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「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑦~

神の取り計らいで、ノロ(神女)として生きる「光」。
龍神の招きで光は、朝日昇る海近くの御嶽に籠る。
その御嶽で、仏と共に生きる男性、”僧侶様”と出逢う。

心地よく、僧侶は目を覚ました。
とても爽快だ。心底から力がみなぎっている。
何日ぶり・・・、いや、人生初めてのことかもしれない。

茜色の朝陽が、海を赤く染めていっている。日の出が近い。
そっと、僧侶は、寝入っている光を眺めた。
なんとも、不思議な御仁だ。神に護られているのだろう。
そして、光と語ったことを、思い出す。

”なるほど。僧侶様は、仏の教えを学んでこられたのですね。”
”はい、そうです。仏の教えに従い、身を慎んで修行して参りました。
古い言葉で綴られた仏典も、広く深く、研究しておりました。”
”僧院には、たくさんの方がいらっしゃるのですか。”
”方々に僧院がございまして。それぞれに僧がおります。大半は男ですよ。
私共は、戒律のため、妻帯することはありません。”

”仏と縁を交わし、生きていかれるのですね。”
”そうなのですが・・・仏と共に生きている者ばかりでは、ないのです。”


僧侶は、しばし述懐した。
むしろ仏と生きる事から、反れた者が多い。
権力や金品に欲を出し、隠れて男色女色に耽り、偽りに惑い。

僧侶の生家の家族は、内乱の混乱の中、皆殺しにされた。
この世の絶望を全て、幼い僧侶は経験した。
仏縁により、僧院で生活することになったが、秩序を失った場であった。
辛苦を味わいながら、僧侶は成長した。

それでも仏と共に生き続けて。
僧侶は今、この地に辿り着いたのだ。
光は、その言葉を続けた。

”僧侶様。仏や神と共に生きる者ばかりであれば。
この世はいかがなものとなると、お考えでいらっしゃいますか。”
”それは・・・この世は、白き光で満ちる事となるのかと。”
”なるほど。白き光のみで、この世は成っているのでしょうか?
僧侶様、光に色は、あるのですか。”

僧侶は考え込んでしまった。
光は光でしか、ない。
光に色があると思うのは、そう思うからだ。

愚かだと、自分が蔑んだ人々。
自分がそう思うから、愚かになっていたのか。

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光の穏やかな寝顔をいつまでも見ていたかったが、目覚める気配を感じた。
僧侶は慌てて、輝きはじめた海と空へ、体の向きを変えた。

”お天道様の御成りですね、僧侶様。”
”はい、光様。辺りが明るく、輝いてまいりました。”


洞窟内にも、朝陽が差してきた。白砂に光が当たり、影までも輝く。
空と海は、さらに黄金の光満ちてきた。
その美しい彩を、僧侶と光は共に見つめた。

不意になんだか恥ずかしくなって、僧侶は光に語り掛けた。
”光様。私の幼名は、海にちなんだものだったのですよ。”
”まあ。僧侶様は、海のお近くのお出でしたか。”

”いえ、それが逆なのです。
私は海から遠い、内陸の生まれ・育ち。
両親、その上の代の人間も、海を見ずに一生を終えた者ばかりかと。
男ばっかりの5人兄弟の末っ子だった私に、戯れで名付けたのでしょう。”


僧侶は、それ以外の過去の記憶を、持っていなかった。
光もまた、過去の記憶を持っていなかった。
光は、未来へ想像を持っていなかった。
僧侶もまた、未来への想像を持っていなかった。

光と僧侶は、今を生きていた。

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日が高くなると、洞窟内は涼やかな気が流れる。
光と僧侶は、泉から湧く清水を分け合った。
水はどこまでも清く、甘露であった。

”光様は、神々と睦まじいのですね。”
”はい。僧侶様。この世には、たくさんの神がおられます。
その神々は皆、人間と親しくしたいとお考えです。”
”なるほど。それでは私達も、神々に心を開くべきですね。”

”そうですね、僧侶様。
ところが、神々に心を開きたくない、開くことができない人間が、
世に溢れております。残念ながら。”

”なぜ、神から自分を閉ざすのでしょうな?”
”まず、人は自らを閉ざしております。
自らを閉ざす者は、人に心を開くことができません。”
そしてもちろん、神にも心を開くことができません。
自らを閉ざし、自らにのみ生きているのです。

”憂うべき現実です、光様。
人間は、自分の欲に生き、それが成せないと周囲を貶める。
人間は、自分が全て正しく、異なる考えのものを裁く。
人間は、大いなるものに護られていることに気付かず、感謝せず。
人間は、自分の願いばかりを主張する。”
”僧侶様、人間は、本来”神”なのです。
それを皆、忘れているのです。
僧侶様が学ばれた仏法では、そのような教えでないかもしれませんが。”

”いいえ、光様。正に同じことを、私は学びました。
その教えを広め、世に安定、民に平安をもたらすため、
私は船旅をしていたのです。”

”そうでしたね、僧侶様。
どうか和の国へ着くことができ、志を遂げられますよう願っております。”


ふと、僧侶は考えた。
私はどこに、行こうとしていたのだろうか。
それは、和の国だったのか?
仏は、私をどこに導いていたのだろう。

確かなことは。
仏は僧侶を、光のいる御嶽に導いたこと。
龍神は光を、僧侶が辿り着く御嶽に導いたこと。

(次編へ続く)

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