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[英國暮らし]陶器の街ストーク・オン・トレントに行ってきた

 イギリスといえばティータイム、ティータイムといえばすてきな茶器! ということで、心地の良い夏のある日、早起きして陶器の街ストーク・オン・トレントに行ってきました。


ストーク・オン・トレントってどんな街?

 ストーク・オン・トレント(Stoke-on-Trent)はイングランドのスタッフォードシャー州にある「ファイヴ・タウンズ」と呼ばれた5つの町が統合してできた、「ザ・ポタリーズ」ともよばれる陶器生産の盛んな地域。オックスフォードからは電車で2時間ほど。ロンドンに次ぐ第二の都市バーミンガムを超え、マンチェスターやリバプールに近いあたり、なかなかの小旅行気分です。

ワイルド・ストロベリーの現代版、インキー・ブルー・コレクション

 代表的なのはやっぱりウェッジウッド! 子どものころ、ワイルド・ストロベリー(1964年に生まれた柄だとか)の茶器でちょっと良いお紅茶をいただいたことを思い出します。1730年生まれのジョサイヤ・ウェッジウッドが創業したあと、1940年にこの地に工場を移転したことがきっかけで、街は一躍陶磁器の街になったそうです。

(1)職人魂を感じる可憐なバーレイ

バーレイのファクトリーショップ。インテリアも素敵です。

 街にはさまざまな工房が点在しているんですが、今回いちばんのお目当てはバーレイ(Burleigh)のミドルポート・ポタリー。英国展などでもよく見かける、代表的な柄「ブルー・キャリコ」は、英国らしいエレガンスと、どこか無骨なところがイッタラなどの北欧食器との相性も良し。せっかくなのでファクトリー・ツアー(1人10ポンド)に参加してきたのですが、これがすごく丁寧で英国らしいものづくりに触れられてとても良かったのです。

上はカウクリーマーという代表的なミルク入れ

 ツアーは10人未満の小規模で行われ、1851年創業(ストーク・オン・トレントに工場ができたのは1889年)のバーレイの歴史から、実際に粘土を混ぜて陶器になっていくまでの様子を、いままさに作業中の工房を見学しながら学んでいきます。小さな建物がいくつも繋がった工房はけっして広くなく(見学中は邪魔にならないよう黄色いテープの貼ってある区画に集合します)、だからこそまさに手作業という感じで、機械も使いつつもひとつひとつの工程が人の手で丁寧に行われているのが、臨場感を持って見られます。

バーレイの魅力、繊細な柄のできるまで

 特に感激したのが、あの繊細な柄をどうやって陶器に入れていくか。こちらの写真の左側にあるローラーでティッシュペーパーのような薄い紙に柄を印刷し、それをレタリング(こすって転写するシール)のように陶器にひとつひとつ手で貼り付けていきます。この作業は女性たちが担当で、腕にバリッバリのタトゥーの入ったかっこいいパンクなお嬢さんお姉さんが、大音量のラジオにあわせて鼻歌混じりですっすっとティーポットなどの複雑な立体にシートを合わせて貼っていく姿は繊細でありながらかっこよくもあり、ただただ見惚れてしまいました(より難しいのはこのローラーに柄を彫る作業のほうらしいですが)。「たしかにお値段は高いと思うだろうけど、それはこの人たちの技術に払われているんだよ」という解説に、なるほどなと納得。

 イギリスに来てから、たしかに物価が高くて「これ日本なら100均にあるのに」なんて思うことも多々あるのですが、はたして安さだけを追求するのはいいことなのか、正当な対価が支払われていないんじゃないか、と考えることもたびたびありました。やっぱり実際に作っている方の顔を見るというのは大きい。とはいえわたしに手が出せるのはセール品やセカンド品なんですが、それでも「Made in England」「All Made Here」を誇らしげに掲げる精神には、ささやかながら賛同の意を示したくなりました。

これこれ、この照明が見たかった

 1時間ほどの見学を終え、ファクトリーショップへ。1階はセカンド品、2階は正規品、ツアー参加者は10%オフでお買い物できます。ツアーに参加する前は「やっぱりお値段がするし……食器は持って帰るのが大変だし……」などと思っていましたが、このご時世に本当に家内制手工業というか、クラフツマンシップが光るものづくりを目の当たりにしたとあっては、やっぱり何か持って帰りたくなります。

 どこか懐かしくも優雅なAsiatic Pheasants、わすれな草のように可憐なBlue Felicity、Fortnum&Masonコラボのブルー版もあるボタニカルなBlue/Green Prunus……色を揃えて(ブルー/グリーン)柄違いで合わせるのも素敵。ここでは1個1個、漏れがないか検品している(抜き出し検品じゃなくて、文字通り全部!)というティーポットを奮発。セカンド品はびっくりするくらいお買い得なものもあり(ティーソーサー4ポンドとか!)、イギリス国内・海外どちらも配送してもらえます。レジ付近には柄をあしらったカードも。正直に言って、ここだけでもう大満足でした。

(2)ポップかつナチュラルなエマ・ブリッジウォーター

アフタヌーンティーは予約必須です

 お次はエマ・ブリッジウォーター(Emma Bridgewater)へ。代表作のポルカドットをはじめポップな柄が有名で、個人的には高校生のころコンランショップで見た青い星(ブルー・スター)の描かれたマグカップとシリアルボウルにものすごく憧れたものです。当時は高くて手が出なかったけれど、一人暮らしをはじめた友だちが奮発してて、すてきだなーと思ったものです。

 今回イギリスに来てからは、ロンドンのデパート・リバティやオックスフォードにもある大好きジョンルイスなどで見かけた、スノードロップ、ブルーベル、水仙クロッカス、ヒヤシンスなど、イギリスに着いたばかりの春のころ目を楽しませてくれた、儚い花々を描いたナチュラルなマグカップのシリーズや、イチジクやアーティチョーク、トマトなど野菜が大胆に書かれたコレクションに惹かれました。あのデヴィッド・オースチン(育種家)コラボの薔薇のシリーズも(エマ・ブリッジウォーターという名前の薔薇が誕生したとか)。

お庭を囲むように、煉瓦造りの工房・ショップ・カフェが並んでいます

 バーレイに比べると、こちらは若い女性や子ども連れの家族にも大人気で、残念ながらファクトリーツアーは満席だったため、アフタヌーンティーとお買い物のみ楽しみました。アフタヌーンティーはとにかく空間がめちゃくちゃかわいいし、どの柄のカップやソーサーが割り当てられているかもわくわくします。あの大きなティーポットにはなかなか手が出ませんが、意外に使いやすかったです。サンドイッチの種類が豊富だったのも嬉しい。もちろん、B級品を売っているお値打ちなファクトリーショップも。実際に絵付けを体験できるデコレーティング・スタジオも盛り上がっていました。

 実はエマのほうはオンラインショップの夏セール(今回訪問する直前に終了)でほしかったマグなどを手に入れていたので、こちらは控えめに。Fortnum & Masonで見たグリーンが印象的なコラボマグがお買い得に手に入ったのはすごく嬉しかったです。どっしりしていて、使いやすいのもいいですよね。

ジョサイア・ウェッジウッドの像

(3)すべてのはじまりウェッジウッド

 最後はウェッジウッドへ。こちらは食器は上品すぎてわたしには観賞用だなと思ったので、ミュージアムを目当てにワールド・オブ・ウェッジウッドに向かったのですが……これが、すごかった。バーレイやエマ・ブリッジウォーターが小さな町工場だとしたら、こちらは巨大資本の入ったグローバル企業。そもそもこのあたりがウェッジウッド・エステートと呼ばれている超・超・広大な敷地なので、クリケット場なんかもあって、まったく違う街(まさに街ひとつぶんありました)に来たような、良い意味での遠足感がありました。

 あのヴィクトリア&アルバートがやっているミュージアム(V&A WEDGWOOD COLLECTION)を見学します。ウェッジウッドの歴史から、これまでのコレクションまで、見どころたくさんでなんと入場無料。太っ腹です。

このあたりの素朴で牧歌的なコレクションが好きでした。上はゼリー型。

 こちらはとにかく優雅、三越や伊勢丹などのデパート上階にある高級食器売り場の感じというか、アフタヌーンティーあり、他のメーカー(イッタラなども)のショップが並ぶショッピングコーナーあり、噴水あり、キッチンカーありと、ものすごーく余裕のある場所でした。何もお買い物しなかったのに、受付の方にタクシーだけ呼んでもらって、ウェッジウッドさんに心の中で敬礼しつつ、駅に戻りました。

街の移動手段

 それぞれの工房はかなり離れているので、わたしはタクシーで回りました。鉄道駅→バーレイ→エマ・ブリッジウォーター→ウェッジウッド→鉄道駅それぞれ10〜15分くらい、料金は10ポンド前後。お店で買い物したあとにレジでお願いしてタクシーを呼んでもらいましたが、一回乗れば連絡先がわかるのでご自身で電話してもいいのかなと思いました(名刺をくれて「電話ちょうだい」と営業されたことも)。

 一点、田舎だからかタクシーはカード不可で現金オンリーだったので気をつけてください。運転手さんに頼めばATMの場所も教えてくれますし、人懐っこい方が多かったように思います。「最近は日本人はほとんど来ない」「日本人なのにウェッジウッドじゃないの?」と言われたのには、古き良き時代を思ってつい遠い目になりました。

*今日のひとこと

 ストーク・オン・トレントはいつも暮らしているところよりかなり北の方なせいか、職人さんが多かったせいか、英語がなかなか聞き取りづらかった! ただ、ツアーの方もお店の方もタクシーもとても親切でした。


 

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