[日日月月]5月15日、コツコツだけでは社会は変わらない?と言われたいくつかの話
八燿堂とは別の、フリーランスの編集者としての仕事のために、先日ある本を読んだ。平田はる香さんの『山の上のパン屋に人が集まるわけ』(サイボウズ式ブックス)だ。
平田さんは長野県東部(東信州=東信)に住む人の間では特に有名な、「わざわざ」というお店の代表を務めていらっしゃる。わざわざは「パンと日用品のお店」を謳っているが、
売っているパンは2種類のみ
立地は駅から離れた山の上(御牧原というエリア)
2020年には従業員約20名で年商3億円達成
2023年に4店舗目をオープン
などのユニークな特徴がある。同書には、平田さんの開業までのエピソードや、開業以降の経緯、社是(CI)、お金のこと、健康について、などが記されていて、まかりなりにも一人出版社を主宰する身としては、(程度はともかく)同じ経営者として自分と照らし合わせながら読んでしまった。
気に留まったいくつかの言葉のなかでも、社会貢献や社会変革についての箇所に、こんなふうに書かれてある。
本文ではこのあと、PR、広報、マーケティングの必要性が続くのだが、ここだけを切り取ると「コツコツとやり続け」る人を否定しているようにも見えるが、真意はそうではないだろう。それだけ「ではいけないとも思」うのであって、「影響力も少しは」必要だというのだ。
この「影響力」とは何か? 社会変革に「影響力」はどの程度必要なのか?
苦々しいエピソードを思い出した。都市でパーマカルチャーを実践する人たちが集まる、座談会のような場所だった。そのとき私はすでに東京から長野に移住し、山奥で自給率を上げる暮らしをつくろうと動いていたのだが、知人でもある参加者の一人が、私のつくろうとしている生活を知ってか知らずか、こんなようなことを言ったのだ。
これを聞いた瞬間、この人とは縁を切ろうと即断したのだが(苦笑)、発言の意図は、人や情報が集まる都市においてアクションを起こすことこそが、社会を変革するうえでのもっとも効果的で最先端である、ということなのだろう。
つまりここでは効果的で最先端であること(「影響力」とほぼ同義だろう)を持つことが優先されているが、コツコツとやり続けることは視界に入っていない。むしろ意図的に忌避している。
私にパーマカルチャーやNVC(非暴力コミュニケーション)を教えてくれた、「共生革命家」として活動するソーヤー海くんによると、社会変革には5つのフェーズがあり、それぞれのフェーズに優劣はなく、どれもが重要で必要だという。
非常に本質的かつクリティカルな内容なので、ぜひ前後編とも読んでほしいが、ここでは簡単に、5人の僧が目指した社会変革を、単純に図式化したものを挙げるに留める。下の記事に掲載されている表だ。
ものすごく簡略化するなら、1人目の僧は「目の前のこと」に対処する。すぐ近くで困っている人を助けようとする。4人目は社会を変えようとする。ここでは政治的なアクションをともなう。つまり、徐々に活動の規模や考え方そのものが大きくなっていく。
(なおソーヤー海の記事の趣旨は、5人目の活動の重要性を訴えることにあるのだが、5人目は”特殊”で、意識を変えて問題のあり方そのものをとらえ直すことを目指す)
わざわざの平田さんの言う「影響力」とは、この表で言う4人目ではないだろうか。直接的な政治活動というよりは、会社を大きくすることで産業界で地位を築き、社会に対してインパクトを与え、並行して(間接的にでも)行政に働きかける、というようなパワーのことだ。
ここまで行くと八燿堂の手には負えない。あくまで一人出版社で、そもそも法人化していないし、規模を大きくすることなど考えていないからだ。
ただ、「影響力」は難しくても、「発言力」を大きくすることは、できるかもしれないと思えた。なぜなら発言そのものは、発言者の立場や規模に寄らないからだ――もっとも、その有効な実現方法は模索するしかないのだが。
もうひとつ、資生堂の『花椿』で、モデルでアクティビストの小野りりあんさんにインタビューしたときの話だ。私が本づくりのかたわらで、山奥で畑をやっていることを話すと、こう返された。
「社会は無視して成り立っている」という言葉には正直グサッときたのだが(苦笑)、世界中のさまざまなデモに参加し、アクティビストを地で行くガチ勢の彼女にとって、それだけでは足りないというのは、嘘偽らざる心情なのだろう。
私はこの取材のあとから、自分の仕事を通して社会貢献や社会変革することを、具体的にイメージするようになった。
本を通じてメッセージを発信し、読者が共有し、読者に考えてもらう。それは本というメディアにとって、とても根源的で本質的な価値だ。
だが、本をつくり、売り、読んでもらうことで、どれだけ社会が変わっただろうか?
もう一歩、考える必要があるのかもしれない。本の内容だけではない、何かを。
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