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「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑯~

ノロ(神女)の「光」と、隣国からの仏僧「僧侶」。
二人は心を通わせる。
光の魂の妹「白花」、その後を聾唖の元ノロが、
僧侶の逃亡の手引きを担う。
漆黒の嵐の海へ、光は身を投げる。
光に還った光は、白花と僧侶のもとへ飛翔する。

元ノロと僧侶は、土砂降りの雨の中を走っていた。
”僧侶様、お足元お気をつけください。
この先、非常に険しくなります。”


人が行き交うこともない道なのだろう。
隣の王国に続く道があるはずだが、全く整備されておらず、
険しい藪の中、林の中を進んでいく。

僧侶は、先刻別れた光を想っていた。
心がずっと、静まらない。
自分は一体、どこへ向かうというのだろう。
あの方がいらっしゃらない世界の、どこへ。

”僧侶様。大主様と何某様は、この王国では絶対の存在。
この二人から逃れて、思うまま生き延びることは不可能でしょう。
ましてや、僧侶様は仏様に仕える身。
それを妨げることはできぬと、光様はお考えになったのでしょう。”

僧侶の苦悩を見透かしたように、元ノロは語った。

”私は・・・非常に混乱しております。
これまで一切、自ら歩む道に、何の迷いもありませんでした。
しかし今、かくも心乱れて。如何したらいいものか。”
”僧侶様。ご自分のお心は、ご自身がご存じかと・・・。”

そう語った刹那、元ノロは険しい顔つきに変わった。
そして、僧侶に伝えた。
”僧侶様。ここを越えれば、隣の王国です。
そこには、光様に恩義があるノロがおり、次なるご案内をする予定でした。
そのノロ、我々の行く手に、結界を張っております。
当初は、龍神様に護られている貴人を導くことを喜んでみたのでしょう。
しかし、自分なぞ、そんな栄誉に相応しくない、と卑屈に思う心。
我々と関わったが最後、自分の身が脅かされるのでないかという恐れの心。
光様に世話にはなったが、目に見える明らかな報酬を目の前にせぬまま、
この件を請け負いたくないという、曲がった狭き心。
これらの濁りにより、この先を閉ざしたものと思われます。”

”その御方のお気持ち、お察しいたします。
私は、貴女様とその御方に、深く感謝しております。
これが、必然。
心定まりました。私は、行くべきところへ、参ります。”

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僧侶は、捕らえられていた。
逃げもせぬのに、3人の屈強な男に押さえられ、
罪があるか検められもせず、引っ立てられた。

薄曇りの空から、雨が降り出した。
龍神様が、近くにいらっしゃる。
龍神様は、あの方を護り抜いてくださったのだろうか。

僧侶は、導きのまま、歩んだ。
とうに忘れていたはずの、幼き頃を思い出す。
家族を一瞬で失い、慟哭したこと。自分だけ生かされた苦悩。

仏の導きで、仏僧になったこと。
人々の平安のため精進するはずの寺院は、腐敗した世界だった。

仏僧として生きた日々。
国の命を受け、さらなる平安を世にもたらすため、海を渡り。
導かれ辿り着いた、小さな島。
神々にまもられている、この美しい地。

光様。
龍神に護られし君よ。
貴女様を心から尊敬し、お慕い申し上げておりました。

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鉛色の空の下、大地の上に立つ。
僧侶は、遥か先を真っ直ぐ見つめた。

「オイ、オマエ。シヌマエニ、イイノコスコトハ ナイノカ?」
自国の言葉を、片言で話しかけられた。
「否。」
「ホラ、ネンゴロナノガ、イタダロ?ナマエヲ ヨンデヤレヨ」
その男の下卑た様子に、僧侶は応えるまでも無かった。
ましてやこれは、僧侶を匿った人間を割り出すための尋問でしかない。

しかし僧侶は、この男の言葉にしばし、心を留めた。
この世を去る前に、言いたいこと。
口にしたい、大切な方の名前。

僧侶は、自らの心の中に、そっと思いの丈を述べた。
”光様。
今、この体を、地へ還します。
貴女様は、私の魂に、気づいてくださるのでしょうか。
私の面や体が異なっても。体すら、無くとも。
いつか再び、私が貴女様の魂に出逢えたら。
その再会は、この上ない喜びとなるでしょう。”

光の体はこの世に無かったが、魂はしっかりと、それを耳にした。
その刹那、僧侶の体は、散った。

僧侶は閃光となった。
空と海へ、吸い込まれていく。


光は素早く、僧侶の光を追おうとした。
そこに龍神が現れた。
”光よ、僧侶はこれから、転生する。
転生する魂には、光ですら追いつけぬぞ。”

”何と言うこと、龍神様。
僧侶様も私も、共に光に還るはずでした。”


”僧侶は、願ったのだ。
全ての枷を乗り越えて、おぬしと共に生き、世の光となりたいと。
そのため、光に還ることを断ってきた。”

”かしこまりました、龍神様。
私も僧侶様と共に生き、世の光になりたいと存じます。
光に還ること、お断りいたします。”


”光よ、これは僧侶にも伝えたことだ。
いつ、どこに転生するか。
どんな体になるのか、わからぬのだぞ。
それに、生き物に生まれ変わると痛み、辛苦、病気を経験することもある。
経験したことによっては、魂が穢れ、光に還れなくなるかもしれない。
また、この星以外の星に転生することすらもある。
思う人に再び出逢うかどうか、確たるものは無いのだぞ。”

”龍神様、構いませぬ。”

”揃いも揃って、同じ言葉を僧侶も言ったわ。
それでは、次なる体が決まるまで、望むところでたゆたっていればいい。
必然の時が来るまで。”


(次編へ続く)

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