない?」
そう言いながら、ビルに足を踏み入れるエリクサー。
途端眉間に銃弾が撃ち込まれる。銃弾は貫通し頭部を貫くが、エリクサーの足取りは緩まない。
それどころか傷口は瞬時に治癒した。血すら流れていない。

エリクサー「普段のあれがあたしの本気だとでも思った?」
エリクサー「あんなチンケな回復程度、オマケみたいなもんよ。」

もう一歩足を進めると回転鋸がエリクサーの首を通過したが、直後に首はつながる。
やはり血は流れない。

エリクサー「本気の私の治癒力は致死の傷すら一瞬で治す。ついでに痛みも感じないわ。」
エリクサー「約束通り、上まで上がればあたしの勝ちでいいのよね。」

そのままビル内の階段へと足をかける。

さまざまなビルを立ち止まることすらなく登っていくエリクサー。
エリクサー(…どこぞのマスコミかいかれた一般人かと思ってきてみたけど、施設を動かせている辺りこれは関係者による“粛清”…?)
エリクサー(…あたしの能力の全貌を知らない辺り、おそらく末端ね。データを奪って、あの男たちみたいに嬲ればこんなバカなことは考えなくなるかしら?)
悍ましい笑顔を浮かべるエリクサー。



屋上へと登り切ったエリクサー。当然のように無傷だった。

そこには黒い戦隊モノのスーツのようなものを着た男が立っていた。
男「早いじゃないか。さすがいい能力だねエリクサー。」
顔を隠し、声を変えているため正体はわからない。
エリクサー「あんた誰かしら?そんなコスチュームのやつは見たことないんだけど。」
前に進むエリクサーに再び銃弾のトラップ。弾は腹に撃ち込まれるが、ダメージはない。
エリクサー「だから効かないってのよ!しつこいわね!」

エリクサー「さて、会話を続けましょうか。アンタ誰よ。」
男は答えない。
エリクサー「善人気取りの元ヒーローってとこかしら。それとも一般人?」
エリクサー「あたしの“お遊び”を咎めたくてこんなことしたのよね?無駄よ。アンタが会社のどんな立場でも、あたしたちはこの会社の中核。今、あたしたちを失うわけにはいかないのよ。だから、あの程度のことはたとえ情報が漏れても会社がもみ消すわ。」
エリクサー「そんなことよりアンタもあたしと遊ばない?家出少女でも攫って死ななくすれば好きにいたぶれるわよ。傷を負う痛みと再生の快楽で、うまくやらないとすぐに壊れちゃうけど。どうかしら、悪い提案ではないんじゃない?」

男「どうでもいい。」

そう言った直後、エリクサーの視界がぐらりと揺らぐ。
そのまま、力無く地面に倒れ込む。

エリクサー「な…にを…」

男「君がどんなにゲスな遊びをしてようがどうだっていいんだ。それは君をここまで誘き寄せるための餌でしかないんだから。君たち超人の性根が腐ったままだと言う証拠にはなったがね。」

男「筋弛緩剤だよ。動けないだろ。」
男「君の【不死】は確かに驚異的な力だが、無力化するのは簡単だ。」
男「ずっと調べていたし、ここ1年しっかり見させてもらったからね。」

エリクサー(こいつ…一体…)

男「20年間続いた戦争、君はほとんど初めから参加していた。ならばあの戦争の真の姿も知っているだろう。」
男「世界の行く末を決める戦いだったのは最初の数年だけ。勝負がつかないことを悟った超人たちは、惰性と発散のために小競り合いを繰り返していた。」
男「お前たちは戦争に託(かこつ)けて、街を破壊し、人々を徒に巻き込んだ。」

男「君も3年目以降は市街地での戦闘の際に市民への不死の付与をやめていたようだしね。」
エリクサー「……!!」

男「僕は復讐者だ。君たち超人の戦争で住む街を、家族を友人を奪われた。だからこれから君たちの全てを奪おうと思うんだ。」
男がマスクを取る。そこにはエリクサーがよく見た顔があった。
男の正体は黒須だった。
目を見開き、何か叫ぶが、弛緩した身体は言うことを聞かず、うめき声だけが漏れる。
黒須「さあ、復讐者である僕は君を殺したいんだけど、生憎と君は【不死】だ。だから…」

黒須の背後に明かりが灯る。
そこには1機のヘリと穴だらけの人型の無骨な鉄の箱があった。
「君をこの箱に入れたまま、施設が管理している海洋施設の真下、深海200メートルの海底に沈める。陽の光さえ届かない闇の中で、君は生き返った側から水圧での圧死か溺死を続けることになる。死なないまでも殺し続けることはできるだろ。」
黒須が前に歩き出し、エリクサーに近づく。
怯えて目を見開くエリクサー。
黒須はエリクサーの前で立ち止まると、注射器を取り出し涙を流すエリクサーの首筋に刺す。
意識が混濁する。その中で、黒須の声が聞こえた。
黒須。「君はここの核だからね。君さえいなければ、他の超人たちを殺すのもかなり楽になるよ。一人一人しっかり苦しんで死んでもらうんだ。」

男が立ち上がる。
両手で顔を覆い、背中を丸めてゆする男。
男は醜い表情で高らかに笑い声を上げた。
男の復讐はここから始まった。
























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