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統合失調症の”経過”と運動器リハビリテーション

 精神科病院における疾患別リハビリテーションの処方では、統合失調症の患者さんに対する運動器リハビリテーションが比較的多くを占めます。
 精神科病院は、歩行などの移動能力やトイレ、お風呂などの身辺動作が自立していることを想定した環境設定がされていることがほとんどです。廊下やトイレ、お風呂に手すりが設置されていない病棟をよく見かけます。
 一方で、近年は入院患者さんの高齢化が進んできており、臨床現場では加齢性変化に伴う関節疾患や筋力低下によって、転倒事故が発生する頻度が増えていることを実感しています。転倒事故が起これば、骨折などの外傷を来すことがあり、運動器リハビリテーションの処方につながるケースも増えています。
 入院患者さんの原疾患は、統合失調症が最も多くみられます。精神科病院で「からだのリハビリ」を実施するにあたっては、当然ながら統合失調症の経過と運動器リハビリテーションとの関係を整理しておく必要があります。


統合失調症の経過と運動期リハ

 統合失調症は、経過により前兆期、急性期、休息期、回復期に分けられることが一般的です。また、精神症状が落ち着いた状態を寛解期と呼びます。

1.前兆期

 前兆期では、イライラしたり、眠れなかったり、集中力が低下するなどの症状が続きます。入院経過の中で、比較的落ち着いた状況が続いていたところから、何となくソワソワするような状況が観察され始め、転倒→骨折→運動器リハビリテーションの処方となるようなケースが想定されます。

2.急性期

 幻覚や妄想など、陽性症状を来す場合があります。また、強い不安や緊張を感じることがあります。幻聴に影響されたり、あるいは強い不安から、自傷行為や自殺企図につながることがあります。リストカットによる手指の屈筋腱損傷や神経損傷、高所からの飛び下り等による骨盤や下肢の骨折に伴って、運動器リハビリテーションの処方となるケースが散見されます。
 また、前兆期以上に注意が散漫となっているような場合があり、転倒→骨折→運動器リハビリテーションの処方となるケースも少なくありません。
 強い精神症状が現れている場合、やむを得ず隔離や拘束が行われることがあります。特に拘束の場合、その場では治療の必要性を理解することができず、強い力で長時間に渡り拘束帯に抵抗しようとする人も少なくありません。筋緊張が過度な亢進状態となり、肩関節周囲炎や尖足など、骨関節の症状を来す場合があります。関節疾患を発症した段階では、運動器リハビリテーションの処方が必要になりますし、場合によっては予防的介入の検討が必要と言えます。

※ 令和2年度の診療報酬改定の段階では、急性期病棟で疾患別リハビリテーションの算定を行うことはできません。急性期においては、無報酬での実施となる場合があります。しかし介入の必要性が非常に高い事例が多く、主治医や場合によっては経営者(病院長や事務方トップ等)と相談しながら、介入の可否を検討していく必要があります。

3.休息期

 幻覚や妄想といった、目に見える症状は少なくなっていきますが、意欲が低下したり、強い眠気を感じたり、だるさが続いたりといった症状が数か月に渡って続きます。休息が必要な時期なので、精神科の治療としては「ゆっくり休む」ことが推奨されますが、「からだのリハビリ」の観点からは不動による筋力低下が進みやすい状況であるとも言えます。廃用の進行→転倒→運動器リハビリテーションの処方となるケースが、ときどき見られます。

4.回復期

 前兆期・急性期・休息期を経て、少しずつ元気を取り戻していく時期です。一方で身体機能面からみると、休息期で生じた廃用からの回復の過程であり、転倒のリスクが非常に高まっている時期であるとも言えます。臨床的には、転倒→骨折→運動器リハビリテーションの処方が最も多い時期と言えるかもしれません。
 特に高齢の患者さんにおいて、高頻度転倒者の割合が増えます。運動器疾患の既往や長期臥床の期間、転倒頻度等を整理し、「運動器不安定症」の要件を満たすかどうかを評価し、該当するのであれば速やかに処方につなげていくことが必要かもしれません。
 ある意味「当然」ではありますが、「からだのリハビリ」が適切なタイミングで介入できた場合、治療効果が最も高いのが、回復期と言えます。特に入院期間の短縮や、退院先の選定(自宅か、グループホーム等の施設か、等)に大きく貢献できる可能性があります。

5.寛解期

 幻覚や妄想といった陽性症状や、意欲低下などの陰性症状が軽度、もしくは消失した状態となり、社会復帰がみえてきた状態です。本来、入院している必要がない状態とも言えますが、精神科病院では社会的入院が少なからず存在していることが指摘されています。
 社会的入院は、長期間の入院に伴う筋力低下や認知機能の低下を来す可能性があります。こうした背景から、転倒→骨折→運動器リハビリテーションの処方となるケースが想定されます。
 回復期同様、高齢の患者さんで転倒頻度が増えます。「運動器不安定症」の要件を満たすかどうか、主治医等とよく相談していく必要があります。歩行補助具等の導入の必要性やタイミングの評価も重要です。

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