一日一書評#5「売れるには理由がある/戸部田誠(てれびのスキマ)著」(2019)
テレビや劇場では、毎日多くの芸人がネタを披露している。そのほとんどは、一度披露されると消えていく運命にある。観る側が新ネタを求め、芸人もそれに答えるからだ。そんな刹那的な魅力を含むお笑いのネタを、アーカイブとして残しておきたい、そんな思いから本作は生まれた。お笑い芸人たちが生み出したネタや、その芸人を語るうえで欠かせないエピソードなどを「代表作」として語りつくす。
目次を見ると、爆笑問題の「時事漫才」、ダチョウ俱楽部の「どうぞどうぞ」、古坂大魔王の「ピコ太郎」など、誰もが知るフレーズが並んでいる。それらが生まれた背景やきっかけ、いかにしてその芸人の代表作となったのかを、テレビ番組での発言や著書から引用して、ドキュメンタリーのように紡いでいくのだ。
著者である戸部田誠は、てれびのスキマとして多数の連載を抱えるテレビっ子ライターだ。優秀な番組に贈られるギャラクシー賞の選考委員も務めている。著者の作品は何冊か読んだことあるのだが、テレビでの一場面を切り取って描写することが多い。淡々とした中にもテレビへの愛が感じられるその語り口は、場面を見ていない者にもわかりやすく、伝わりやすい。本当にテレビの一場面を観ているかのような臨場感がある。
芸人たちの「代表作」には、それぞれの物語がある。有名なエピソードから、あまり本人の口から語られることのない裏話まで、様々だ。それらをすべて語ってしまうことは、野暮なことかもしれないと著者もまえがきで記しているが、それを知るとさらに芸人の魅力が増すというのも事実だ。その全てがドラマチックなものではないかもしれないが、そこには歴史と驚きがある。
本作では、古今東西43組の芸人を取り上げているが、「まだまだ書きたい芸人はたくさんいます」と著者は語る。これからも多くの芸人がデビューし、何かをきっかけに売れていく。その瞬間の背景を、自分の目で、そして著者の目で見れるというのは大変ありがたいことだ。