雑誌のポテンシャル(「若者の読書離れ」というウソ/飯田一史)
子どもの「読書離れ」は、実は過去の話である。
本離れが進んだのは1980年〜90年代のことで、官民が連携した読書推進運動のおかげで2000年代にはV字回復を遂げた。
読書離れが進んだのは、ラノベと雑誌だ。
文庫ラノベ市場は2013年以降の約10年で半減以下となり、中高生の読書調査で名前があがることもなくなった。これは、ウェブ小説の人気作品の書籍化(=なろう系)が急速に増えた結果、既存の文庫ラノベレーベルもなろう系を読むような大人向け作品を増やしたことによる10代の客離れが原因とされる。
※この流れの中、ライト文芸という分野で上手く生き残っているのが、かつてケータイ小説ブームを牽引したスターツ出版である。2020年以降、小説紹介クリエイターけんごなどによる「TikTok売れ」を販促につなげるなど、読者ニーズの変化に柔軟に対応してきた。(例えば恋愛小説の場合、かつては強引に女性を引っ張るオラオラ系男子がうけていたが、2010年代後半以降はお互い合意の上で恋愛関係を進める男子に女性主人公が溺愛される作品がうけている。)
また、読者層や提供作品を拡張するときにはレーベルを分けることで既存読者の客離れを避けた。
雑誌の読者が若者に限らず減少し続けていることは言うまでもないが、著者は雑誌こそ伸びしろがあると主張する。なぜなら、読書習慣には遺伝的要素がかなり大きいため、どんなに誘導を頑張ったところで2人に1人は読まない。一方、ビジュアル面が大きく文字数の少ない雑誌は違う。現在、高校生の雑誌不読率は67%程度だが、86年にはわずか7%だった。雑誌は誰もが読めるポテンシャルがあるのだ。
「短く、わかりやすく、他者に情報を伝える」ことを学ぶお手本としても機能する出版物として、雑誌読書の推進に力を惜しむべきではない。
このほか、本書では学校の読書調査で上位にあがる本を細かく紹介してあり、興味深かった。近年の人気図書を分析すると、中高生の読書に対する三大ニーズと、それらを効率的に満たすための四つの型が見えてくる。
私が中高生の頃は、重松清や石田衣良など、刺激的な非日常感+”若い主人公に共感しながら読めること”を重視していたように思う。関心が外から内(自意識)へ向かう多感な時期に、共感できないものを受け入れる器はないのだろう。
あと、三大ニーズの「読む前から得られる感情がわかる」というのだけは、今っぽいと感じた。『映画を早送りで観る人たち』に書かれていた”ネタバレ消費”にも通じるものだろうか。
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