若者は悲しい
若者は悲しい。
僕らはいつだって若者という大きな箱から逃れようとする。
若者と名のつく箱は僕らを拘束し、束縛し、掴んで離さない。
誰もが若者から逃げようとする。
でも、そのがむしゃらな姿勢こそ、
若者のしるし。
二律背反。
僕らは嘘をついていない。
彼らは嘘をついている。
僕らは嘘をついている。
若者は、夢を追う。
そう、夢は箱から逃げ出す一つの手段だ。
夢は僕らの一つ先を進んでいるように見える。
若者の(ないし若者だった大人の)群像は目の前を歩いている。彼らが角を曲がって、ヒラリとその裾をなびかせる。僕らは慌てて追いかけ、いくつかの角を曲がり、ようやく、群像に追いつく。でもそれは、かつての自分の、過ちや失敗が作り出した、ほころびだったりする。
お手上げだ。
日が沈み、地平線が赤く染まる。
電線にとまった黒い鳥が音符のように鳴いている。
今日が終わってしまう。
いくつかの箱が夕焼けに照らされている。
小さな箱、大きな箱、豆電球がついたケーブルが巻かれている箱(わずかながらに光っている)。
でも、僕はそのどれにも属していない。
僕のことを知っている人間はいない。
海の音が聞こえる。
風の音が聞こえる。
カーテンを閉める。
僕は一人だ。
夜になればほとんどの若者は眠ってしまう。あれだけ若者を憎んでいたのに。彼らはいつだって半端なのだ。折りはじめた鶴が羽を獲得する前に、全て投げ出されてしまう。さながら蕾のようなその放棄の名残は風に吹かれてどこかに追いやられる。
「いいかい何もなかったさ」
彼らは箱に潜り込み身の安全を感じれば、すぐに眠ってしまう。彼らは簡単に物事を撤回し、なかったことにする。
僕はすごくがっかりする。
いつだってそうだ。
いつだってそうだ。
簡単にそれを放り投げていいはずがない。
僕は一人だ。
一人は怖い。
すごく怖い。
明日、陽が登らないかもしれないと考えると恐ろしい。
今、何かをしなくては。
追いつかなければ。
今。
追いかけないといけない。
白い箱、黒い箱、頂上が覗けない箱、色んな箱をすり抜けて、目の前の何かを追いかけないと。何度も、何度も追いかけないと。次は、今度は、いつ終わるのか分からないから。
でも、何を追いかければいい?
僕は一人だ。
怖い。
一人はいやだ。
そして、
いつもの朝がやってくる。
昨日と変わらない海の音、風の音。
平凡な、ありきたりな1日は平等に訪れる。
太陽が顔を出している。
いつもと変わらない日常が、箱たちに陰影を与える。眠っていた彼らに目覚めを与える。
大きなあくび。
小さな寝返り。
彼らは、少なくとも僕より幸福に見える。
僕より恵まれて見える。
色んなことが僕とは違って、輝いて見える。
そんな景色を眺めると、僕は打ちのめされてしまう。
どうして僕は眠らなかったんだろう?
僕は何のために苦しんでいたんだろう?
彼らは何を放り出し、僕は何もそんなにも自棄(やけ)に、意固地になっていたのだろう?
どうして僕は一人なんだろう??
ひょっとしたら僕はこのまま、
どこにも辿り着かないかもしれない。
若者は悲しい。
僕は嘘をついていない。
彼は嘘をついている。
僕は嘘をついている。
僕の箱は、まだ用意されていない。
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