おすすめ本No.2 『私の財産告白』本多清六
私はノンフィクションを読むとき、かならず本文を読む前に目次にざっと目を通し、本の構成を確認する。タイトルに惹かれて本を開いてみたものの、目次を確認してみると、思っていた内容と違いそうだと気が付くことが少なくないからだ。
本書の場合もまず、目次を確認した。ところが、思わぬ章タイトルを見つけた。
同僚から辞職勧告を受ける
たった12文字に、これでもかと不穏な気配が漂っている。普通に仕事をしていて同僚から辞職勧告を受ける場面なんて滅多にない。筆者がなぜ、辞表を書いて持って来いと同僚に詰め寄られたのか、気になって仕方がなくなってしまった。
Kindle Unlimitedでは試し読みで終わらせることも少なくない私だが、この章タイトルを見た瞬間、必ず通読すると決めた。
他にも気になった章タイトルのうちのひとつに、二杯目の天丼というものもある。これもまた、何とも言えないパンチのあるフレーズだと思う。
著者は質素倹約をきわめた人だ。この本のテーマは、冒頭で引用した文章そのままである。貧乏だった一人の学者が、一念発起し、貧乏を脱却し、いかにして財産を築いたかについて詳細に記されている。
それだけではなく、著者の人生訓についても随所に散りばめられており、明治時代を生きた著者が現代においても非常に役立つ処世術に触れていることに驚かされる。たとえば、会議での立ち居振る舞いについても触れられている。
会議で自分の意見を言うときには、他者の意見をよくよく聞いた上で、相手を立てつつ発言せよ、と著者は言う。持っていきたい結論に持っていかれさえすればよいのだから、あまり我を押し通すなということだ。これには理由がある。
会議で自分の意見だけを押し通すと、後々、何かしら一人で責任を負わされるような形になって、ちょっと都合が悪いのだと。だから、大事な骨子だけは守って、どうでもいいあとの何割かは、可能な限り他の人の意見に花をもたせるのがいい。そうやって、会議の結論に対する共同責任を皆に負わせるのだという(どことなく卑怯に感じるかもしれないが、スムーズな会議進行のためにも大事なことだと著者は説明する)。
これは本当に、令和の世でも活かせる処世術だと思う。会議だけにとどまらず、人間関係におけるすべての場面においてだ。
他者と何かをしようとするとき、相手の意見を否定して自分の意見を押し通してばかりいては(たとえどんなに自分のほうが合理的であったとしても)、人はいずれ離れていくし、自分も疲弊してしまう。それならば、譲れない部分だけ残し、譲れる部分はいっそのこと相手に譲ってしまったほうが良い。
そんな著者も若いころは相当な自信家で、周囲への配慮が足りずにいたという。実際に、若気の至りで先輩の面子を潰したエピソードについても紹介している(それがまた、読んでいるこちらがヒヤヒヤするほど、わかりやすく先輩をこけにしている)。そういった自分の姿勢が周囲の反感を買い、先述の「同僚から辞職勧告」事件に発展したと著者は思い至り、先にご紹介した会議での立ち居振る舞いを身に付けたのだろう。
お金に関する名著だが、人生の教訓が詰まった名著でもあることは間違いない。
Kindle Unlimitedでも読めます。
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