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建設業のM&A~建設業のM&Aで売り手及び買い手が得られるメリット~

こんにちは、M&Aガイド事務局です。

近年、建設業界ではM&Aの件数が増加しています。廃業に代わる手段としてM&Aが経営者に注目されているからです。建設業は人手不足、市場規模の縮小等の要因から厳しい経営環境に置かれており、そのまま放置すれば廃業を選択せざるを得ない企業・個人事業主が多く存在します。しかし廃業するにもコストがかかり、廃業すれば従業員や取引先など関係者にも大きな影響を与えてしまいます。一方、廃業を防ぐ手段としてM&Aがあり、建設業経営者もM&Aに強く関心を持ち始めています。この記事では、建設業の現状と問題点を踏まえ、廃業よりM&Aの実施がどのように当事者や利害関係者にメリットがあるのか、詳しく解説します。

国内建設業の現状と課題

国内建設業界の現状ですが、国土交通省が公開している資料によると、1992年度に建設投資額が約84兆円のピークをとなった後、減少傾向に転じ、2011年度には約42兆円まで落ち込み、その後は増加に転じて、2019年度には約56兆円となり、目下も50兆円前後を推移しています。

今後も公共工事関連では、高度成長期に建設された建物や道路・橋など、社会インフラの建替え・更新工事需要が控えており、加えて、自然災害の拡大を背景に未然防止のための治山治水事業など、建設業が取り組まねばならないプロジェクトは山積みです。このように大きな建設需要が見込まれていることから、建設業が事業さえ継続できれば、廃業には追い込まれにくい状況です。

参照:建設業の現状とこれまでの取組(国土交通省):https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001314888.pdf

一方、建設業に係る人員及び後継者の確保に関して、建設業業界は深刻な問題を抱えています。

同省の資料によると、建設業の就業者数は1997年度の685万人をピークに低下傾向をたどり、2018年度には503万人と大きく低下、以降も増加の兆しが見えません。建設業は3K(きつい、汚い、危険)の代表といわれる業種であり、過酷な労働条件のイメージから若者の入職者が他業種以上に減少傾向にあります。さらに、高齢の就業者が次々と引退していくため、今後も就業者数が減ることが予想されます。

また、帝国データバンクの後継者不在企業動向調査(2019年)によると、国内企業の後継者不在率は2019年全国平均で65.2%、これを業種別で建設業に限れば、後継者不在率が70.8%と、全業種中トップと極めて深刻な状態です。この状態を放置すれば、いくら建設業界の先行き需要が大きくても、人手不足や後継者難から廃業を選択せざるを得なくなります。

参照:全国・後継者不在企業動向調査2019年(帝国データバンク):https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p191104.pdf

建設業が廃業・倒産すると地域経済への影響が大きい

仮に建設業が廃業や倒産すると、極めて地域経済への影響が大きく、雇用情勢の悪化や連鎖倒産の可能性から、最終的に日本経済へ深刻な打撃を与えることになります。

建設業は、飲食業や農林漁業等ととともに、地方でも人を雇用吸収できる重要な業種です。また建設業が元請け・下請けのピラミッド構造になった受注形態の労働集約型産業の代表であることから、その建設事業者が廃業してしまうと、働いている多くの従業員が解雇され、行き場を失ってしまいます。

建設業の廃業や倒産は地域経済に、ひいては日本経済に極めて深刻な影響を与えてしまうのです。

建設業を廃業するならM&Aで売却した方がよい

では、建設業を廃業するなら、その影響を最小限にできる何か良い他の手段はあるのでしょうか?それがM&A(企業の合併及び買収)です。M&Aを使って建設業を有力な他社や余裕資本を持つ個人に売却すれば、廃業に伴う悪影響を避けられるばかりか、経営者含む関係者が多くのメリットを受けることもできます。

一方、建設業を廃業すれば、廃業に伴うコストが追加でかかるばかりか、法人に借金を経営者が連帯保証していれば、廃業後も経営者はその借入金を返済していく義務を負ってしまいます。廃業は、決してリスクゼロで行える行為ではないのです。

それならば、M&Aで建設業を他社や資金を持つ個人に売却すれば、そのリスクを回避しつつ売却メリットも得られます。次章ではそのメリットを売り手及び買い手に分けて、詳しく解説します。

建設業のM&Aで売り手及び買い手が得られるメリット

建設業の売り手が得られるメリット

建設業のM&Aで売り手が得られる代表的なメリットは以下の4つです。

事業承継できる・後継者問題が解決する

M&Aで建設業が売却できれば、その経営者に後継者がおらず、将来廃業リスクがあったとしても、他社等に売却することで後継者問題が解決するとともに事業もそのまま継続できます。これは、売り手経営者に取ってM&Aの最も大きなメリットです。

売却益が得られる

経営する建設業を後継者不足や経営難のまま放置して廃業してしまうと、廃業コストがかかるばかりか、会社に借金が残っていれば、経営者は廃業後も会社に変わってその借金を払い続けなければならないリスクがあります。

しかし、M&Aで建設業をうまく売却できれば、創業者として経営者は売却益を得られるばかりか、その資金を老後資金に充てたり、別の事業資金に使ったりすることも可能です。もちろん借金は買い手が引き受けてくれるので、連帯保証の義務も免れます。

従業員の雇用が維持できる

売り手メリットの3つ目は、廃業した場合、従業員は解雇され職を失いますが、M&Aで建設業を他社等に売却できれば、従業員はそのまま買い手に引き取ってもらえるので、雇用が維持できます。

一般的に、買い手は売り手より事業規模が大きく財務内容が良い先が多い場合も多いので、売り手側従業員の労働条件も買い手企業にあわせられ、結果として従業員の労働条件も改善されることがあります。

買い手の経営資源の活用が可能

M&Aで建設業が売却できれば、以後、売り手は買い手側企業にグループのメンバーとして参加したり、事業部門の一部に加えられたりします。すると、買い手の持つ経営資源の活用が可能になり、最終的にコスト削減ができます。

たとえば、売り手の事業規模が小さいときには、毎回少しずつしか事業資材が購入できず信用度の低さからコスト高の経営を強いられていたとしても、買い手に譲渡されてグループの一員になると、事業規模が大きくなり信用度も上がるため、価格交渉力が付き低コストで資材購入ができるようになります。

あるいは、売り手が高いリース代を払って借りていた建設機材や設備等のリソースも、譲渡後には買い手がすでに自社(グループ)内で使っている機材や設備を共同で利用できるので、わざわざ高い費用を払ってまで資金を社外流出させる必要がありません。

これもまた、M&Aによるスケールメリットといえるでしょう。

建設業の買い手が得られるメリット

建設業のM&Aで買い手が得られる代表的なメリットは以下の3つです。

事業成長へのスピードアップが図れる

建設業のM&Aで買い手が得られるメリットの一つが事業成長へのスピードアップが図れる点です。具体的には事業エリアの拡大や異業種への進出などを通じて事業成長できます。

もともと建設業の特徴として地域性が強く、以前は他地域の同業者まで買収してあらたな地域に進出しようとする経営者はまれでした。しかし、人材不足や後継者難を背景に経営者の考え方も大きく変化しており、M&Aを使って同業他社を買収し、事業エリアの拡大を図ろうとする経営者も増えてきています。既存で行なっている建設業を他地域で展開する場合、あらたに建設業の許可も取得する必要があるので、その場合は新規で始めるよりM&Aで同業他社を買収する方が手っ取り早いというわけです。

また、それは異業種への進出も同じで、建設業だけでは将来の発展が見込めないと経営者が判断した場合、M&Aで建設業ではない異業種の会社を買収すれば、リスク分散のための多角化経営ができます。新事業展開の時間短縮も図りつつ、将来の収益源を会社内に取り込めるでしょう。

いずれも時間短縮して事業成長のスピードアップが図れるという点で、買い手には大きなメリットとなります。

有資格者の確保及び人材不足の解消

建設業というのは、許可が必要な業種でも29業種もあり、また各工事を行なうにはそれぞれ業種ごとに許可を取る必要があります。加えて建設工事では、現場ごとに資格を持った現場代理人を配属することが義務づけられています。

そのため、会社の中に各種工事に必要な有資格者がいくらいるかで、会社が上限でいくら工事を受注できるか決まるので、会社が成長するためにも有資格者数の確保が大きな経営課題となっています。しかしM&Aで同業他社を買収できれば、同時に各工事に必要な有資格者も確保できるのでその目的を早めに達成できます。

建設業界は現状極めて深刻な人材不足に陥っているので、あらたに採用市場に人材を求めるよりも、M&Aで会社を買収すれば、建設業に必要なスキルを持った人材を確保でき問題点を解消できるのです。

事業で使う資材機材調達でスケールメリットがある

売り手側のメリットでも、事業で使う資材や機材調達のスケールメリットを解説しましたが、これは買い手側でもメリットになります。

買い手の事業規模が、売り手が参加することでさらに大きくなり、業界内での存在感や信用度が増すととともに、取引先に対しても価格交渉力が強まるので、コスト削減を通じて最終的に利益の拡大につながってきます。建設業で使う資材や機材の調達費は、他業種に比べて極めて大きいので、M&Aの結果得られる買い手側のスケールメリットもまた大きいです。

おわりに

建設業のM&Aについて、そのメリットを中心に詳しく解説してきました。最後になりますが、建設業のM&Aでは重要な注意点がひとつあります。それは、粉飾決算に対する対応です。

ゼネコン等の大手建設業者は、顧問会計士もいることから簡単に粉飾決算に手を染めることはありませんが、地方の中小建設業者は公共工事受注に当たり、経営審査事項を公的機関に良く見せるため、工事に係る会計基準を操作してやむにやまれず粉飾決算を行なうことが”0”ではありません。建設業のM&Aでは、この点に注意をする必要があります。

それだけに、事前の交渉できちんとDD(デューデリジェンス)を行なえばそれも防げるので、M&A専門家と相談して、きちんと基本に即したM&Aを行なうことをおすすめします。

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