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「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑭~

ノロ(神女)の「光」と、隣国からの仏僧「僧侶」。
二人は心を通わせる。
光の魂の妹「白花」が、僧侶の逃亡の手引きを担う。
嵐で荒れた漆黒の海へ、光は身を投げる。

漆黒の海と夜空。
断崖絶壁から、光は一気にこの星へ吸い込まれていく。
それはまるで、母の胎に戻るかのよう。

光は閃光となった。
空と海へ、吸い込まれていく。
生は死へ。
死は、生へ。


光は、知っていた。
幸薄い家族に、自分は全く望まれずに生まれたこと。
生家の姉達は肉体を蹂躙され、人間の尊厳を失ったこと。
腹違いの弟の苦難。
人間の卑劣さ、哀しさを心底まで知らしめた両親、大主、養女達。
非情で強欲、自分に執心する権力者の何某。
生とは、なんと悲しいものか。

光は、知っていた。
重き業を負うても、生きる白花。
ささやかな日々の幸せに喜びを見出す、民の明るさ。
たわわに実がなる果樹。豊かに黄金色に実る稲穂の美しさ。
生きるために身を捧ぐ、海からの幸。
太陽と月、星の輝き。
生とは、なんと美しく、幸せなものか。

”僧侶様。
今、この体を、地へ還します。
貴方様は、私の魂に、気づいてくださるのでしょうか。
私の面や体が異なっても。体すら、無くとも。
いつか再び、私が貴方様の魂に出逢えたら。
その再会は、この上ない喜びとなるでしょう。”


我よ。
この肉体から今、解き放たれよ
永遠に輝く、光となれ


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海中から、大きな竜巻が起き、巨大な墨色の龍神が現れた。
光は、龍神と共に夜空を舞う。それは、歓喜。

”光よ。いよいよ、お前は光に還る時が来た。祝福しよう。”
”光栄です、龍神様。
今一度、おたずねしたい。白花は、僧侶様は、いかがされているのか。”

”光よ。そなたは光となったのだ。
今や、望む時、望む場所。望む世界へ、どこでも自在に行ける。”

光は、自らが出たばかりの御嶽の前に飛んだ。
そこへ突然、大きな雷が洞窟の入口を貫いた。
この世の物と思えない轟音。
同時に、一面、土砂崩れが起こった。
地面が慟哭する。そこへ雨が、滝と打つ。

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僧侶の広い背で、勾玉を握りしめたまま白花は、先を導いていた。
雨に、僧侶は幼い白花の足元を案じ、背に負ったのだ。
沿道にはすでに誰もいなかったが。
誰か目撃したしても、いつも白花を背にしていた光だと思っただろう。
豪雨で先が、全く見えない。
しかし、勾玉が教えてくれる。
向かうべきところへ向かっていることを。

白花には、生まれる前から、父がいなかった。母もいなかった。
縁のあった人間は、光だけ。
光はいつも、幼い自分を背負って歩いてくれた。
あらためて気づく。それは何と華奢な、小さな背だったことだろう。
今、大きく、たくましい僧侶の背に、自分はいる。
この方は、光姉様が何よりも守りたかった方。
龍神様、太陽神よ。どうか我々に、ご加護を。

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前方に、微かに人影が見えたと思った刹那、心の中に語られた。
”貴人様方。どうぞこちらへ。”

誘われた先は、その人の暮らすあばら家であった。
聾唖の元ノロ。
僧侶と白花を前に、元ノロは、感涙し、平身低頭した。
”龍神様の護られし、貴人様方にお目見えすること。
この上ない喜びでございます。
お力添え、喜んで務めたく、よろしくお願い申し上げます。

お寛ぎいただきたいところですが、時が迫っております。
僧侶様。この先は私がご案内申し上げます。
白花様。貴女様には、これを。”


小さな白花の手にほどよい大きさの、美しい金の簪を渡された。
それは、小さいがかなり重かった。極めて純度の高い金だろう。
白花は、さすがに戸惑った。
”何と。お気持ちは嬉しいのですが、これは・・・・。”

”白花様。その簪は、私が愛し、愛された方からいただいたものです。
お小さい貴女様を、無事に屋敷までお守りすることでしょう。
ご存じの通り、私はノロ(神女)でした。
道ならない方と出逢い、恋をしたのです。そのため追放されました。
白花様。貴女様もいつか、知る日がくるかもしれません。
魂に、隔ては無いのです。
その方に添い遂げたこと、私は何の悔いもございません。
その簪は、今や主を、貴女様と定めました。お納めください。”

”かしこまりました。それでは私からはこれを・・・。”
白花は、光から預かっていた金品を元ノロへ渡そうとした。

”白花様。龍神様からの命を、私は務めるのです。それは結構。
さあ、僧侶様。参りましょう。
龍神様からの雨で、地は固まっております。”


元ノロは、白花の鬢にそっと、簪を挿した。
じわりと、穏やかなぬくもりが、体に伝わってくる。
この簪を贈った方は、心の底から、元ノロ様を愛されていたのだろう。

いよいよ、互いの別れの時が来た。
僧侶は、慈愛に満ちた眼差しを白花に向けて語った。
”白花様。貴女様のご厚意、いつもまでも忘れませぬ。
どうかご無事でありますように。”


”僧侶様も、どうぞ道中ご無事で。
・・・・・あのう、僧侶様、おたずねしてもいいですか。
光姉様を、お慕いされていたのでしょう?”


童女らしい尋ねに、僧侶は相好を崩した。
”ええ、それはもう。
あの方を、魂の底から。”


傍らで見守っていた元ノロは、そのやり取りに、穏やかに微笑んだ。

(次編へ続く)

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