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【自我同一性を確立するために】~エリクソンの漸成発達理論②

今回は、前回書けなかった、エリクソン理論の最重要概念である、「自我同一性の確立/拡散」と、「モラトリアム」についてお話しします。

これはエリクソンの理論では、「青年期(12歳~18歳ごろ)」の発達課題となります。
この時期に、この課題を達成するか、若しくは失敗するかで、どのような状態になっていくと考えられているのでしょうか。
これは、ご自分の経験や現状と、是非照らし合わせて考えてみてください。

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エリクソン(Erikson,E.H.)は、自我発達における中心的な問題として、青年期の心理社会的危機である「自我同一性の確立/拡散」を最重視しています。

自我同一性の確立とは、「自分の目指すものや人生の目的など、自己の社会的な位置づけに関する肯定的・確信的な感覚を有すること」を指します。すなわち、社会内において、自分には存在意義があると感じられる状態のことを意味します。

また、過去から今に至るまでに培ってきた「自分」という存在の連続性を認め、他の誰とも違う、独自の一貫性を持つ人間として、自分の独自性(ユニークネス)を感じられる状態でもあります。

ただし、その独自性は、決して独り善がりなものではありません。それは、社会参加や他者との比較を通じ、自分独自の社会内役割や、自己の社会的価値を見出すことによって得るものなのです。

この営みを通じ、「やりたいことは何でもできる」「なりたいものには何にでもなれる」という全能感は否定されます。つまり、非現実的・夢想的な自己感が放棄され、自己に関する現実的な検討を通じ、自己の社会内役割の感覚も、現実的なものになっていくのです

この時期は、思春期と重なるため、第二次性徴などの肉体的変化が生じ、自己概念の大きな変革が求められることになります。

当然、それまでの「子ども」の自分と比べ、肉体的に全く異質な状態となるため、自己の一貫性は混乱に陥りやすくなります。

その一方、肉体的には「おとな」に接近するため、それまでの庇護されるだけの存在という立場から、積極的に社会参加を求める存在へと変化していきます。

★また、エリクソンは、青年期の姿として、これもまた最重要テーマとなる「モラトリアム」の概念を挙げています。

「モラトリアム」とは、経済用語の「債務猶予期間」のことです。
エリクソンはその言葉を引用し、「身体的・心理的におとなに近いが、まだおとなではない青年期を、社会がシステムとして青年に与えている社会的猶予期間であると考える。そしてそれを『モラトリアム』とよぶ。その間は、社会的な責任や義務はある程度免除されている」と考えました。

具体的には、「青年」には社会的義務(納税、勤労など)は免除されている一方、親から自立した社会参加が一定レベルで認められ、アルバイトやボランティア、特定のスポーツや勉学への没頭など、自己の将来につながるような活動が奨励されている、と考えます。

この期間に、青年は、様々な関心分野を試したり、職業を経験したりするなどの試行錯誤を通じ、自己の独自性を理解し、今後の人生において関与すべきものを見出すこと(すなわち、自我同一性の確立)が求められることになります。

つまり、モラトリアムは、青年が、社会の中で自分の位置づけを見出し、自我同一性を確立する準備段階といえます。

★その一方で、危機の解決に失敗し、自己の社会的位置づけを見失った状態が「自我同一性拡散」となります。

つまり、自らが関与すべき対象(職業や役割)を社会内に見つけ出せず、自分の存在意義を社会的に見出すことができていない状態を指します。

この状態は、自我同一性が確立していく過程において、多くの人が経験すると言われますが、これが長期化すると、以下のような不適応反応が現れやすいとされます。

①時間的展望の拡散:将来の展望を失い、刹那的な生活を送る状態。
②自意識過剰:他者からの評価に敏感になる一方、誇大な自己像を持つ状態。
③否定的同一性:社会の期待に対する反抗のため、反社会的な役割を遂行しようとする。
④勤勉性の拡散:努力の意義を見失い、課題への集中の欠如や、反動的な過剰な競争が現れる。「勤勉性」は、前の段階に獲得した自我特性である。
⑤親密性の拡散:自我を脅かされる不安から、親密な関係を結ぶことが困難となり、一対一の関係をもてなくなる。これは次の段階の「孤立」の状態である。
⑥権威の拡散:盲目的に権威に従ったり、あらゆる権威を否定したりする。
⑦理想の拡散:特定の信念に盲目的に没入したり、あらゆる社会的理想を回避しようとする。

※エリクソンの想定している青年期は、思春期の数年間のことであり、日本の学齢で言えば中学生・高校生時代がこれにあたります。

しかし、これは20世紀中期のヨーロッパの話であり、現在の日本や欧米では、この時期に自己の社会的役割を模索する行動を起こす青年は、むしろ少ないでしょう。

そのため、青年期以降の各段階は、年齢によって区分せず、社会的立場によって区分することが多いと思われます。

よって、日本では、「青年期」については、高校生・大学生・社会人の初期辺りを想定して研究したものが多くなっています。
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以上のようになります。

前回もお話しましたが、この各発達課題は、その時期固有の問題という訳ではなく、あくまでも、「その時期に特に多く経験するだろう」というものです。
発達課題が前後したり、社会との関わり合いにより、何度も現出したりすることもあるものです。
ですので、その問題が生じた時が解決の時期、でもある訳です。

ということで、以上が、エリクソンの漸成発達説のキモになる部分でした。
前回のお話とセットで読んでいただくと、分かりやすいと思いますので、ぜひ前回の記事もご覧ください。

エリクソンは、その生い立ちや人生そのものが、波乱に満ちたもので、まさに混迷を極めたような人生なのです。
それ故に、「自我」や「自己」についてを、生涯かけて追い求めたのです。
関心のある方は、調べてみてください。


それでは、今回はこの辺で!


※参考・引用文献「心理学概論」(河合塾KALS)

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