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薬害について考える「ハーメルンの誘拐魔」

中山七里さんの「ハーメルンの誘拐魔」を読みました。子宮頸がんワクチンの薬害をテーマにしたミステリーで、製薬会社と国、医師の癒着や、医療の闇についての話。薬のリスクについて思ったことを自分の整理のために書きます。

連続誘拐犯を追う刑事が主人公。攫われたのはワクチンの副反応のせいで障害を負ってしまった少女と、ワクチンを推進する産婦人科学会長の娘。「子宮頸がんワクチン」という共通項を挟んで真逆の立場の少女を攫う意図が掴めないまま被害者はどんどん増えていく。捜査を進める中で、薬害を知りながら利益を守るために被害者を切り捨てる製薬会社と国、医師の闇を目の当たりにする、、という内容。

普段ミステリーは読まないんですが(あのドキドキする感じが苦手で…)、作者の別の本が好きで読んでみました。ミステリーとしては物足りないというレビューが多かったけど、ミステリー免疫のないからかカラクリにも最後のどんでん返しにも普通に驚くことができました。

ただ薬害問題については、あくまでフィクションとはいえ、実際の出来事をめちゃめちゃ意識しているだろうし、だいぶ誤解を招く内容なんじゃないか、、?と。子宮頸がんワクチンって言っちゃってるし。

子宮頸がんワクチン問題

子宮頸がんワクチン問題の顛末を調べてみると、訴訟後、副反応の因果関係についての論文が誤りであったこと、科学的根拠が立証されなかったことが分かり、安全性を補強する論文も発表されて、今年には新たなワクチンが薬事承認されたとのこと。(立場によって情報がばらばらで、客観的な情報が得られたか分かりません。)この本が出版されたのは訴訟開始直後の2016年、このワクチンに対する安全性が一気に不安視された頃なので、仕方ないのかな。

過去の反省から

ただ、薬害エイズ、遡ればナチスドイツに代表される人体実験など、歴史の中で非人道的な開発はいくつもありました。そして、開発した(している)薬に安全性の問題があり、使用中止なんてことになれば(賠償含め)製薬会社の利益は吹っ飛ぶから、目先の利益を安全よりも優先させることがないよう、決して過ちを繰り返さないように、人の命や健康を第一とする仕組みや法律ができています。その成り立ちや考え方については、製薬会社の開発部門に配属されると一番初めにに叩き込まれることで、
作中に登場するような非人道的な会社は少なくとも今はありえない、、と信じたい。

毒になりえない薬はない…けど

全ての薬(ワクチン含め)にはリスクがあって、それよりも利益が大きいと判断されたから、薬は薬として存在している。少しまえに話題もちきりだったコロナ治療薬レムデシビル(ベルクリー)だって、多くの被験者に重い副作用がでている。大切なのは、リスクと利益の両方を理解して、比べること。…というのは、開発者の上から目線の考えなんだろうか。

だって、副反応が起こる確率がいかに低くても、その人にとっては自分の身に起こるか起こらないかの2択。
たとえば起こる確率は〜%以下だから問題ない、というのは一人ひとりが見えてない理屈なんだろうな…と思いました。でもこれによって救われる命も多いわけで、、。

リスクにどう折り合いをつけるのか

たとえば何もしなければ30%の確率でかかって1%の確率で死ぬ病気があって、でもそれを防ぐワクチンを打つと0.01%の確率で重い病気になるとしたら。(実際には持病とかその時の状態とかで変わってくるけど)運悪くその0.01%に入ってしまった時、自分の選択を一番後悔するだろうな。

ワクチン開発は、治療薬と違って健康な人に、しかもたくさんの人に投与するので、何かあったときにワクチンのせいでないことを証明するのが難しい点がリスクだと聞いたことがあります。

期待のコロナワクチンについて

コロナウイルスへのワクチン1億数千回の供給を製薬会社と合意したというニュースを聞くけど、そんなに多くの人に投与するなら(実際にワクチンのせいかどうかに関わらず)、何も起こらないことはないと多少覚悟はいるのかなと思いました。でももちろん流行収束のために必要不可欠なものであることは間違いない。

「ハーメルンの誘拐魔」、薬害について考えるきっかけになる本でした。



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