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精神科病院で働く理学療法士や作業療法士が抑えておくべき精神機能の評価 ~試験に出ないけれど臨床で活用するGAF~

 令和2年度の診療報酬改定で、精神科病院においても疾患別リハビリテーションの算定ができるようになりました。精神疾患を持っている人に対する「からだのリハビリ」に診療報酬がつくようになったのです。
 一方で、「からだのリハビリ」の専門家である理学療法士や、一部の作業療法士の中には、精神機能の評価があまり得意でないという人もいます。
 本記事では、最低限抑えておくべき精神機能の評価について記述します。


1.精神科病院で働く理学療法士や作業療法士

 令和4年医療施設(動態)調査によると、精神科病院1,056施設中、「リハビリテーション科」があるのは61施設でした。また、令和2年医療施設(静態・動態)調査によると、精神科病院で働く理学療法士は251.1人、作業療法士は6,958.4人となっていました。作業療法士の大半は、精神科作業療法に従事していると考えられます。精神科病院で「からだのリハビリ」に従事しているのは、250人程度の理学療法士と、恐らくその半数以下の作業療法士であると考えられます。現状では、「からだのリハビリ」は限られた一部の病院で行われている取り組みと言えます。

 一方、日本作業療法士協会による「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムに 寄与する作業療法のあり方検討委員会報告書」では、近年の動向として身体合併症患者が増加しているとの回答が 84%あり、大多数の病院で対応を迫られていることが指摘されていました。精神科病院では、今後、理学療法士や身体機能をみることができる作業療法士が増えていくと考えられます。

2.「からだのリハビリ」の導入では、困りごとは少ない?

 前項の通り、精神科病院で働く理学療法士や身体疾患の治療に長けた作業療法士はまだまだ少数です。精神科で働こうと思うくらいですから、恐らくコミュニケーション能力に長けた人が多いのではないでしょうか。

 例えば、統合失調症を患っていて幻覚や妄想の症状が強い患者さんを担当することを想定して考えます。もしかしたら「どこか調子が悪いところはありませんか?」とか、「どんなことにお困りですか?」といったようなオープンクエスチョンでは、思うような返答が得られないかもしれません。しかし経験のあるセラピストであれば、歩容を見るなどして「膝が痛くありませんか?」とか、「右足に力が入りにくいのではないですか?」といったクローズドクエスチョンを組み合わせていくことで、全体像を把握することは十分に可能です。また、精神疾患を持つ人にとって、身体機能に関する質問は比較的明確に答えやすいという側面もあります。介入に際しては、さほど苦になることはないと考えているセラピストも少なくないのではないでしょうか。

 一方で、あまり困ることが無いがゆえに、「からだのリハビリ」を担当するセラピストは精神機能の評価が体系的に行えていない面があるかもしれません。しかしそうした状況は、精神科医や看護師、精神保健福祉士や精神科作業療法士など他職種との連携という観点からは、望ましいとは言えません。

3.押さえておきたい精神機能の評価 ~試験に出ないけれど臨床で活用するGAF~

 「試験に出ない」と副題にしてしまいましたが、理学療法士・作業療法士国家試験ではときどき選択肢の中に登場するGAF(「ガフ」もしくは「ギャフ」)尺度。Global Assessment of Functioningの略で、「機能の全体的評定」です。理学療法や作業療法の評価学の教科書にはほとんど載っていないか、極簡単な記載がある程度。養成校でしっかり吟味したというセラピストはほとんどいないのではないでしょうか。
 GAFは、令和2年度の診療報酬改定で、精神科訪問看護を実施する際に必須となりました。また、作業療法士の事例報告や研究論文のアウトカム指標としても、最も活用されている尺度の一つです。つまり、臨床での活用頻度は非常に高いと言えます。

 GAFは「精神症状の重症度」と「機能レベル」の2つの要素から構成されており、評価の基準は下記の通りです。

厚生労働省GAF(機能の全体的評定)尺度 より引用

 GAFは精神機能のみを評価する尺度です。身体機能や環境面での制約は考慮しないとされています。一方、身体機能の評価を専門とするセラピストにとっては、精神機能が身体機能に及ぼす影響について、ある程度の予想がつけられると思います。

 例えば、30-21点の「ほとんどすべての面で機能することができない (例:一日中床についている、仕事も家庭も友達もない)。」状態が数週間続いていたら、廃用性の筋力低下を来し、身体機能面からもADLが低下しているであろうと想像できます。こうした患者さんが、廃用症候群として疾患別リハビリテーションの対象となり得るでしょう。

 一方、60-51点の「中等度の症状(例:感情が平板的で、会話がまわりくどい、時に、恐慌発作がある)、または、社会的、職業的、 または学校の機能における中等度の障害(例:友達が少ない、仲間や仕事の同僚との葛藤)。」の人でも、肺炎にかかるなどをきっかけに、廃用症候群として疾患別リハビリテーションの対象となることがあるかもしれません。

 上記の2例について、仮に開始時のADL評価(FIMやBI)が同程度であったとして、回復にかかかる期間がより長いのはどちらでしょうか。普通に考えれば、前者の方がより時間がかかり、かつ薬物療法や精神療法、作業療法等との連携をより密に実施していかなければならないと予測ができます。

 理学療法士や身体機能への介入を専門とする作業療法士が、必ずしも自身でGAF尺度の判定ができなくても、精神科医等から情報収集を行えると良いと思います。
 身体機能の回復が、精神機能に良い影響を与えるような事例は少なくありません。また、まずは精神機能の回復を優先し、後から身体機能を上げていく方策をとることが望ましい事例もあるかもしれません。
 GAF尺度は、そうしたリハビリテーション計画策定の一助になります。幅広い疾患に使え比較的簡単に評価できるので、「からだのリハビリ」との相性は高いです。臨床で活用していただくことを検討いただければと思います。


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