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新国立劇場オペラ「フィガロの結婚」感想

 昨日新国立劇場まで「フィガロの結婚」を見に行ってきました。初鑑賞。今回は予習頑張りました。テノールのアリアは一曲、バレエのレッスン曲でメロディーは知ってました。ソプラノ、メゾのアリアはYoutubeで何回も聴いて出だしの歌詞とか、メロディーを覚えていきました。

 さて、席に着いたら周りがみーんな若い人でした。恐らくU25チケット使っているのだと思いますが、下手前方が全部U25かと思うほどに若人の集まりでした。「先生のレッスンがさ~」と話すお姉様群団に「トスカがさ・・」と話すお兄様群団。見に来ている若人の大半は声楽科の方々ね、と思いましたが、一人で見に来ている私みたいな人ももちろん一定数おります。そして、オケの音出しでは、ヴァイオリンが「眠り」のオーロラ姫のVa.を弾き出すものですから!!見に来た演目間違えたかと心配になりましたが、バレエのほうでも東京交響楽団が演奏をするようですね。

 幕が開けるとそこには二点透視図法のセット。壁は白、アルマヴィーヴァ伯爵の衣装は白、伯爵夫人ロジーナも白、フィガロとスザンナは白黒、ケルビーノも、それ以外の人は黒、というモノトーンな舞台でした。

 これって、あ!見つかっちゃう!!ハラハラドキドキキョロキョロ。嘘がばれる!!ハラハラドキドキキョロキョロ、ピンチ!!を楽しむ話なんでしょうか。「あの中にいるのは誰だ!小姓だろ!」「(実際ケルビーノが入ってるけど)違うわ違うわ~」「ドアをたたき壊して開けてやる!」道具を取りに行っている間にスザンナとケルビーノが入れ替わる「違うわ~浮気を疑わないで~」「開けるぞ~!」と言っておきながら、スザンナが中からドア開けるんかい!!早く進めや(笑)みたいなやりとりがチラホラ(笑)さすが、古典作品。

 舞台の上には引っ越したばかりの部屋のように段ボールが積まれていて、それぞれに「トウキョウ」「LONDON]「VIENNA」などなど書いてあります。それが衣装ケースになったり、庭の草木になったり。これは恐らく、舞台はどこの国でも当てはまるという設定なんじゃないでしょうか。

 大隅智佳子さんの、透明感があってスコーンと突き抜けるようなソプラノの声が素晴らしかった。声のカーテンというのですかね?それが上から降りてきて観客である我々を包むんです。ビリビリ伝わってくる感じが、劇場で聴いている醍醐味を感じさせましたね。ハラショー。実はソプラノはキャストがセレーナ・ガンベローニさんから変更になっていたとのこと。大隅さんの声が聴けてとても良かったです。

 それから、脇園彩さん。セビリアの理髪師を聴いたのはなんともう1年前!あの頃はコロナのコの字のkくらいはありましたね。あの時はおきゃんなロジーナ、私が踊るならばキトリと言った方ですが、今回はケルビーノ。溌剌とした声、伸びやかで、聴く我々をどこまでも連れて行ってくれるような素敵な声でした。髪長くてかっこいい思春期男子でした。あれって、当時はカストラートの役なんだよね?

 フィガロとアルマヴィーヴァ伯爵はそれぞれ、ダリロ・ソラーリさんとヴィート・プリアンテさんですが、この二人雰囲気が似ていてどっちがどっちだかみたいになってしまいました。やっぱり伯爵はちょっとちっちゃめのコロコロした感じでいてもらって全然良いのですよぉ

 そしてフィガロと言えば「初夜権」などという何とも珍妙な時代の産物みたいな言葉が入っていましたが、今回の字幕では「領主権」と訳されていました。生々しくなくてほっとしました。芸術監督が大野和士さんになってから、歌詞に日本語を入れたり、ネタを入れたり、みたいなのがチラホラありましたが、今回の喜劇では一切ありませんでした。真面目でしたね。

 にしても、これはどうしようもないエロじじいのたわけみたいな作品ですね。まず、他人の彼女に横恋慕、そのくせ奥さんの浮気を疑い、思春期男子には失せろと言う(自分は思春期をこじらせてるのに)。結婚式の夜にウハウハと他人の奥さんと面会し、ところが実はそれが自分の奥さんで、そして、最後ごめん、許してヘペロに対してあっさり許す奥さん、愛があるからと合唱。こんな話があってたまるかーー!!ムキーッ 何だか昔、おじさんたちが劇場に集って「アッハッハそういうことしたいし、そういうことありだよなぁ、奥さんは許してくれるべエッヘッヘ」と言ってた姿が目に浮かぶんです。それに、男は○○、女は○○という歌詞が入るのは「魔笛」も同じですが、「女はクソ」という歌詞だけでテノール1曲作るとか馬鹿げてません!?!? 隣で拍手してるガールズ何考えてるの!?そういえば「メリー・ウィドウ」というオペラにもねえ、歌詞が「女」でできている歌ありましたよ。しかもねえ、なまじ英語だから“Women, Women, Women, Women"とか直接ニュアンスわかっちゃうんですよ!芸人「クマムシ」の「おんな~おんな、おんな~おんな」から始まるリズムネタはテレビのちょっとディープな番組でやってましたけどねえ、フィガロの場合これ、伝統芸術ですよ!? 逆にクマムシのネタって、伝統に則った由緒正しいネタなんじゃないですか!? というか、11月に見た「こうもり」も、おじさんが美人なお姉さんを口説いたと思ったら奥さんだった、っていう話じゃなかったでしたっけ?もう!一体何年このネタやってるのよ!!!!!!

オペラから分かる教訓:浮気はやめましょう。不倫はもっとやめましょう。

 ということで、白黒で表される時、大体白が潔白で黒が悪ですが、この話、浮気エロエロおじさんが潔白の色である白を着ているのですね。でしかも二幕ではおじさんのほうが裁いている雰囲気が出ていて、おじさんが合っているんじゃないかという気分にさせられます。だから、舞台が傾いているんです!この世界は異常です。平行で均衡でない世界の話なんです。傾いた舞台から正面を向かれて「愛があれば全て解決。愛は素晴らしい」みたいに合唱されて、これがオペラだぜベイベと言われても、舞台が傾いているので何か違っていることがわかります。

 今回はピューヒャラヒャラというカーテンコールではありませんでしたし、若人たちは隣り合ってぎっしりでしたけれど座席はガラガラでした。前回のトスカ(今年の公演ではない)で、トスカ役が急遽暑さのせいで日本人キャストになった際、カーテンコールでその方だけピューヒャラヒャラがなくて「日本の観客怖え」と思ったのですが、今回は元々それがなかったので、日本人キャストに変更されていてもお客さんの反応は直接は影響はなかったように思います。

 にしてもあの、ノリが良いダンスミュージックの「こうもり」でさえかっくんかっくんしてた私が、今回は3時間半以上あるオペラでしっかり起きてました。よっぽど楽しかったんでしょうねえ。

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