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肺に穴が空いた話

中学、高校時代は横浜に住んでいたのですが、中学3年生の時のウソのような本当の話。

家から最寄りの駅まで歩くと13分くらい。雨が降っていなければ、自転車で駅まで行き、電車で50分、山の上にある学校まで歩いて10分、トータル1時間15分くらいかけて、私立の女子校に通っていました。

バスケ部だった私は、学校指定の皮カバン、スポーツバック、試合の前日はバスケットボールが3個入るバッグまで持ち帰る日があり、部活後の帰り道はヘトヘトでした。

ある寒い日の夕方、入りきらない大荷物を自転車のカゴに入れ、背中にもボールバックを背負いながらペダルをこぎはじめると、タイヤの空気がペシャン、となっているのに気がつきました。

駅から家に帰る、大通りから小道に入る手前に、「サガミサイクル」という小さな自転車やさんがあり、店の外には、10円を入れるとタイヤに空気を入れさせてもらえるちょっとしたコーナーがありました。

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大荷物でペチャンコのタイヤは運転がきついので、私はボールバックを肩からどさっと地面に下ろし、空気を入れてから家まで帰ることに。

カチャン、と10円を入れ、自転車のバルブに専用ポンプをギュッと押し込み、しっかりと空気入れのハンドルを握る。

ハンドルを胸元まで引き上げ、シュッ!っと勢いよくおろす。

「シュッ!」「シュッ!」「ポンッ!」

ポン?っという音と同時に、「グサっ」と刺されたような激痛が背中に走り、呼吸が出来なくなったのです。

かろうじてストローから息を吸うくらいの少ない酸素を吸いながら、どうやって家路までついたのか、記憶は定かではありません。痛みで涙と鼻水がダラダラと流れ、家に帰った時には顔はびしょびしょ。

洗濯物を畳んでいる母の顔を見ると同時に「お母さん、痛くて息が出来ない…」

めったに涙など流す子供ではなかった私の顔を見るなり、母は心配そうに

「あら!大変!じゃあ、お母さん、お医者さんの診察券出してくるから、まいちゃん、後で自転車で来てね


なぜ救急車を呼ばなかったのか

今でも不思議なのが、なぜ母はその時救急車を呼ばずに、先に自転車で病院に行ったのか、私にも自転車で病院まで来させたか、ということです。

自転車で行けば病院は7分くらいの場所にあった。私が今推測するに、「早く先生に診せなくては」「先に行って診察券を出しておかないと、すごい待たされる」という発想からだったのだと思います。そう、母の愛があってこその、「後で自転車で来てね」だったのです。というか、そうであって欲しい!

私も私で、痛すぎたあまり、「え?!自転車で?!」と疑問にも感じなかった。

痛みで息がうまく吸えない中、自転車を漕ぐ力もなく、サドルにまたがって片足で地面を蹴るようにして病院まで行ったのを覚えています。20分にも、30分にも感じました。


診察室。

レントゲン写真をマジマジと眺めて、先生は落ち着いた声で

「肺に穴が空いてますね。」

「え?穴って....」

私と母は、先生の言ったことが理解できず、怪訝な顔に。

「自然気胸、というんですけどね、肺の外側の膜に穴が開くために、肺が空気で押しつぶされて、…………ほら、ここまでしか肺がないでしょ?」とレントゲン写真を指差す。


そう、私の肺は、「シュッ、シュッ、ポンッ!」と自転車の空気入れで空気を入れたら穴が空いてしまったのです。


終わり。


追記。その後、体に傷は残ったものの、手術で肺は完治しています。

マイコ









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