見出し画像

飲食業・レストランのM&A

飲食店は低資本で事業を新たに始められる業態のひとつです。裏を返せば、新規参入者が多く競争が激しいことにもなるので、経営不振から開業から数年以内に閉店・廃業して撤退してしまうことも多々あります。しかし、廃業するとなるとそのコストも少なくないものになることも多く、そのコストが次の事業を始めるときの大きな足かせになる場合もあります。もし、飲食店を閉店・廃業するつもりなら、M&Aで飲食店を売却・譲渡することを検討してみてはいかがでしょうか。経営者にとって飲食店を廃業するより、良い選択肢となるかもしれません。今回は飲食店のM&A活用について、詳しく解説します。

昨今の飲食店動向と廃業件数

帝国データバンクの調査によると、2021年1-6月に全国で休廃業・解散した企業は28,400件と、2020年1-6月期の29,780件から比較して若干低下しました。しかし、それは官民一体の資金繰り支援、コロナ対応補助金などが中小零細企業を資金面から支援したものを踏まえての数字であり、コロナ過が追い打ちをかけるなか、依然として景気は明るいとはいえない先行き不透明な状況が続いています。

また、東京商工リサーチの「2019年後継者不在率調査」では、中小企業における後継者不在率は55.6%となっており、とりわけ代表者の高齢化や、若年層の減少が後継者難に拍車をかけている状況が浮かび上がっています。

中でも新型コロナウィルスの影響を強く受けている飲食店業界は、度重なる非常事態宣言で、営業時間短縮、客数制限、酒類提供禁止、それに伴う休業など、他の業界に増して厳しい業況は続いています。もともと資本力が小さい事業者が多い業界だけに、後継者不足や経営不振から廃業・解散を選択したり、他社に飲食店を売却・譲渡する動きが強まったりしています。

当面、この流れは強くなることが見込まれています。

「後継者不在率」調査:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20191107_01.html
2021年1-6月 全国企業「休廃業・解散」動向調査:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p210705.html

飲食店の廃業原因

飲食店の廃業原因は大きく分けて2つあります。ひとつは「経営状況の悪化」、もうひとつが「後継者不足」です。

飲食店業界は他業種以上に新規参入が容易であり、その分競争が激しくなりがちです。また、外部環境変化の影響を大きく受けやすいため、ちょっとした環境変化でも大きな影響を受け、その結果経営不振に陥ることがあります。いったん経営不振に陥ると財務体力が強くない事業者にとっては復活も難しく、それが廃業や他社に飲食店を売却する動きにつながります。

また、飲食店は経営黒字を出している先でも後継者問題を抱えており、それが解決できなければ廃業や売却・譲渡という選択をせざるを得ません。しかし、廃業や倒産したら多くの関係者(顧客・従業員、取引先等)に大きな打撃を与えてしまいます。

そうなってからでは遅いので、できればまだ運営の見通しが明るい段階で積極的に店舗や会社を売却・譲渡する努力をすれば、理想的な買い手と出会える可能性も高くなります。それが廃業や倒産を避ける有力な解決策になるでしょう。

※画像はイメージです

飲食店を廃業するならM&Aまたは居抜き売却で解決を図ろう

飲食店の売却方法は2つ、居抜き売却とM&A

飲食店の売却方法は主に2つあります。「居抜き売却」と「M&A」です。

居抜き売却とは、飲食店の内装や厨房設備などの造作(その物件のサイズや目的に合わせた造り付けの内装や設備のこと)をそのままの状態で買い手に売却することです。M&A(企業の合併及び買収)は、株式譲渡や事業譲渡等の手法で、飲食店を会社丸ごと、あるいは事業の一部(全部)を外部の法人・個人に売却譲渡することをいいます。

飲食店を売却する経営者は、飲食店を店舗単体で売却するのか、複数事業のうち飲食事業だけ売るのか、あるいは飲食事業を運営する会社ごと売却するのか、それぞれの事情に応じて「居抜き売却」や「M&A」を使い分けると良いでしょう。

飲食店の居抜き売却及びM&Aの相場

飲食店の居抜き及びM&Aの相場ですが、売却価格の相場はその飲食店の立地や売上規模、店舗内外の清潔感や事業の財務状況等で変わってきます。このうち居抜き物件の売却相場に関しては、特に飲食店の立地状況や売上規模がその相場を左右します。しかし、いずれにしても居抜き物件の売却価格は、個別の相対取引で決まると考えて下さい。

一方、M&Aで売却譲渡する飲食店の相場では、売却価格についていくつか算出方法があります。そのうち簡便なものとして、飲食店の総資産から総負債を引いた純資産(時価ベース)に営業利益を倍率(内容によって2~5倍)して加算する方法があります。これを計算式で示すと、売却価格=純資産(時価ベース)+営業利益×(2~5倍)となります。もちろんM&Aの売却価格がこの計算式通り単純に決まるわけではありませんが、売り手買い手とも価格交渉を始める際のおおよその目安程度にはなるでしょう。

飲食店の売却・譲渡で得られるメリット・デメリット

では、飲食店を居抜きまたはM&Aで売却・譲渡したとき、当事者はどのようなメリットを受けられ、またどんな点がデメリットになるのでしょうか。売り手、買い手の双方から解説します。

売り手側のメリット

飲食店を「居抜き」で売却するときのメリット

飲食店を居抜きで売却するとき、売り手が得られるメリットは主に3つあります。

メリット①:原状回復の費用がかからない。
通常飲食店を閉店・廃業するとき、その物件を家主からテナントとして借りていた場合、退去時に物件を原状回復して引き渡す約束をしていることが多いです。ところが、飲食店は調理で水や油等を使う機会が多く、他の業種より店舗の損耗摩耗がひどいので原状回復するにも多額の費用がかかります。

そこを居抜きで売却できれば、物件の権利をそのまま買い手に引き継げるので、家主の承諾さえもらえれば原状回復の費用を掛けずに済みます。

メリット②:居抜きを売却することで現金が得られる
原状回復工事費用を抑えた上で譲渡対価として現金も得られるので、廃業を選択するより大きなメリットがあります。

メリット③:家賃を払うリスクを避けられる
通常、物件を借りる際、家主から一定の賃貸契約期間を求められることが多いです。そのため、廃業したくて家主に早めに契約解除を申し入れたとしても、契約期間が残っていれば、その期間中、借り手は家賃を払い続けねばなりません。

しかし居抜き売却することができれば、すぐに買い手に物件を譲渡できる上、家主の承諾が条件にはなりますが、買い手に契約期間の残りを払ってもらえる場合もあります。家主にとっても新たな買い手から家賃が得られるため、相談に乗ってくれるケースは多いでしょう。

飲食店を「居抜き」で売却するときのデメリット

一方、居抜き売却のデメリットですが、売却については事前に家主の承諾を得る必要があります。家主が居抜き売却を嫌う場合もあるので、売り手は慎重に承諾を得る努力をする必要があります。

M&Aで「売却・譲渡」するときのメリット

飲食店をM&Aで売却・譲渡するとき、売り手は多くのメリットを得られるでしょう。

まずM&Aのうち、株式譲渡で飲食店を売却できると、事業譲渡に比べて手続きが簡単なので短時間で飲食店を売却できます。債権者保護などの複雑な手続きが不要になるからです。さらに株式譲渡を使うと、株主の変更が行なわれるだけで社内の資産や権利に原則的には変動はありません。会社をそのまま買い手に引き継げるので、従業員の雇用や取引先との契約も維持できます。(株主が変更した場合に契約を解除もしくは変更する条項が稀に契約に盛り込まれている場合もあるので確認が必要にはなります。)

次に、飲食店を事業譲渡で外部の会社・個人に譲る場合、売り手は売却したい資産や権利を個別に選んで譲ることができます。これは売り手経営者が会社の経営権をそのまま残したい場合に便利な方法です。この方法を使うと、不採算の部門や特定エリアの事業だけ売却して、残りの事業に経営資源を集中させることができます。

M&Aで「売却・譲渡」するときのデメリット

飲食店をM&Aで事業譲渡するとき、その飲食店が債務超過(総負債額が総資産額を上回る状態)の会社だと、譲渡後にその会社の債権者に「詐欺行為取消権」を行使されるリスクがあるので注意して下さい。これは、売り手にとって慎重に対応すべき重要な注意点です。売り手の飲食店経営者が「債権者に内緒のまま」、債務超過の会社を買い手に譲渡してしまうと、会社資産の中で現金化できたり利益を生み出したりしている重要な資産が第三者に移ってしまうので、会社に残るのは無価値な資産ばかりになり、最終的に債権者の利益を害してしまいます。

そのため、譲渡後に債権者にその事実が知られて、債権者から詐欺行為取消権を行使されると、譲渡契約の有効性を裁判所に取り消されてしまいます。あくまでこのようなケースでの事業譲渡の手続きは法的正当性を整えてから行なう必要があります。

買い手側のメリット

飲食店をM&Aで売却・譲渡するとき、買い手側が受けられる主なメリットは以下の3つです。

メリット①:低コストで新規出店ができる、あるいは事業拡大を図りやすい
買い手が飲食事業で新規出店を考えているとき、新たに店舗を探したり作ったりするとなると、立地の良い場所を見つけるための調査費、土地建物等の建設取得費、社員教育費、集客費など、多額の費用がかかります。

しかし、すでに経営している店舗をM&A等で引継げれば、設備や備品、社員・顧客も含めて確保できるので、新規出店より安く費用を抑えることができます。また事業拡大を図る場合にもM&A等で飲食店を買い取れば、すでにいる顧客、取引先、店舗や設備、経験のある従業員なども引継げるので、一気に事業の拡大を図ることができます。

メリット②:好条件の物件を確保しやすい
飲食店事業にとって立地の良さは売上に直結する極めて重要なポイントです。その点M&Aだと、既存の店舗を丸ごと得られるので、候補の中から自社の飲食業態にぴったりの立地条件の物件を確保できます。

メリット③:飲食店経営のノウハウを獲得できる
異なる業界から飲食業に新規参入しようとすると、まずは飲食店経営のノウハウの獲得が必要です。しかしM&Aで異業種が既存の飲食店を確保できれば、すでにそこにはスキルを持った人材や、飲食業を経営する上で欠かせないレシピ、必要設備等が整っており、すぐにでも経営をスタートできます。労せずして飲食店経営のノウハウを得られるのです。

おわりに

飲食店オーナーが、廃業を考えはじめる際に考慮するべき点を解説しました。特にM&Aの活用は廃業を選択するよりメリットがかなりあります。ぜひ、飲食店のM&Aを前向きに検討してみましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?