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ドラマチックな本能(FACTFULNESS /ハンス・ロスリング)

この本の冒頭には、世界に関するクイズが掲載されている。
例えば

Q. 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A. 約2倍になった
B. あまり変わっていない
C. 半分になった
Q. いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
A. 20%
B. 50%
C. 80%

といったもの。
正解はいずれもC。

著者が2017年に世界中で行ったオンライン調査では、これらの質問の平均正解率は12問中たったの2問。
また、学歴や国際問題への関心度に関わらず、人々は不正解の2つのうち、よりドラマチックな方を選ぶ傾向が見られた。ほとんどの人が、世界は実際よりも怖く、暴力的で、残酷だと考えているようだ。

本作は、スェーデンの医者である著者が、人々の知識不足に警鐘を鳴らし、事実に基づいて(ファクトフルに)世界を見ることができるように、その原因と対処法を綴ったベストセラーである。

人が世界を誤解する原因は、我々に生まれつき備わる10の本能にある。
それぞれの対処法をまとめると、以下の通り。

1. 分断本能
人はドラマチックな本能のせいで「二項対立」を求める。「世界には極度の貧困層もいれば億万長者もいる」という話は、「世界の大半は少しずつだが良い暮らしを始めている」という話より伝わりやすい。大半の人がどこにいるかを探そう。

2. ネガティブ本能
悪いニュースの方が広まりやすいと覚えておこう。悪いニュースが増えても、悪い出来事が増えたとは限らない。

3. 直線本能
直線のグラフを見ると、それが永遠に続くように勘違いしてしまう。直線もいつかは曲がることを知ろう。

4. 恐怖本能
人は誰しも「身体的な危害」「拘束」「毒」を恐れ、それがリスクの過大評価に繋がっている。リスクを正しく計算しよう。

5. 過大視本能
ただひとつの数字が、とても重要であるかのように勘違いしてしまうことに気づくこと。数字を比較したり、国あたり→一人当たりに換算したりしよう。

6. パターン化本能
ひとつの集団パターンを根拠に物事が説明されていたら、それに気づくこと。分類を疑おう。

7. 宿命本能
ゆっくりとした変化でも変化していると心に留めよう。ゆっくりとした変化がニュースになることはないが、知識のアップデートを忘れないこと。

8 .単純化本能
ひとつの知識が全てに応用できないことを覚えておこう。

9. 犯人捜し本能
誰かが見せしめとばかりに責められていたら、それに気づくこと。誰かを責めても問題は解決しないと肝に銘じよう。犯人ではなく原因を探そう。

10.  焦り本能
「いますぐに決めなければならない」と感じたら、自分の焦りに気づくこと。正しいデータに立ち返り、小さな一歩を重ねよう。


冒頭のクイズ、私もほとんどを間違えてしまった。
街やテレビで見かけるユニセフの広告や、小中学生の頃に社会科の授業(といってもそれも20年近く前になるのだが)から受けた ”貧しい国がたくさんある” という情報が一切アップデートされないまま、生きてきたせいだ。

おまけに、我々が日々スマホやPCでふれるメディアは煽ることが大好きだ。彼らは「ネガティブ本能」や「恐怖本能」を利用し、ついクリックしてしまいたくなる見出しをこれでもかとつける。

私は正直、煽ることで多くの人がポジティブな行動を取れるなら、それは必ずしも悪ではないのではないか、と思っていた。

例えば、ユニセフの広告。
「可哀想な子」の写真を使って、寄付を募る行動。
ユニセフという団体の是非はここではいったん置いておくとして、たとえ少数でもそういう子どもが実在していて、寄付金によって救われる命があるのだとしたら、それはアリなんじゃないかと思っていた。

ところが、「誇張は嫌い」と主張する著者が、エボラが流行した時に焦って取った行動(道路を封鎖したせいで3人が命を落とすことになった話)と、そこから導かれた

恐れと焦りは愚かで過激な判断につながり、予想もしない副作用を生む。
必要なのは総合的な分析と、考え抜いた決断と、段階的な行動と、慎重な評価なのだ。

という主張には、ハッとさせられた。

(ちなみに著者は、元アメリカ副大統領アル・ゴアの「地球温暖化対策に手を打つため、みんなが震え上がるようなことをやらないと」という意見に反発し、恐ろしい予想とバブルチャートをつくってほしいという要求を断ったという。)

コロナが流行したのはこの本が出版された少し後、著者が亡くなった後の話だ。
メディアの煽りやSNSで瞬時に拡散されるデマに、人々はうんざりするほど振り回されてきた。同時に、正しく世界を見る方法について考える機会にもなったと、私自身は感じている。

世界は日々アップデートされていて、自分は常に知識不足であるという前提を忘れず、焦って判断を下しそうになった時には、10の本能を思い出したい。

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