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夜明け前の暗さ(夜が明ける/西加奈子)

「俺」は高校で、身長191㎝で独特な風貌をした深沢暁と出会う。暁はひどい吃音持ちで周りに溶け込めずにいたが、映画好きの「俺」にフィンランド俳優の「アキ・マケライネンに似てる」と言われ親交を深めたことで、人生が変わっていく。
アキ・マケライネンそのものになりたくて、吃音を克服し劇団に入る深沢暁と、テレビの制作会社に就職し、過酷な労働条件と奨学金の返済に追われる「俺」。二人ともが恵まれない経済状況や家庭環境に喘ぎ、重たい不幸がそれぞれにのしかかる。そして、二人は疎遠になっていく。
「俺」が血を吐いて入院し、限界を迎えたある日、フィンランドから小包が届く。
深沢暁のその後を知り、高校生の深沢暁が自分に救われていたことを知り、「俺」はようやく前に進もうとする。

「助けてください。」

作品の主題を象徴する「俺」のこの台詞を読んだ時、『世界の中心で、愛をさけぶ』で朔太郎がアキを抱えて叫ぶシーンを思い出した。
朔太郎は高校生で、無力で、救いたかったのは自分ではなく恋人のアキで、アキは白血病だった。
全身全霊で泣き叫ぶ朔太郎が表すように、助けを乞うことは本来、純粋な行為である。だから、大人になるほど難しくなる。病気のように誰の目にも明らかな不可抗力でもない限り、人に助けを乞うことを恥だと感じてしまうのだ。

400ページ超えの、それも貧困がテーマの重たい作品である。
「俺」と自分を重ね合わせられるような人は、もしかすると小説を手に取る余裕さえないのかも知れない、と思う。
私は普通の家庭で経済的な苦労を経験せずに育ったが、それでも「助けを求めてもいい」という西さんのメッセージが胸のど真ん中にずしんと落ちてきて、読み終わった後しばらく呆然としてしまった。

「俺」が高校時代ひそかに思いを寄せていた遠峰、「俺」の同僚ADの森、父親を早くに亡くした「俺」とその母の支えになった弁護士の中島。
「俺」を取り囲む魅力的な登場人物の出し方が、露骨な対比でないところも良かった。
「サラバ!」にハマった人は、ぜひ読んでほしい一冊。

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