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15歳の娘が男だと言い出した。(16)

カウンセラーからのアドバイス通り、部屋の片付けを始めた。

自分の部屋の掃除は、彼女に任せていたので、ガッツリと部屋に入るのは久しぶりだった。
親が部屋に入ることは、全く抵抗のない娘であるが、部屋の掃除をすることはかなり苦手。この際に、断捨離もしたほうがいいのかなと思いつつ、カウンセラーの指示通り、自傷行為につながる道具を全部整理し始めた。

「先端が尖っているものは、この袋の中に入れてちょうだい」
無言のまま、彼女は、サクサクと袋に入れていく。
画鋲、彫刻刀、油絵用のナイフやクロッキー鉛筆の削りナイフにハサミまで。
出るわ出るわ、めちゃめちゃあるじゃん。。。

片付けながら、何か話してくれるかなと淡い期待をしたが、
親には言いたくないという気持ちをとりあえず大事にしてくださいと言われていたので、核心には触れず、淡々と片付けに集中した。
部屋がスッキリすると、なんだかちょっとだけ私のモヤモヤもスッキリ。
「やっぱ、片づけって大事だね、気持ちがスッキリするわ」
心の声を声に出し、その日を終えた。

カウンセリングが中盤に差し掛かったある日。
世の中は、コロナ感染を拡大させないためにも、クローズであるべきという価値観から、かなり解放に動き出していた。
旅行支援なども積極的になってきたこともあり、娘とおばあちゃん、そして私だけで京都旅行を計画した。
中学に上がってから、何でもかんでも自粛、自粛で知らず知らずのうちに、
自分の心にブレーキをかけていた。大人の私でさえそうだったのだから、
多感な子供たちは、おそらくもっと影響があったのだと感じている。
今振り返ると、何かしようと思っても、
その好奇心に蓋をする数年間だったのだと思う。

それは、旅行の話をしたときにも、感じた。
え、出かけていいの?
新幹線とか、やっぱダメでしょ?
旅行に行くってご近所さんにバレたら、やばいんじゃないの?
自粛警察いっぱいいるじゃん、ここに住めなくなるよ!


「旅行」の2文字で、こんな会話しか出てこない。
小学校の林間学校も修学旅行も、全部キャンセルだったし、
学校イベントも全部中止。
楽しむこと、遠出することに、自ずとブレーキがかかってしまう。

これは、なんとか切り替えていかないといけない。。
もう、お金払ったから、行く。色々心配なことあると思うけど、
政府が支援しているんだから、楽しもう。ずっと行きたかったでしょ、京都
「京都!?うん、行きたい!!いつ??」
「来週末」
「えー!!」
驚きと、破顔の笑顔。久しぶりに彼女の笑顔を見た気がした。
「準備しといてね〜。」

旅行の計画を前に、主人とはかなり話し合っていた。
やりたいことを諦めていた子供達には、それぞれの好きなことに集中してあげたいねと。
スポーツ好きな息子は、リアルな試合観戦がずっと希望だった。大声を出しての応援はまだ禁止、ソーシャルディスタンス規制で、入場者数には制限もあったけれど、チケットを入手してお父さんとスポーツ観戦に行ってもらうことにした。

ちょこちょこした小物や雑貨などを見て、買い物をするのが大好きな娘の旅に、息子はいつも飽きてしまうから、見たいものをゆっくり見て過ごすためにも、私たちだけの旅行の方がいいと思った。せっかくだから、おばあちゃんも巻き込んだ。

仕舞い込んでいたスーツケースを自ら引っ張り出し、下の子も、娘も、
旅行の準備を始めている音が聞こえてきた。

うちの中が、活気付く。
たった数泊の旅行だけれど、家の空気が確実に変わっていた。
こんなにも明るくなるなんて。
親なんて、とっても単純な生き物で、子供が嬉しいと感じていると、
それだけで嬉しくなるのだ。


続く




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