メンヘランド(小説

「あみちゃんはリスカ中毒、さなちゃんはPMSなのにふたりとも正社員で頑張ってるんだよ。ゆずも、正社員なりなよ。意外といいらしいよ。」
けいこが言ってきた。

無職実家住まいになってからは、障がい年金だけで生活してるので、実家が毎日荒れ果ててるけいこは、わたしが働きもせず実家のごはんを食べながら、男に送り迎えしてもらいながらお金のかからない生活をして田舎に住んでて車持ってなくて、なんかとにかくちゃんとしてないって思って、それときどき説教してくるんだけど、

わたしは、けいこみたいに女友達いっぱいいなくて、わたしの女友達はけいこだけだし、ほかに話す人といえばわたしが何度も相談に乗ってもらってる占い師さんと、家族と、ときどき会ってるセフレで色々運転して連れて行ってくれる5歳年上のトオルだけど、トオルとももう無理だろう、だってトオル、ほんとうは彼女いたらしいし、その女の子と結婚するらしいから。

トオルの彼女は、正社員。わたしは、バイトしかしたことない。だから正直、正社員の苦労とか知らない。でもわたしは、正社員じゃないけど、バイトで苦労してる。なのに、けいこは、いつも、わたしのことを説教してくる。けいこといると、わたしがだめに思えてくる。そしてけいこは、いつも、なにか商品を勧めてくる。マルチ商法というらしい。家族は、けいこと縁を切りなさいって言ってくるけど、わたしにとってけいこは、かっこいいところがあって、女友達いっぱいいるし、正社員としてバリキャリしながらマルチ商法しながらも自分でネイルアーティストの副業もやってて、すごいの。それで、けいこは、わたしの何倍も稼いでて、わたしにいつも、スタバのコーヒー奢ってくれるの。

わたしの唯一の友達、けいこなの。

でも、ひとつだけけいこに言いたいのは、もう、商品はわたしは買いませんよってこと。


最初は、けいこの勧めてきた商品を使えば、いいおとがあるのかなって思ってたけど、けいこの勧めてきた商品は、あんまりよくなくて、断って、そしてわたしは、、、、


うとうとと寝てた。翌日、起きたら、けいこは、もういなくなってた。

LINEで、けいこが死んだって、来てて、よく読んだら、けいこのお母さんからだった。けいこは荒れ果てた実家を飛び出して自立して男にも媚びずに、ひたすら、働いてビジネスもして女友達にも商品を打ってたのに、いきなり、死んじゃった。


どうしてですか?って聞けないわたしがいた。

でも、驚いてない自分もいた。


けいこはいつか死んじゃうなって思ってた。


わたしは、生きてるけど、死ぬ予感してないのに、なんだか、けいこは近々死ぬっていうことは予感してたもん。けいこはいつも、とっても、頑張ってたし、お金も稼いでたし、わたしよりキラキラしてて、キラキラしてたからわたしはかっこいいって、思ってたけど、いつか死ぬって、思ってたから、びっくりしてない自分がいて、満月の夜に、きっとなにかがあって、けいこはもうこの世界にいないんだね。

わたしはそれからも、正社員になることもなく、でも無職でいることもやめて、近所のカフェでバイト始めました。障がい者雇用じゃないし、障がいのことを伝えてないし、人手不足で休みづらいけど。トオルは、結婚したけどうまくいかなくて、わたしとまた会いたいんだって。不倫になっちゃうから、会わないんだけど、けいこが生きてたら、なんて言うかな。そんな男となんで縁を切らないの?って説教してくれるのかな。バイトはじめて4年経って、わたしは、トオルに告白された。どうやら、トオルは、結局離婚したらしい。トオルとわたしは、付き合うことになった。バイトも続いてるし、障がい者年金と合わせればそれなりになるので、わたしは、貯金も貯まってきた。

リスカ中毒も、PMSも、休職も、ある中も、ぜんぶぜんぶ、メンヘランドでは当たり前。でも、けいこにとってそれは当たり前じゃなかった。わたしがフツーじゃないってけいこは思って、わたしのことを変えたかったのかもしれない。




トオルとわたしの間に、元気な子供が生まれた。けいこと名付けた。そのあともふたり子供が生まれた。

わたしはバイトを続けた。今年は桜が咲かないらしい。娘のけいこはを連れて桜を見に行けないらしい。あぁ、それもありだ。そんな気がしてた。


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