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一日一書評#43「奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの/久住邦晴著」(2018)

本書を読むと、自分たちの街にある小さな本屋を大事にしようと思うだろう。

「奇跡の本屋をつくりたい くすみ書房のオヤジが残したもの」は、かつて札幌にあった書店、くすみ書房が、どのような道のりを歩んできたかを記した本である。

1946年に創業したくすみ書房は、著者の久住さんの父親が立ち上げた書店だ。決して大きな店舗ではない、いわゆる町の本屋さんである。久住さんは、1984年に店長に就任することになる。その後の経営は苦しいものとなった。1999年の地下鉄の延長で、くすみ書房の最寄り駅が終着駅ではなくなった。これが原因で、徐々に売上が下がり始めた。

悲劇はそれだけでは終わらなかった。2002年、久住さんの高校生の息子が白血病にかかり、2003年に息を引き取った。その後、店を閉める決意をするが、周囲に息子の死が原因で閉店したと思われるわけにはいかないという強い思いで、経営を立て直す決意をする。

久住さんは、ビジネス書を片っ端から読み、ヒントを見つける。売り上げを伸ばすことを目標とするのではなく、人を集める企画を考えるようになる。それが、ベストセラーではない本にスポットを当てる「売れない本フェア」だった。この企画によって、くすみ書房は新聞やテレビの取材を受け、店は多くのお客さんで賑わった。その後も、店内放送を使用しての本の朗読や、中学生が読んで面白い本を集めた「中学生はこれを読めフェア」など、様々な企画で人を集められるようになる。

一時は絶望的だった書店の経営を、数々の奇跡的なアイディアで立て直す様は、読んでいて非常に気持ちが良い。本書は、誰よりもくすみ書房を見てきた久住邦晴さんの原稿に、久住さんが全幅の信頼を寄せていた、東京工業大学教授の中島岳志さんの解説、久住さんが講演会用に書いた草稿を活字化した補録を加えたものとなっている。2つの視点から、くすみ書房が唯一無二の本屋となるまでのドキュメントを楽しむことが出来る。


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