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恋愛初心者が不倫大魔王になる話

春の雪(豊饒の海・第一章) 三島由紀夫 1969
主人公の清顕にはハラがたってハラがたって仕方がなかった。
しかし一方で、わかるわー、わかるぞー、お前もかー、清顕ー、とも思っていた。

久しぶりの読書感想文に、畏れ多くもこんな大作家の大作を扱って大丈夫だろうか。
きっと無謀な試みに違いない。

何年も前に本は買っていて積ん読状態だったところ、下記の記事がきっかけで読んでみることにしたのです。

こんな素敵な記事を前にして、まともに書けるはずもなく。
なのでちょっとナナメから書いてみましょう。
いつもナナメだけど。

そう、主人公清顕にはハラがたつ。
美しい令嬢から恋慕されていて、自分も大好きなはずなのに、あんなにも冷たくするなんて。
麗しい聡子さんが可哀想で可哀想でホントにハラがたった。

しかし、わかるぞー、わかるわかるという面もあった。
男は、特に恋愛経験値の低い男は、メンドくさい恋愛はしたくないものなのだ。
だからツンデレ女子から「ツン」されたら、もう面倒になって逃げ出したくなるのだ。
17歳の時のボクがそうだった。
なぜあの日、ボクはあの子をふってしまったのだろう。とても綺麗だったあの子を。
大好きだったのに。
彼女も悲しそうにしていた。
それから数年経って、さらに美しくなったあの子を見かけた時は、後悔で悶絶したものだ。
あれから40年経った今でも後悔の念に苛まれている。
勿体ないことをしてしまった。
あの日に戻ってやり直したい。
戻りたい。
あの夏の日に。

えーっとなんでしたっけ。
あっ、春の雪だ。
そう、清顕は17歳のボクのように恋愛初心者だったゆえに、彼は実に勿体ないことをしたのだ。
しかし、どういう訳か彼は突如として実に甘美な不倫プレイを始めるのである。
清顕は、どんな不倫がもっとも甘美なものになるのかを知っていたかのように、何とも甘く切ない状況を悪魔的に作り出すのであった。
彼は恋愛初心者から何の経験の積み上げもなく、不倫大魔王へと変身したのだ。
ここの変貌が違和感無く、成るべくして成ったかのように、まったく自然に描かれていた。
三島の筆力おそるべしだ。

その、もっとも甘美な不倫とは何か。
いや、ここでは不倫という言葉は使いたくない。
もっとも甘美な恋愛とは何か、という問いに変えよう。
もっとも甘美な恋愛とは。
それは、禁じられた恋であること。
許されない恋愛であることだ。
そして同時に逢瀬が難しい恋愛でもあることだ。
そこには不倫が包括されているでしょう。
不倫という矮小な言葉は使いたくなかったのだけど、今の時代にとって分かりやすいので導入として使ったのです。

恋は、恋愛は、禁じられ度合い、許されない度合いが大きければ大きいほど、逢瀬に困難が伴わえば伴うほど、甘美になっていくのです。
俗な言い方をすると、バレた時の騒動が大変なほど、失うものが大きいほどキモチイイのです。なかなか会えないほうが、こっそり会うほうがコーフンするのです。
まったく。
本当に。
背徳はたまらんのです。
はーあ。
・・・あ。
ももも、もちろん、経験ではなく想像で言ってます。
ね。想像でも核心を突いているでしょう。

この小説は、つまり三島は、出版できる範囲では最上級の禁忌で美しい状況を作り出し、主人公たちに恋愛をさせています。
その最上級な状況を実にリアルに書いた。当時の貴族社会の優雅さと窮屈さを絢爛豪華に絵画的に描いた。
そこに壮麗なリアリティがあるからこそ、恋の甘美さも際立ってくるのです。
驚くべき筆力です。
これができるのは三島しかいなかったでしょう。

そしてその恋は永遠ではない。
長くは続かない。
終わりが迫っていることが自明でした。
それはそれはさらに燃えます。たまらんのです。

あー何とも俗な感想になってしまいました。
そもそも人間が俗だからね。
じゃあちょっと真面目なことも書こうかな。
たぶん語られ尽くされている角度でしょうけど。

この小説は色彩豊かです。色の表現だらけです。
特に「白」を基調に様々な「色」を登場させています。
「白」の文字は2ページに1回は出てきているでしょう。
そこへ、黒や緑や金や赤がアクセントに登場します。
しかも「白」も一様ではありません。アンミカさんが言うように「白」は多様にあるのです。
それら色の出現頻度、それぞれ何を隠喩するか、ストーリーとの繋がりなどを考察したら面白いかもって思いました。

ま。文学部卒論レベルですかね。大学に入り直して勉強しようかな。
一度高校生に戻って受験して。
高校時代に戻って。
そう、戻って。
・・・高校時代に戻って。
高校時代に戻れるなら、あの日に戻りたい。
戻れるなら、戻れるなら、あの夏の日に。
それではまた。


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