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二〇一六年の短歌

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ドイツ暮らしを日記がわりに短歌にしたためました。
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2016年7月の記事一覧

二〇一六年一月の短歌

転がったじゃがいも拾う連帯感くつくつ笑いが広がる夕暮れ

ぴんと立つ短い白髪を引っ張ってその強情さに驚き、あきらめ

隣人の老女の咳が響きおり壁から染みだす聖夜の孤独

隣人の老女が聖夜にひとりきり眺めるテレビはSATC

迷彩服着れなくなったと腹たたくあなたはかつて兵士だったのね

灯が揺れるモミに駆けより我先に包み紙やぶる子らの歓声

海からの風に砂舞うテルアビブ猶太の男の帽子が落ちて

ベル

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二〇一六年二月の短歌

サーカスのポスター眺める難民の目は虚ろなり地下鉄の駅

とんかつを揚げた私の髪からは母の匂いがして郷愁

春近く分厚いヤッケ脱ぎ捨ててあなたと走る雨上がりの道

あの人に素直にダンケと言えたなら素敵なセーター一枚買おう

責任を取ってくれるの本当に? 深くなりけり目尻のシワの

丘のぼる空は快晴気温二度さえぎるものなく堆肥はかおりて

雨やまぬ日曜の部屋薄暗くあなたのうなじの匂いかいでる

いたず

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二〇一六年三月の短歌

夕暮れの油のうえの断末魔あなたの血になるムネ肉縮む

群青の空を切り裂く鎌のような月をみていたあなたとふたり

弦月の説明すれば君は言うここでは「鎌」とそれを呼ぶのだと

ヤドリギが宿る木宿らぬ木がありて草の世界も人気投票

春近し樺の根元に寝転んで見上げた空の毛細血管

楽しい日ほど深くシワが刻まれてまるで天罰下ったみたいに

いつの日かあなたはそこに住むのよと絵本を眺める私を抱きたい

亡き祖

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二〇一六年四月の短歌

啄木鳥の巣づくりの音聞きながらとろとろ微睡む日曜の朝

洗いたてのシーツにもぐって眺めてたあなたの肩に落ちた光を

幸せが見つかるかしらぬかるみの蹄鉄のあとたどってゆけば

内臓を見せて空むくヒキガエル我は生きたと呵々大笑し

脇役の少女が喝采浴びた夜のトゥーランドットの気分、みたいな

生まれたての子牛のあたまをなでながらシュニッツェル思う私を許して

木から木へ飛ぶリス指さし声あげる君の寝グセ

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二〇一六年五月の短歌

しあわせがここにあるのは知っててもいつもなにかを探して彷徨う

ここではないどこかへ行きたい症候群千切りにして大鍋でゆで

永遠にフィルムの君は若いまま「あきらめるな」と呪いをかける

眠れぬ夜あなたの寝息月あかり秘密の小箱ひとり開いて

幸せであればあるほど部屋の隅の黒猫ひたりとこちらを見つめ

白アスパラゆでる香りでいっぱいのきしむ階段のぼってただいま

裏庭の緑のカーテン濃くなって隠れてキス

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二〇一六年六月の短歌

雲の下解体される観覧車見ないふりしてペダルを踏んだ

はつなつに逝った祖母の部屋でひとり「卒業写真」口ずさむ母

お客さま用の伏せたティーカップから祖母が作りし押し花ひらり

神楽坂一年ぶりに降り立てばペコちゃん焼の香りが「おかえり」

風船ガムはじめて作れたいい日だね。じゃあ次はなにに挑戦をする?

悲しくもわたしが大人になったのは蜂蜜の適量がわかった日

ずる休みしてカウチに寝そべって不倫の相

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二〇一六年七月の短歌

地下鉄でぽろぽろ零れ落ちるようなヒジャブの子たちのおしゃべり愛し

意地悪なふりをするけど知ってるの最後のいいとこ私のものね

いつまでも空の端あかるい夏至の夜の月をみていたあなたとふたり

夏至の夜のあなたのいないバルコニー月の光が背骨にしみる

退屈なクラスの窓に鳩飛んでケバブのにおう移民学校

友人があなたの国で死んだのと言いかけやめる移民学校

大海をゆくはずだった幾千のピンクの粒を歯でつ

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