名前の扱い方◆『北欧神話』と『ゲド戦記』

こんばんは! 白樺の騎士団・七庭(ななば)です。

今回は、名前の扱い方についてスピリチュアルの観点から考察していきます。

古代の人々にとって、名前を知られることは、大きな危険を伴うことでした。

それは、相手の名前を知ることで相手を操ることができると考えられていたからです。

そのため、他人に名前を知られないようにしたり、見知らぬ者に名前を呼ばれたときに返事をしないようにしたりと、様々な対策をとっていました。


「山で名前を呼ばれたときは、すぐに返事をしてはいけない」という言い伝えをご存知でしょうか?

名前を呼んできた相手が、山の妖怪だった場合、そのまま返事をしてしまうと大変なことになってしまうのです。

↑上記の記事にあるように、妖怪に呼びかけられたときに備え、昔の人々は様々なルールをつくっていました。


物語や伝説の世界にも、名前にまつわる呪術的な考え方が数多く見られます。

『西遊記』に出てくる「名前を呼ばれて返事をするとヒョウタンに吸い込まれてしまうお話」は、有名ですよね。

私は名前に関わる特別な設定がある物語を、何回も読んだことがあります。

私が見た限りでは、名前を悪用され、敵に襲われるというような恐ろしいお話がほとんどでした。

ただ、名前を呼ばれたことで本来の自分を取り戻すというような、心あたたまる物語も中には存在します。

名前の持つ力を(良い方向に)活かすために、私たちにできることは何でしょうか?

物語や神話を紹介しながら、その答えを探っていきたいと思います。

興味のある項目だけでも、読んでいただけたら嬉しいです!


名前を呼ばれ、本来の自分を思い出す◆『北欧神話』

『北欧神話』には、名前を繰り返し呼ぶ印象的なシーンがあります。

それは、オージン怪物に変えられた女性と対峙する場面です。

(◆オージンはリーダー格の神様で、ギリシャ神話でいうゼウスのような存在。オーディンと表記されることもあります。◆怪物にされてしまった女性はグリヨンドという名前です。グンロズと呼ばれる場合もあります)

【あらすじ】グリヨンドは姿を怪物に変えられ、魔法の酒の見張り番をさせられていました。怪物にされてしまったことを悲しむグリヨンド。そんな彼女のもとに、魔法の酒を探しにきたオージンが現れます。酒を渡すまいと立ちはだかるグリヨンドに、オージンは、彼女の名前を呼びながら近づいていきました。名前を繰り返し呼ばれるうちに、グリヨンドの心に変化が起こります。彼女はオージンに助けを求め、もとの姿に戻してもらうことができました。


【この物語のポイント】

心まで怪物になりかけていたグリヨンドが、名前を繰り返し呼ばれたことにより、人間の心を取り戻す点です。

下記の事柄から、グリヨンドの心が怪物の心に近づいていたことが読み取れます。

・最初からオージンに助けを求めなかったこと
・魔法の酒を守るため、オージンの行為を阻止しようとしたこと

→彼女を怪物に変えた者の思惑通り、酒を見張るためだけに存在する怪物になりかけていたと言えますよね。

怪物にされたことに絶望し、彼女は本来の自分を見失っていたのかもしれません。

しかし、オージンに名前を呼ばれ続けたことにより、彼女は本当の自分を思い出すことができました。

そのおかげで、オージンに助けを求めることができたのです。(神様は人間から助けを求められないと人間を助けられないので、彼女がオージンに素直に助けを求められて良かったなと思います)


名前を呼ぶという行為には、相手にその人自身の本質を認識させる力があるのかもしれません。

オージンの呼びかけには、「あなたは酒を見張る怪物じゃなくて、グリヨンドという人間の女性ですよ。もとの自分を思い出しなさい」という意図が込められていたのだと思います。

名前の持つ力を、オージンは知っていたのでしょうね。


※この記事の参考文献は、『北欧神話』(岩波少年文庫 2001)です。登場人物の名前の呼び方や、お話の結末及び解釈が、他の文献と異なる部分がありますが、ご了承ください。



真の名前で呼び合える特別な友◆『ゲド戦記』

『ゲド戦記』シリーズは、とても有名な児童文学作品です。

外伝を含めて、全6巻が出版されています。

2006年に、ジブリによって映画化されたことをご存知の方も多いのではないでしょうか。(映画の内容は、原作とはだいぶ異なりますが)


『ゲド戦記』の世界には、全てのものに「真(まこと)の名前」が存在するという設定があります。

相手の真の名を知れば、相手を従わせることができるのです。

そのため、人は自分の名前をみだりに知られぬよう、通り名を使用しています。

真の名に関わる印象的なシーンのほとんどは、戦いの場面です。

・悪い竜の真の名を見抜き、竜を追い払う場面
・主人公が悪い魔法使いに真の名を知られ、支配されてしまう場面

真の名は、勝負の結果を左右する重要なもの。

それと同時に、取り扱いの難しい厄介なものでもあるのです。

でも、真の名はその性質ゆえに、仲間同士の絆を強くしてくれることもあります。

1巻の主人公・ ハイタカは、親友のカラスノエンドウに真の名を打ち明けられたことに感銘を受けました。

そしてハイタカも、自分の真の名(=ゲド)を彼に打ち明け、2人は固い絆で結ばれます。

2人はそれ以降、お互いに真の名で呼び合うことになりました。


真の名を明かすことは、よほど信頼している相手にしかできない特別な行為です。

相手に命を預けるようなものですからね。

真の名前で呼び合えるほどの関係を築けた2人は、本当にすごいなと思います。



【この物語のポイント】

真の名の、悪い面と良い面の両方が描かれている点です。

悪用されるリスクをはらんでいる一方で、信頼の証になることもある真の名。

良い結果を生むか、悪い結果を生むかは、使い方次第なのです。



考察◆名前の力を活かすには?

『北欧神話』や『ゲド戦記』を紹介する中で、私はあることに気づきました。

それは、「自分も含めた周りの人たちが、相手を名前ではなく役割名や役職名で呼んでいること」です。

役割名は「お母さん」や「お姉ちゃん」、役職名は「社長」や「先生」などをさします。

そう、意外と名前を呼んでいないのです

その人の本質を認識させてくれる名前を、もっと呼び合えたら素敵だなと、私は考えました。

ただ、年上の方や目上の方を名前で呼ぶのは難しいですよね…(汗)。


また、役割名や役職名には、悪い面と良い面の両方があるということに気づきました。

「役割名で呼ばれるようになってから、その役割を負担に感じて、1人の人間として生活を楽しむ余裕がない」と悩む方の相談を私は受けたことがあります。(このように悩む方はたくさんいらっしゃいました)

一方で、「役割名や役職名で呼ばれるたびに、その立場に立てた幸せを感じる」という方にも会ったことがあります。

その人の置かれた環境や性格によって、感じ方が変わってくるということでしょうか。


名前の持つ力を活かす方法にたどり着くまで、まだ時間がかかりそうです(汗)。

ただ、この記事のおかげで、ある決心をすることができました。

それは、「大事な人の名前を呼ぶとき、ちゃんと心を込めて呼ぶ」という決心です。

それが、名前の力を活かす、一歩になることを信じて。


長文をお読みいただき、ありがとうございました!

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