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ないから伝わる世界(老人ホームで死ぬほどモテたい/上坂あゆ美)

全く馴染みのなかった「現代短歌」の歌集。
5・7・5・7・7のリズムで淡々と綴られる日常を読んで「著者は同世代のおもしれぇ女なのだろうな」と予想していたけれど、プロフィールを見るとやはり1991年生まれだった。静岡県は沼津出身、東京の美大を出て、今も東京で働いているらしい。

ここに収録された短歌の数は、そう多くはない。
それでも、著者の両親が離婚し、父がフィリピン人の女の再婚し、フィリピンで死すという激動の人生が、最低限の字数で綴られている。
「なくても伝わる」言葉を全て削ぎ落とした世界は、「ないから伝わる」世界であった。

私が特に気に入ったのはこの3編。

・人は皆イエベで生まれ死ぬときはブルベになるのかもしれなくて
・味は同じ氷シロップに色を付けるみたいな仕事がこの世にはある
・業務スーパーで売ってた幸せを2kg単位で腐らせてしまう

ヴィレッジヴァンガードが好きな人なら、きっと好きになる1冊。

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