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こんな時代に新社会人になる皆さんに勧めたい15冊

もう4月。とんでもない情勢で新生活を迎える人のことを思うと、何様だって感じだけど、不憫に思う。仕事柄、大学生と共同で動くことも多いので、4年間一緒に色々と動いてくれた学生の方も多く、中には1ヶ月入社が延期になった人も。何も大したことはできないのですが、自分が思う「あのころ、読んでおけば多少、社会に出るという行為が楽になったのに」と思う本を紹介してみます。

勧めるお前は誰なのさ

本はきっと「どの本を読むべきか」ではなく、「誰がどんな文脈に置いて、いい本だと言っているか」に意味がある。売れ筋ランキングとか本当に意味ない。なので、自分のことをちょっと説明すると、

「インサイト」の人です
広告代理店に新卒で入って、「人の態度変容を請け負う仕事」に従事する中で培ったインサイト抽出力が全ての土台の人です。若者研究はその延長線上でやってます。顧客の気持ちを慮るだけでなく、上司や部下といった同僚のインサイトも、クライアントのインサイトも、慮れるか否かで事が首尾よく進むかどうかは大きく変わるし、なんならプライベートでもそう。人が社会と結節して生きる以上、必須リテラシーだと思ってます。
「コンセプト」の人です
人が何をどう考えるかがわかった上で、「何を価値として投げかけるか」を、届け手の立場で考えて価値の定義をしたものがコンセプト。「会いに行けるアイドル(AKB48)」とか秀逸な「コンセプト」ですが、それを作る仕事を今してます。単に物体の説明や機能の説明ではなく、「人にとってどんな存在価値なのか」を考える、そういう発想を持てたのも得難いこと。そしてこれは広告屋でなくても、「誰かに何かを届けることで報酬を得る全ての業態」に必須な能力だと思ってます。

要するに、「人の気持ちを考えて、その人が喜ぶものを自分の出せるものから最大限頑張って出す」のが、仕事の最小単位だと思ってる、そんな人が勧める本、という前提でみてもらうのがいいと思う。

(ちなみに人間性のことを少し書くと、「コミュ障で人見知り」「そのくせプライド高くて人に質問できなくて若手の頃それで死んだ」「自分のことを信用してないのでめちゃ内省する」「陰キャ」です。こんなnoteも書いたことあるくらい)


加えて大事なのは「時代との関連性」。時代との関連性が高ければ、本の中の世界が、自分の過ごす実世界と地続きなものとして還元できる割合が上がるから。いろんな企業の間に外から挟まりながらインサイトとコンセプトを作ってきた身としては、以下の3つを最近強く意識させられている。

今は「個」の時代

この新型肺炎騒動でますます、物理的にも関係性的にも「個」が問われている。「あなた個人は、何ができる人なの?」って。リモートワークは孤独だし、ソーシャルディスタンス取らないといけないし、「なんとなく働いている風」だったおじさんたちの実際のパフォーマンスが如実にバレてきている。いい面としては、無駄な会議やお付き合いの飲み会もなくなったこと。形式的で煩わしい「群」は、この騒動が収まっても同じ形には戻らない気もする。言い換えると、「環境が強制してくる繋がり」がなくなり、「個が自ら望んで積極的に関係性を構築する繋がり」が増えるんだろう。純度の高い意思ある繋がりが増えるということは、その起点になる「個」の意思を自分がいかに考えるかが問われる時代が来る。

今は「直結」の時代

「個→会社組織→社会」という間接的な社会との接続ではなく、個が社会と直結する時代も本格到来だろう。企業もこれまでの社会との繋がり方を再定義・再構築することを余儀なくされる(もともと余儀なかったんだけど、新型肺炎騒動でいよいようやむやにできなくなった)。そんな中で、社会との接続を「会社任せ」にしていると、実はその会社が社会と真っ当に繋がってなかった場合、”会社もろとも時代錯誤な個人”になる可能性が高い。そして、それはその気になれば個が社会と直結できる以上、ますます二極化していく気がする。会社勤めが始まっても個として社会と直結する意識を、どう保つかは、譲っちゃいけないポイントだと思う。

今は「好奇心」の時代

では、どうやって「個」として社会と「直結」するのか。

今、いろんな職場で年長者側に起こっていることをバラしちゃうと、「年下がわからないという不安」。すぐ○○ハラって言われるんじゃないかとか、自分が若かった頃散々叩き込まれたスキルが不要視されて凹んでたりとか、どう向き合ったらいいかわからなくなっている。その結果、「年長者が正解を提示できない社会」が本格的に顕在化して、若者は「尊重されるがゆえの孤独」みたいなものを抱いているように感じる。誰も教えてくれない、指摘してくれない、導いてくれない、そんな孤独。若手が自らできることは、「正解がない時代なりの社会との直結」なんだと思う。では何が接続の起点になるかって、好奇心だと僕は思う。社会とはもともと相対的なものでその人がどう見てどう関わるかでどうとでも形を変えるものだけど、それがますます「正解がない時代」だと進む。その中でいかに、他の人と違う物の見方で社会との関わり方を構築できるかは、その人が何を面白がる人間なのか自覚して、どこまで「深く」行けるかが分かれ目だと思うのです。


つまり、「個が好奇心で社会と直結する」時代

まとめると、こういうこと。その時に、求められるスキルってなんだろう。乱暴だけどシンプルにすると、僕が本を通じてお勧めできるのはこういうことしかないのかもしれない。

自分の好奇心を自覚して、守り育てること (自己認識)
他者の好奇心を洞察し、理解すること   (他者理解)
自分と他者の好奇心を接続させること   (関係構築)

あらゆる仕事を最小単位まで分割していくと、結局これしかないように思う。もちろん、濃淡があったり、チーム全体でカバーする場合も多い。でも、そもそも「チームで動く」ということが、この3つを構成員全員に必須としている訳です。世の中はもっともっと多変量的で、複雑で、理と情が絡み合っていて、こんな3つだけでなんともならない時もある。だからこそ最小単位の原理原則を押さえておいて損はないことを、本で紹介してみたいと思う。

自分の好奇心を自覚して、守り育てる5冊

働きたくないというあなたへ 
山田ズーニー 著 (河出文庫)

ほぼ日で長年にわたり「おとなの小論文教室。」を連載している山田ズーニーさんが、自分が社会とつながるということはどういうことなのかを綴った一冊。この本に出会った時の自分は、仕事というのは「大して面白くないことを、大して頭もよくないおっさんの指示に則って繰り返すこと」と思うくらい腐りかけていた時だったので、とても救われた。そもそもなんで、会社に勤めるのか。働くのか。社会に出るのか。「だってそういうもんでしょ?」と脳停止で鵜呑みにせずに、自分の言葉で考えることの大切さがよくわかる。その後、ご本人と対談することを叶えた自分エライと思いつつ笑、迷ったら読み返す1冊です。


自分の仕事をつくる 
西村佳哲 著  (晶文社)

自分がどんなレンズで社会をみる人間なのかを考えさせられる一冊。いかに人間が、人それぞれ異なる世の中の見方をしていて、にも関わらずそれに無自覚に「普通は」「みんな」「一年目はだいたい」といった、十把一絡げに丸め込んだ認識をしてしまうか。普通なんてないし、一年目だからこうあらねばならないとかない。結局は自分の好奇心を自覚して、自分なりの「気持ちのいい社会との繋がり方」を定義して模索することでしか、「自分の仕事」は始まらないぜという本です。


没頭力
吉田尚記 著 (太田出版)

好きなことを仕事にするかどうかは、人それぞれのポリシーや境遇が決めることだけど、「仕事の中に、好きなことを見出して面白がること」は、ほんとは誰だってできるに越したことない能力。どうやったら人間という生き物は「好きで夢中でやっている=没頭」の状態に入れるのかを、よっぴーさんならではの分かりやすい文体で説明してくれる一冊。「没頭できる対象を見つけろ」ではなくて、最終的な目標は「没頭というモードを手に入れる」である、という一節はいまだによく思い返すようにしてます。


嫌われる勇気
岸見一郎 古賀史健 著  (ダイヤモンド社)

言わずもがなな大ベストセラー。新社会人が読む意味は、「おかしいと思うことは、だいたいおかしいので、相手が誰であれ黙って迎合して大事なこと見失うなよ」に尽きる。いろんな大人が、年の功を振りかざしてマウント取ってきたり、はたまた前述の通り、腫れ物に触るかのように何も教えてくれなかったりと、新しいやりづらさも生まれている時代だと思うからこそ、「物差しは常に自分の心の中に」持っていようと思える一冊。


自己紹介2.0
横石崇 著 (KADOKAWA)

自己紹介と銘打たれた本だけど、正体は、「自分が何者で、何がしたくて、どう社会と関わりたいと思う人間なのか、ちゃんと言語化してみよう」という中身です。自己紹介する機会がめちゃくちゃ多い時期だと思うので、なあなあでやりすごさずに、自分の好奇心の本質を、人の印象に残るような言語で表現できるようになるには、絶好のタイミング。自分を主語に未来を語れる人に近づける1冊。


他者の好奇心を洞察し、理解する5冊

マーケット感覚を身につけよう
ちきりん 著  (ダイヤモンド社)

「他者にとっての価値」を、自分の視点からどう考えるのか、とても分かりやすくまとまっている一冊。自分の好奇心は大事だけど、「他者はそんなこと一ミリも知らないしどーでもいいと思っている」という冷徹な事実を、どうやって自らのバイアスに屈さずに見つめられるのか。「事実」を理解し、その上で「それを他者はどう解釈し何を感じたか」が、価値の定義の根幹にはある。人の心と、社会と、そしてそこに関わる自分とが、どういう関係で存在しているのか。基本OSを獲得するのに最適な本です。


「気づく」技術
おちまさと 著  (ダイヤモンド)

どのように他者や世の中の考えていることに「気づくことができるか」をまとめた1冊。放送作家 / プロデューサーの著者なので、アウトプット寄りの内容ではありますが、「気づく」ことができれば企画力がいかに見違えるか。どんな人にも始められる習慣と合わせて紹介されているので、小さなアクションから動き始められそう!と思わせてくれるのも良著だと思います。


ジョブ理論
クレイトン・M・クリステンセン 著  (ハーパーコリンズ・ジャパン)

価値は送り手ではなく、受け手が決めるものであるという原理原則を、改めて徹底的に教えてくれた1冊。「ドリルじゃなくて穴を売れ」というレビット博士の理論をもう少し進めて、”じゃあその穴は何をしたくて欲するの?”まで行くのと同時に、それを企画立案に持って行くところまで網羅されてますが、いったんは「インサイトを洞察する」部分だけでもインストールできるととてもいいと思う。「送り手都合」「受け手無視」の商品やサービス、果ては政策が横行する社会だからこそ、そこに染まってはいけないという自戒こそがこの本のもたらす価値の本懐。


突破するデザイン
ロベルト・ベルガンティ 著 (日経BP)

基本的には「ジョブ理論」と伝えたいコアは同じで、デザイナーである著者が「デザインシンキングの先」を提示しようとしている1冊。「意味のイノベーション」という定義が何より分かりやすいし、下手に社会人バイアス(=送り手都合のバイアス)に染まるよりも、学生や新社会人の方が素直に受け止められる気がする。繰り返しますが、本当に「社会に染まる」という現象は恐ろしいので、なんとかディフェンスして欲しく、これも「他者の好奇心を慮る」ことがどれだけ重要かというのがよくわかる本です。


Whyから始めよ
サイモン・シネック 著 (日本経済新聞出版社)

どちらかというと他者の好奇心を「洞察する」のではなくその先の「着火させる」ために、どう働きかけるべきかを説いた1冊。人は物事のどこをみて、「面白そう!」「やってみたい!」と感じるのか。この本と、この動画に当たるまであまり考えたこともなかった自分にとっては、社会人3年目くらいの時にこの理論を知れたのがとても大きな財産でした。



自分と他者の好奇心を直結させる5冊

他者と働く
宇田川元一 著 (NewsPicksパブリッシング)

自分の好奇心と他者の好奇心がよくわかればわかるほど、その二つの「接続」がいかに一筋縄では行かないのかがよくわかる。洞察が甘い人に限ってノリとか勢いでなんとかしようとするけど、本著はそこを少し立ち止まって考えようという提言の一冊。交友関係を自由に出来た学生生活に比べて、社会人になると色々「選べない」状況が格段に増える。もちろん、合わない人間とはなるべく付き合わないというスタンスはあっていいけど、そもそも「合わない」とは何が起こっていることの証左なのか。あるいは「合う」とはなんなのか。そこから考えてみるのに最適な本です。


「ない仕事」の作り方
みうらじゅん 著 (文藝春秋)

自分と他者の好奇心を直結させる天才の一人だと思うこの人。その二つを直結させる所為こそ「企て」だと思うんですが、企て方がよくわかる。そもそも「マイブーム」はこの人が産んだ思想な訳で、一人で勝手に面白がっているものを、どう他者にとっても面白いものに昇華させるか。サラリーマンだからカンケーない世界と思わずに、読んでみてほしい一冊。


やっかいな人のマネジメント
ハーバードビジネスレビュー編集部 編著

人の好奇心との直結を試みる過程で、どうしても「やっかいな人とのコミュニケーション」は多かれ少なかれ生じる。それ以前の「この人がやっかいな人だったらどうしよう」と、やる前から臆病になったり不安がったりするコストも含めると、かなり大きな問題。リスクはゼロには出来ないけど、どんな人かよくわからない他者と何かを一緒にしたり、他者に価値を提供しようとするすべての人が知っておいて損はない「ディフェンス法」の1冊。”マネジメント” と書いてあるけど1年目こそ読んで身を守ってほしい。


岩田さん 〜岩田聡はこんなことを話していた。〜
ほぼ日刊イトイ新聞 著  (ほぼ日)

これは自分自身と他者とをつなぐ方法というより、「経営者が、会社という器を使って、どう自分の好奇心と、社会の求めるものを満たすか」を記した1冊。任天堂の元社長、岩田聡さんの自らの言葉が編纂されているんですが、「経営とは何か」「社長とは何か」「社会に価値をもたらすとは何か」を考えさせられる内容で、なんなら泣きそうになるところがいくつも。言葉だけなら、「社会の明日をよりよく」みたいなことはどの会社もいうんですが、その実、どこまで逃げずに口実で済ませずに向き合えているかは、懐疑的にならざるをえない会社が少なくない。社会に出て、「こんなのおかしいだろ」「採用の時に言ってたこととちげーじゃん!」と憤りを覚えても、そのうち「まあ社会ってそういうもんなのかもなあ」と自分を冷却させてしまいたくなる時がきてしまう。そんな時に、「自分は間違っていない。志ある経営者が、いかにして社会と会社を接続してきたか知っている」と思えることが、踏みとどまる助けになるはず。


すいません、ほぼ日の経営
川島蓉子・糸井重里 著  (日経BP)

「自分と他者の好奇心を直結させる」という関係性が幾重にも重なって入り混じって毛糸玉のようになっているのが企業だとすると、それでもなお個々人の好奇心を尊重するために、会社はどうあれるかという本だと個人的には思った。何かを却下する理由として「そんなのお前がやりたいだけだろ!」と吐く人は流石に減ってきたと思うけれど、好奇心で動く人のことを苦々しく見下す人は少なくないと感じる。「やりたいだけで何が悪い!」と言える個人と、言わせてあげられる会社は、どうすれば成り立つのだろう。糸井さんはTwitterでみるよりも何倍か、ちゃんと経営者としての立場からインタビューに答えているように思うので、好き嫌いはさておき、読んで損はない本だと思います。


===

こんな15冊。全ては「個が好奇心で社会と直結する」ための土台のOSを獲得する視点で選んだので、正直、他にも読んでほしい本はたくさんあるし、原典を辿って名著を読んだ方が本質的には理解が進む領域もあると思う。でも、読書においても「自分の好奇心を理解して読む」のが鉄則だと考えているので、「本質的か」「名著か」よりも、「自分にとってわかりやすく面白く読めて、考え方が良い方向に変わるか」を大事に、最近の本も多めに選んでみた。オススメはぜひ、あまり他の本を間に挟まず15冊続けて読むことで、そうすることで、どれだけこの「最小単位の土台のOS」が大事か、わかると思うから。

なかなかアクティブに社会に働きかけることができないこの情勢だからこそ、自分のOSをアップデートするための時間にしてみるといいんじゃないでしょうか。すべての新社会人の皆さんのご活躍を御祈念して。

(最後にちょっとだけ、自分の著作ものっけておきます。上から「インサイトの本」「関係性構築の本×2」「好奇心の本」です)


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