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良いリブランディングと悪いリブランディング、明暗はどこに。GU第二創業期のリブランディングを振り返る


私が「クックパッド」から「GU」に転職した理由

私は今まで「なるべく多くの人の毎日の生活を、より豊かなものにする」という個人ビジョンを掲げて仕事を決め、取り組んできました。
「食のインフラ」となったクックパッド、「服のインフラ」といえるファーストリテイリング(GU)、「働くのインフラ」を目指しているタイミー。


生活のインフラとなりえるブランド例

大好きな「クックパッド」を卒業をする決意

※2008年〜2018年の約10年間勤めていました。

クックパッドでは、事業立ち上げ時から皆さんに知っていただけるようになったマスブランドになるまで、ブランドづくり、PR、事業グロースに約10年間尽力し、国内の月間利用者数は6600万人、海外の「クックパッド」の平均月間利用者数は3500万人、世界68カ国、22言語で展開される事業規模になりやり切った達成感があったこと、またちょうど私自身約10年勤め、お世話になった穐田氏が取締役を辞任した節目ということもあり卒業を決めました。クックパッドでの経験を活かして、私の個人ビジョンである「なるべく多くの人の毎日の生活を、より豊かなものにする」に向けて次に挑戦しようと思っていました。クックパッドが無名なサービスからマスブランドになったストーリーは事例を交えながら詳細に別の記事で書いていますので、ご興味がある方はぜひ過去の記事をご覧ください。

次の挑戦の場として「GU」を選んだ理由

次の挑戦の場としてファーストリテイリング/GUを選んだ理由は、ファーストリテイリングの考え方として「服のインフラ」という責任を果たしていくという柳井社長の想い(https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/ar2022.pdfで言語化され開示されています)に共感し、生活のインフラとなる事業ドメインで、グローバルで勝負している大手企業に身を置き、今まで培った経験、スキルを活かしてさらに多くの人に使ってもらえるインフラになるべく事業に貢献したいと思ったからです。

また、ファーストリテイリングの中でも「GU」を選んだ理由は、「モノを売る時代は終わり、服を着る価値を“コト化“するフェーズにきたので、生活領域の無形サービスでコト化のプロフェッショナルとしての実績を活かして、GUブランドをさらなるステージに持っていってほしい」というGUの柚木社長から熱い言葉をかけていただいたことがきっかけでした。

GU入社時の企業フェーズと課題

今回の記事は「GU」での経験からブランド・エクイティの本質についてお話ししてみたいと思います。
私がGUに入社した2018年頃は、GUは変革期でリブランディングを仕掛けていくフェーズでした。入社時のGUブランドの状況は、GUという「ブランド認知」はターゲットに対しては一定ある状況でしたが、「ユニクロの妹分(GUのブランドイメージがあまりなく特徴が伝わっていない)」「安かろう悪かろう」「洗練されていない」というイメージが、調査によって分かっていました。実際はファーストリテイリングとして縫製工場や素材工場を管理しているので質も値段以上に良く、ユニクロより安価でトレンド商品のラインナップがあることが特徴でしたがなかなか伝わっておらず、「ファッションをもっと自由に」というブランドの想いも、「自由=GU」というブランド名の由来も、世の中にはほとんど伝わっていない状況でした。
リブランディングの際には、以下のブランドコンセプト/提供価値、ブランドステートメントを策定し、現在(2023年10月現在)も使われています。

「GU」のブランドコンセプト/提供価値とブランドステートメント

【ブランドコンセプト/提供価値】
YOUR FREEDOM

自分を新しくする自由を。

【ブランドステートメント】
ちょっと服を変えるだけで、気分は変わる。
前向きな自分、なりたかった自分、見たことのない自分、誰だって、まいにち新しい自分に出会える。旬で心地良い服を。いまの気分で、もっと自由に。GUは、自由。

そもそも「リブランディング」には、ブランド・エクイティ観点でどのような効果や役割があるか

ブランド・エクイティ向上についてや各フェーズについては、初回の記事に詳しく記載があります。

企業フェーズ合わせた各ブランド・エクイティ活動

リブランディングをする理由

今まで、サービス/プロダクトを知ってもらうための「ブランド認知活動」、ブランドの認知と合わせて想起されるブランドイメージを醸成する「ブランド連想活動」に努めてきたブランドは、一定の顧客・ユーザーがついてきていると思います。しかし、ブランド・エクイティフェーズの③「ブランド品質」では、信頼・共感を生活者に実感されないと、併用やリプレイスされてしまう状況です。多くの企業がリブランディングをする時は、ターゲットに対してある一定のブランド認知と何かしらのイメージを持たれてるブランド連想活動をしてきて、「ブランド品質活動フェーズ」に注力している時に、固定の顧客・ユーザーがなかなか作れない状況(離脱されてしまう)や売上不振や鈍化から、サービス/プロダクトがターゲット層と合っていない、またはターゲット層が狭かった(まだまだ顧客・ユーザーを広げられそう)とデータや顧客・ユーザーの声などから気が付き、ターゲットを変えたい or 広げたいブランドイメージを変えたい時代が求めているものの変化や競合などの外的要因により提供価値を見直したいなどの背景があります。
リブランディングの効果、役割はこれらを変えることにあります。

リブランディングはどのようなタイミングでするのか

ゆえにタイミングはさまざまです。
PMF(プロダクトマーケットフィット)しておらず、固定の顧客・ユーザーがなかなか作れない状況(離脱されてしまう)が課題のブランドは、ターゲットにサービス/プロダクトが届いていないのか(ブランド認知)、ターゲットに届いているが興味を持たれていない(ブランド連想、提供価値の課題)、一定ターゲットに使われているが信頼・共感が薄く継続されていない、他と併用されていて機会が少ない(ブランド品質の課題)などがあり、これは企業フェーズでいうと創業期→事業確立期、事業確立期→成長期、成長期→変革期、変革期→第二成長期、それ以降の企業フェーズ全てであり得ます。PMFしているサービス/プロダクトの場合の多くは、変革期、第二成長期、ローンチから数十年経っているフェーズ(第x成長期)になると思います。
GUは、変革期のフェーズ、タイミーは第二成長期のフェーズでこの時を迎えました。

失敗するリブランディング、成功するリブランディングとは

失敗するリブランディングとは、例えば、「値段の割に品質が良い」ことを新たに伝えた時に、いくらCMやデジタル広告で「値段の割に品質が良い」と伝えても、実際に購入して使ってみて「1回洗ったら生地がシワシワになった、色落ちした」ということではブランドメッセージとの一貫性がなく、信頼も共感もされず固定顧客・ユーザーにはなりません。むしろ顧客・ユーザーは期待していた分裏切られた気持ちになり、ブランドへのロイヤルティは低下します。

成功するリブランディングは、ブランド認知を活かして、ブランド連想としてリブランディング時に策定した目標となる状態になるよう、一貫したブランド体験(BX)を構築できていることです。リブランディング時に策定した目標は、ミッションでもパーパスでも、提供価値でもブランドプロミスでもブランドコンセプトでもブランドメッセージでも、全従業員で共通認識が持て、実行に移せるのであれば、どのようにまとめても良いです。その企業に合わせた共通言語でなるべくシンプルで覚えられ、常日頃から口に出せるものが浸透しやすく、実行に移しやすいことをクックパッド、GU、タイミーで実感していますのでおすすめします。

一貫したブランド体験(BX)により、ブランド品質として生活者から共感・信頼が得られ、固定顧客・ユーザーが増えることで、結果、顧客・ユーザー数増や単価増/利用回数増、継続購入/継続利用、売上などの事業数値が向上する、成功するリブランディングになります。

「GU」で実際に実行したリブランディング戦略の一例

実際にGUでは、「自分を新しくする自由を」を新しく伝える時に、前述のような提供価値を策定し、各部署以下の内容を徹底し、その実態を世の中に伝えました。

「自分を新しくする自由を」を実現するには、以下2点が重要でした。

・手軽に新しいアイテムに挑戦できる
手軽というのは手に取りやすい価格はもちろん、EC等でのdeliverの速さ生活導線上でいつでも購入できるconvenienceも含まれます。これは商品部、MD部、EC事業部、出店計画部で担っていました。

・価格以上の質で、適度にキュレートされたトレンドアイテムを取り入れて安心してオシャレを楽しめる
商品は、価格以上の質(合わせやすさ、着やすさ、生地感、洗った後の状態等)で、世界五大コレクションのようなエッジが効きすぎたトレンドアイテムは日常着としては着れないが、適度にキュレートした(例えばパワーショルダーが流行っていたとして、肩部分にボリュームがありすぎないように、少しだけボリューム感を持たせたデザインにキュレートするなど)気の利いたトレンド商品にこだわりました。またこれらの着まわしやオシャレなコーディネート、著名人やオシャレな一般人に着てもらうことを増やす様々な施策によって、「いつもと少し違う新しい自分に挑戦できる」という実態に近づきます。これも商品部、MD部、マーケティング部、PR、店舗(営業部)の従業員で担っていました。

GUの事例からみる、成功するリブランディングを手繰り寄せるためのHOW

リブランディングで重要なことは、リブランディングして得ようとしているブランドイメージをただのイメージ戦略として発信するのではなく、実態(ファクト)として世に伝え、ブランドとしての一貫性を保つことです。

前述の通り、「手軽に新しいアイテムに挑戦できる」については、商品の金額、お店の出店計画、ECでのお届け日数を短くするなど、「自分を新しくする自由を」に合わせて各部で連携しながら実態をつくっていきました。

「適度にキュレートされたトレンドアイテムを取り入れて安心してオシャレを楽しめる」については、実際以下のような工夫をしていました。

価格以上の質(合わせやすさ、着やすさ、生地感、洗った後の状態等)
マーケティングやPR活動にとって、アプリやWEB上の商品ページにお手本コーディネートを載せたり、店舗スタッフのコーディネートをアプリ内や店頭で自動で見れるようにするサイネージ、お客様が投稿するUGCを増やす施策によってお客様のコメントをたくさん見てもらい、購入した後の状態など安心して新しい自分に挑戦できるように工夫していました。

・適度にキュレートした気の利いたトレンド商品
GUの特徴として「GU=トレンド・オシャレ」を打ち出し、展示会でのコーディネートや見せ方も著名なスタイリストに担当いただいたり、TV番組や雑誌、ファッションWEBメディアの露出を強化し、この訴求ができない露出は控えるなどのPR/プレス戦略を作り、実行していました。また世界五大コレクションでのトレンド情報と合わせてGU商品の特徴を紹介したり、ファッションインフルエンサーに独自のコーディネートを発信してもらったり、今までは身近な方として日本人が着用した商品画像やコーディネートしか出していませんでしたが、初めて外国人モデルを起用し、店頭ポスターやHP、SNSで使用する静止画をモード系雑誌を担当するカメラマン、商品を着用して動いた時の様子が分かるオシャレな動画をアーティストのMVを撮影しているクルーに撮影いただくなど、クリエイティブのイメージを刷新するマーケティングも強化しました。

GUのイメージが大きく変わったきっかけと事業インパクト

イメージが大きく変わったきっかけは、キム・ジョーンズ氏とGUのコラボレーション企画。自社ブランドであるkim jonesを復活させGUとコラボレーションしました。キム・ジョーンズ氏はLouis VuittonやDiorのデザイナーを歴任されていた方で、ファッションフリークの中では驚くべきコラボレーションとして話題になり、今までGUを扱っていただけなかったモード系ファッション誌やグローバルのファッション誌にも取り上げられました。また、世界的にも有名なコムデギャルソンのデザイナーである川久保玲氏が提案するコンセプトショップ「ドーバー ストリート マーケット ギンザ(Dover Street Market Ginza)」でもキム・ジョーンズ氏をはじめ、数多くの芸能人やインフルエンサーを招いたイベントを開催し、その露出によってGUのイメージが一気に「トレンド」「オシャレ」「ファッション」のイメージを高めていくことになりました。

このコラボレーションは、全国のGUのショップから「KIM JONES GU PRODUCTION」のアイテムが即完売になるくらい話題となり、売上への貢献はもちろん、「トレンド」「オシャレ」「ファッション」を訴求できたことにより、ファッションやオシャレに関心が高い新しいお客様にも興味を持たれ、顧客数の裾野が広がる取り組みになりました

肯定される、されないリブランディングにはどのような違いがあるのか

前述のように、リブランディング時に策定した目標となる状態になるよう、一貫したブランド体験(BX)を構築しているリブランディングは世の中に受け入れていただけると思っています。そのためにも、どのような背景でリブランディングをしているのか世の中に発信した方が良いと考えています。逆に肯定されないリブランディングは、リブランディングした内容に一貫性がない状態のことといえます。仮に炎上(度合いにもよりますが)があったとしても、炎上の内容に対しても一貫性のある対応ができることが重要です。

これはリブランディング事例ではありませんが、企業理念に対する「一貫性」のある対応に関する事例としてご紹介します。

Soup Stock Tokyoが4月、全店で離乳食を無料で提供すると発表したニュースが大きな話題となりました。

SNSなどでは歓迎する声が上がった一方で、「もう行かない」といった批判の声も上がったことは、記憶に新しいかと思います。そのような中で、スープストックは「離乳食提供開始の反響を受けまして」と題してメッセージを出しています。
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私たちスープストックトーキョーの企業理念は、「世の中の体温をあげる」です。
スープという料理を通じて身体の体温をあげるだけではなく、心の体温をあげたい。
そんな願いを一杯のスープに込めた事業を行っています。
〈中略〉
私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません。

私たちは、私たちのスープやサービスに価値を見出していただけるすべての方々の体温をあげていきたいと心から願っています。皆さまからのご意見を受け止めつつ、これからも変わらずひとりひとりのお客様を大切にしていきます。
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この姿勢や対応は、一貫性という意味合いでもとても分かりやすい事例かと思います。

このように、炎上などがあった際の企業の対応は特に、企業が企業理念やミッション、パーパスなどの「一貫性」を伝える、また世の中から企業姿勢を判断される機会/脅威にもなり得るので重要です。

リブランディングをする背景に、ターゲットを変えたいという時ならば良いのですが、ターゲットを広げたいという時は、今までの顧客・ユーザーに受け入れられないこともあると思います。その時も、リブランディング時に策定した目標となる状態になる時に、どのような顧客・ユーザーに受け入れてもらいたいのか、ターゲットを選定しそこに集中することが重要です。既存顧客・ユーザーが一定数離れてしまうこともあるのですが、それに恐れず一貫性のある対応を貫くことで、さらに新しい顧客・ユーザーが増えることにもつながります

次の記事では、まだ販売開始1年の「ブランド認知」フェーズである新規ブランド「どら菓子」の事業立ち上げ、商品企画、PR、マーケティングの具体的な経験から出てきた課題とうまくいっていることを中心に、ブランド・エクイティ活動の有用性についてお話ししてみたいと思います。

参考:
「GU」ブランドメッセージ

「ドーバー ストリート マーケット ギンザ(Dover Street Market Ginza)」でもキム・ジョーンズ氏


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