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トラペジウム 高山一実

読んでから見るか、
見てから読むか。

見てから読みました。

角川文庫とか、久々に読みましたね。
今や、メディアミックスは基本中の基本ですが(知らんけど)、昭和の角川書店(現KADOKAWA)はメディアクロス(書籍と映像)を打ち出す先駆者でありました。
そんな感慨はさて置き、スニーカー文庫では無く、角川文庫での出版と言う辺り、この作品の立ち位置も想像出来るかと思われますが、元々単行本で出版されていますから、そりゃそうでした。

この数ヶ月と言えば、『某ユーフォニアム』の原作履修(後追い)をしていましたが、あちらはヴィジュアルが表紙のみでしたが、こちらはライトノベル並みにカラー口絵もあって、ダブルカバー仕様でありました。

[雑感]

ジュブナイル(ヤングアダルト)と称する方が居て、果たしてその通りの青春譚でした。
かなり、特殊であるかも知れませんが。
それを嬉々として、読んでいる私も私ですが、放って置いて下さい。
読み易くて、楽しかったですよ。
私は、特別読書家でもありませんから、こうして映像作品から原作を読む事が殆どでありますので、外れを引く事は無いのです。

とは言え、映画では半分どころか2/3位迄、徐々に雲行きが怪しくなって、胸糞展開(実質1/3?)に至ったのは事実でありますから、文章となる事で多少の不安もあったのですが、淡々と物語が進んで行く感じではありました。
(因みに読後の2回目の鑑賞で、キツい場面は10分も無かったですね)
所謂"マルハラ"の話ではありませんが、得てして文字の暴力と言うか、キツい言葉で無くとも、受け手の側で負の感情を増幅させて、勝手に感じでしまう事は確かにありますから、ちょっと拍子抜けではありました。
これは、"百聞は一見にしかず"ではありませんが、映像で雰囲気を増幅させていた所為もあったでしょうね。
原作を読んで、狂気だのサイコパスだのと言った、マイナスの言葉が出てくる筈は当然ありません。
ティーンエイジャーの、怖い物知らずに等しい底知れないパワーに対して、大人がまるで畏怖するかの様な言動は、滑稽としか思えないのは、全ての大人が通って来た筈の道でありますし、成長の過程で手放しただけですから、それを黒歴史等と自ら封印して忘れてしまっているだけなのでしょう。
そう言えば、そんなパワーを題材に、魔法少女アニメが生まれた事もありました。

物語は、東ゆう視点で進んで行きますが、これが彼女の解像度を高めていたかと思います。
多少は辛辣なところがあったりしますが、割と冷静に物事を見る賢さも、大胆な行動力も備えています。
計画立案等からしても、プロデューサーかと思う程ですが、全てはアイドルに成る為であります。
兎に角、アイドルに対する信奉は揺るぎ無く、狂信的と言うには短絡的ではありますが、その存在全てに肯定的で揺るぎや迷いは一切ありません。

計画力や行動力も備えているゆうが、何故グループアイドルで、不確定な運任せでデビューを目指したのか、大いなる疑問ではあります。
恐らくは、自ら考えた計画を実行に移して言ったのは、若さ故の暴走にも似た行動力と根拠無き自信の結果ではあったと思うのですが、その実親しい友人を求めていたのかとも思えるのです。
他の3人、華鳥蘭子(南)、大河くるみ(西)、亀井美嘉(北)も同様で、親しい友人が居ない様でもありましたね。
ある意味、切掛こそゆうが能動的であったからだとしても、奇跡の出会いであったのかなと。
だからこそ、彼女達には計画を明らかにせず、利用して巻き込む形になってしまったのは、アイドルは誰もが憧れる存在であると盲信している一方で、認めたくは無いけれど、薄々そうでは無いと思っていたところもあるのでしょう。
勿論同時に、自分が持たざるものを埋める存在として、打算的なものが大きかった事は否定出来ませんが、必ずしもそれが全てでは無かった様にも思えました。
そこで影のキーマンが、工藤真司だったりする訳で、ゆうは何だかんだと計画を明かし強力を仰いで、時には心の内を隠す事無く吐露する程ですから、結果的に親しい友人の様な存在であったのは確かです。

最終的に、アイドルグループとしてはあっさりと崩壊してしまった訳ですが、1番舞い上がって我を失っていたのは、ゆうだったと言うのは、何とも皮肉な結末ではあります。
それでも、何が大切なものだったのか、何が間違っていたのか、それを改めて認識する必要な挫折だったのでしょう。
その後、友人関係が破綻する事が無かったのは、ちゃんと4人の絆が出来上がっていた訳で、ゆうだけが気付いていなかっただけですね。

紆余曲折を経て、夫々が夫々の場所で、収まるべき場所に収まって、途絶える事の無い友情こそ、かけがえのないものであるのでしょうね。
最後の台詞には、痺れましたよ。

(了)


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