indigo la Endのファンとして(夜行秘密/カツセマサヒコ)

川谷絵音率いるバンド・indigo la Endのアルバム『夜行秘密』に入る、14の収録曲に合わせて書き下ろされた小説。14の短編集でありながら、徐々に物語が繋がっていく構成だ。

売れないバンドマンと売れない舞台女優の恋愛に始まり、バンドが売れ始めたことによる破局、MV制作のタイミングで登場する売れっ子脚本家と、彼のパワハラや性癖が暴露されたことによる大炎上、実はレズビアンだった美人マネージャーの恋。そして最終的には、複数の登場人物が死ぬ。

著者の1作目『明け方の若者たち』からして、取るに足らない恋愛物語をエモく飾り立てた内容なのだろうな、と予想していたら、ものすごく俗っぽいテーマの羅列で驚いた。

カツセさん、どうしたの?と思う一方で、おそらく著者自身がかねてよりファンだったであろうindigo la Endから(正確にはレコード会社から)この依頼が舞い込んだプレッシャーを想像すると、純粋にすごいな、よく書いたな、という気持ちにもなる。
それでも、indigo la Endのいちファンとしては、読んだことを後悔した。

私は『夜行秘密』の初回版を2枚買って聴き込み、ワンマンライブに3度足を運び、indigoが作り出す世界から受け取った印象を大切に守ってきた。
全ての曲のイメージが完璧に出来上がってしまっていたところに遅れて入ってきた、イメージと全く違う物語。
大事にしていた絵を知らない絵具で塗りつぶされたような、汚されたような気持ちになってしまった。

この本の巻末には
本書はindigo la Endのアルバム『夜行秘密』をベースに、著者が新たな解釈で書き下ろした作品です。
の一文が記載されている。
解釈はみんな違って当たり前だし、決して押し付けられたわけではない。
でも、こんな気持ちになってしまうのは何故か。

YOASOBIや、ヨルシカの『盗作』のように、あらかじめ音楽と小説がパッケージとして売られていたら、何の疑問も抱かずに受け入れられただろう。

小説が後出しだったから。あまりにも俗っぽかったから。
川谷絵音の発案ではなく、レコード会社による方針だと知ってしまったから。「この本が売れた」という事実が、「この解釈が正しいと多くの人が感じている」というように頭の中で変換されているから。
おそらくその全てが原因なのだと思う。

本をきっかけにindigoの『夜行秘密』を聴いた人も少なくないだろうし、音楽が広まるのなら手段は何だっていいのかも知れない。
でも、音楽を売るため、本を売るため、話題性のためにコラボしましたという動機が透けて見えると興覚めする。
バンドが商業と芸術の狭間に立ち続けていることなど分かっているが、それでも彼らには、永遠の芸術家のフリをしてほしいと願ってしまうのだ。

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