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「時空を超えて出逢う魂の旅」特別編 ~琉球⑨~

神の取り計らいで、ノロ(神女)として生きる「光」。
龍神の招きで光は、朝日昇る海近くの御嶽に籠る。
その御嶽で、仏と共に生きる男性、”僧侶様”と出逢う。
心通わせる光と僧侶。
二人のいる御嶽に、神具の音が響く。


静まり返った御嶽である洞窟内に、光の屋敷からの使いの者が鳴らす神具、
ナリガネ(鉦)の音が響いてくる。
御嶽にいるノロの浄めを妨げることは、一切慎まないといけないこと。
籠りを中断させてまで、光を呼び出すこととは、何事か。
光は、常ならぬことが生じていることを察した。

何があっても。私はこの御方を守り通す。
光は、僧侶の瞳を見つめた。
この方は、私の魂であるから。
「お役目、ご苦労である。
我は、龍神様に中座を告げねばならぬ。しばし、待たれよ。」
光は洞窟の入り口へ大声をかけた後、僧侶を洞窟のさらに奥へと誘った。

僧侶は、光に語った。
”光様。どうぞお出ください。
私はこのまま、この地の然るべきところに、出向くことにします。”

僧侶は、光にこれ以上自分を匿う危険をとらせたくなかった。
何があっても。私はこの御方を守り通す。
僧侶は、光の瞳を見つめた。
この方は、私の魂であるから。

”僧侶様。仏様は、そのように導かれてはおりますまい。”
とても弱く、しかし限りなく強く、光は僧侶に告げた。
”貴方様は、生かされないといけないのです。
民のため、ご自分のため。”

そして、私のために。

”わかりました、光様。そうですね、御仏の導きに従いましょう。”
僧侶も光に告げた。
”貴女様も、生かされないといけないのです。
民のため。ご自分のため。”
そして、私のために。

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洞窟の口に近づくと、ナリガネの音がさらに響く。
屋敷からの使いは、小姉様のようだ。
小姉様に姿を見せないまま、光は通る声をかけた。
「光様、ここに控えておる。何事ぞ。」
「はい。お浄めあそばれているところ、失礼いたします。
大主様からのお言葉を、お伝えにまいりました。」

”御神託”により。
今般、光に伴侶が与えられる。
明日夕刻、迎えがきたら、帰宅すること。

「小姉様。我にまやかしは通用しない。真実を申せ。」
小姉様は、光にとって数少ない結界が不要の人間の一人だった。
「光様。王国の”何某様”が光様をお召でして。
大主様は、ついにそれをお受けしたのです。」

王国一番の有力者、何某。名を口にするのも忌まわしい、下衆な人間。
光はその何某が、自分に強く執着していることを知っていた。
金品や権力。全てをもつ自らが唯一手にできないのが、光だったからだ。

「光様。大主様は貴女様にノロの務めを終え、
何某様の内助に専念されることを望んでおいでです。
明後日、新たなハジチ(刺青)を施す手配も済んでおります。」

つまり。何某は、相当な金品を大主に積んだということだ。
ノロは通常、終生職。引退なぞありえない。
これを好機に、大主は神力ある我を体よく、厄介払いするつもりだ。

先に光の体には、神と縁を結ぶハジチが施されていた。
その上に、何某に終生尽くすためのハジチをするなど。
汚らわしいにほどがある。
何より。この身、何人にも触れさせてなるものか。

光は、小姉様にも結界を張って、瞬時に考えをまとめた。
御嶽を予定より一日早く、去らないといけないことになった。
これは、この王国内にいる限り、絶対に逃れられないことだ。
僧侶様をお守りする。我の命に代えても。守り抜く

光は、心定め、小姉様に告げた。
「大主に伝えよ。『この上なく有難き縁談、謹んで受ける。』と。」
姿を見ていないが、小姉様が息を飲んだことを気取った。

さらに、言葉を続けた。
「明日の迎え、必ず小姉様を迎えによこしていただきたいと、
光様が所望していることもだ。」

小姉様が鋭い気を発したことを、光は気取った。
ぼんやりとばかりしている人間でないので、
光が常ならぬことを抱えていることを察したかもしれぬ。
しかし、これが唯一の策だ。

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光と僧侶は、星空を見上げていた。
たくさんのことを、いつまでも語りたい。しかし、言葉が出ない。

”光様。私は今、とても幸せです。”
不意に、僧侶が語った。
”あなたと出逢ったことは。何にも勝る、学びと喜びでした。
御仏の導きに、感謝しているのです。
私のこれまでのことは、全てこの今に、通じる道であったのですから。”


”僧侶様。私も今、とても幸せです。”
光は、心底からの想いを僧侶に伝えた。
”何があろうとも、どうか知っていてください。
私は何も悔いがありません。
なぜなら。この今が、あるからです。”


姿がさらに欠けた月が、昇ってきた。
”光様。満ちた月も、美しい夕陽も、貴女様と見てみたいものです。”
柔和な笑みをたたえ、自分を愛おしく見つめる僧侶を、光も見つめた。
光は先のことを考えるのを、止めた。

”この世には、美しいものがたくさんあるのでしょうね、僧侶様。”
”それはもう、光様。この地で見ることができない花も、咲いていますよ。”

”僧侶様はご存知ない。たわわに実がなる、果樹の豊潤さを。”
”大きな、海のような大きさの湖をご覧になったことは?光様。
岸を歩けども、歩けども。豊かに水をたたえているのですよ。”


互いに、知っていた。
何より一番美しいものは、目の前にいる”その人”であると。

(次編へ続く)

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