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"足を動かさないデザイナーに意味はない!" 田子學「デザインマネジメント」

読書メモ#5です。
エムテド代表の田子學さんの著書の個人的に勉強になった部分の抜粋メモです。

なお、この本はエイトブランディングデザインの西澤明洋さんのセミナーでの読書課題にもなっている本なので、受講されている方の参考になれば幸いです。

https://schoo.jp/class/6972

ビジネス戦略に"一気通貫デザイン"を取り込め

これが本書が訴えていることです。この主張は過去に読書メモを書いた中川政七商店の中川さんや、Takramの田川さんの著書とも言葉は違えど同じ考え方です。

デザインマネジメントとは、デザインを中心に据え、ビジネス戦略を一本筋を通したシナリオで示す一気通貫のデザインのことだと言います。

デザインマネジメントはクライアント企業のビジョンから立ち返り、その企業の強み、弱みを把握してコンセプトを作り上げ、それらがビジネス全体に渡って一気通貫するシナリオを描きます。

このシナリオに沿ってプロジェクトを運用することで、場当たり的な対応や唐突な方針変更を避け、当初の想いをビジネス全体へ一気通貫させることができると言います。

デザインマネジメントがもたらす効果

このような筋の通ったビジネス戦略をもとにした一気通貫デザインは、ビジネスに様々な好影響を与えます。

1.ビジョンが明確になる
これは最も本質的なメリットです。
まず、自社の強み、弱みを理解しながらコンセプトを作り上げるプロセスを経ることによって、短期的で対処療法的なソリューションではなく、企業が本当は何をすべきなのか、それに対して自分はどんな役割を担えるか、を考えられるようになります

2.チームが活性化する
前述のようにビジョンが明確になることで、チーム内の個人のやりたいことやすべきことが具体化され、チーム一丸となってプロジェクトを進めていく上での個々人の使命感が強まり、自ずとやる気も湧いてくると言います。
さらに、ビジョンが明確化されることで、例えば客観的な視点を得る意味で社外から人をアサインさせる際などにも社内の理解を得やすい上、社外へ説明する際にも想いをクリアに表現することができるでしょう。

3.一貫したメッセージを伝えられる
デザインマネジメントの特徴は、企画段階でのコンセプトをエンドユーザーへストレートに届けるため、企画から商品、サービスを世の中に送り出して浸透させるまでを一貫して見ることにあります。
商品は作って終わりではなく、その先のコミュニケーションまでが重要です。
大量生産によって生み出された現代のような物余りの時代においては、デザインが生み出すメッセージに消費者が呼応するかどうかが重要になります。デザインマネジメントはこれを実現するための創造的な計画であると言います。

デザインマネジメントを取り入れづらい日本企業

こんな素晴らしいデザインマネジメントですが、日本企業ではなかなか取り入れられていない実情があります。

デザインマネジメントは部署横断的な幅広い視野とそのマネジメントが求められるため、社内のデザイン部隊が会社の社長や役員の直下など、強い権限を与えられている必要があります。しかし、そのような組織体制となっている会社はまだまだ日本に多くありません。

それはバブル崩壊以降の守り体質に原因があると言います。

「イノベーションを起こす」と声高に叫んでも、リスクを取るようなドラスティックな改革にまで手を伸ばすことができず、結果旧来依然とした、部署の末端にデザイナーを配置するような組織体制が一般化している現状があります。(うちの会社もそう、)

また、デザインマネジメントによって新たな考え方を取り入れるにはこれまでの成功体験やプロセス、顧客などを一旦頭から取り去る「アンラーニング(忘却)」が必要とも書かれています。しかしやはり守り体質の日本企業にとっては過去の顧客や成功プロセスありきで物事を考えてしまい、それもまた新たなイノベーションを妨げる原因となっているのではないかと考えました。

デザインの3要素「ロジック、センス、ラブ」

田子さんによるとデザインの要素として、「ロジック」「センス」「ラブ」があり、この3つの重なり合う部分が大きければ大きいほどデザインの幅が広がると言います。

デザインを成功させるには、ロジカルに考えたシナリオと、経験によって集積された知覚要素を統合させながら、いかに人間の魂に触れ、共鳴するような物語を作っていくか、という姿勢で有り続けることが大事だ。

これだけだとよくわからないので、3つの要素それぞれについて説明します。

○ロジック
これは5W1Hのような「思考ツール」を使って物事を整理する方法を活用しながら話を組み立てるものです。これによって会社や自分が本質的に追い求めているものは何かを客観的に整理します。

ここで重要なのが第三者の数値による判断だけでロジックを組み立ててはいけないと言うこと。ロジックは決して机の上で頭を使っていては成立しないと断言されています。
思い切って外へ出て、様々なものに触れる中で見つけた自分の実感を伴った説明が必要だと田子さんは強く訴えています。

○センス
センスとは、人間の五感によってえた情報を集積、統合して考えるものです。センスは日常生活の中で磨かれます。
センスを鍛えるには五感を研ぎ澄ませながら、未来志向性を持って日常生活の中でアンテナをはる姿勢が必要です。

○ラブ
ここでは人に心地よい状態(「快」の状態)を作ることを指します。
そのためには面白い、楽しい、感動、驚きなどについて、デザイナーが自ら積極的に足を動かして体験することが重要と言います。
仕事ばかりでなく余暇をとる生活の余裕もデザイナーに必要だと書かれていました。

また、「情熱」もラブの重要な要素です。商品を作る一人ひとりが、「このビジネスを成し遂げる」という気概を持ち続けながら、強い気持ちで楽しく仕事に望めるようなマネジメントも必要と言います。

以上の3つのバランスが重要で、本質的なデザインの創出にはこの要素のバランスを時に論理的に、時に情熱的に変化させてマネジメントする必要があると言います。

対話の重要性

デザインマネジメントにおける対話、特にビジネスの初期段階での対話は非常に重要です。田子さんは、重要なビジネス初期のクライアントへのヒヤリングはリモートなどではなく、なるべく実際に会って対面で話し合う機会を持つことにこだわりを持っていると言います。

実際に会うヒヤリングの目的は、クライアントの中で顕在化していない情報を多く引き出すことにあります。そのためには、リアルで会うことによって得られるその場の空気感や相手の温度感を感じ取り、適切なコミュニケーションを図ることが重要です。

第三者の作ったデータなど、見えている情報の整理・再構築は誰にでも可能です。デザインマネジメントにおいては、デザイナーの五感を駆使して、まだ見ぬ情報を引き出して、創造的な問いを生み出すことが重要なのだと感じました。

遊びの重要性

前述の通り、人を心地よくさせる「快」の状態へ導くには、デザイナー自身が人を楽しませたり喜ばせたりすることを普段から実践している必要があります。

そこで重要となるのが遊び上手であることで、そのためのセンスも必要となってきます。

人を「快」の状態へ導くには第三者的なデータに頼っていては不可能です。しかし、遊びの経験がある人にとっては直感的な判断が簡単にできてしまうものでも、経験がない人はどうしてもデータに頼らざるを得なくなってしまうと言います。ここで語られる「経験ある人」と「経験ない人」との差は遊びに限らずビジネスの様々な場面で現れてくる普遍的な問題のように感じました。

また、ここでの遊びとは「自分の関わるビジネスに関連する経験」とも言い換えられると思います。もし自分が関わっている商品が世の中にあるのであれば、まずはそのコアなユーザーに自分がなってみるところから始めてみる必要があるということもここで述べていると感じました。

感想:データに頼らない、自らの実感から湧き出る主張を

本書で繰り返し語られている「第三者的なデータのみに頼るな!」というメッセージが非常に印象に残りました。データを集めるよりも、足を動かして人に会ったり様々な経験を通して、自分の実感を起点として物事を考えることを提唱しています。

自分は特に要件が固まった後のデザインを考える段階ではもっぱら机の上でデザインをしてしまいます。ロゴを作るにしても、競合他社のデザインや自社の過去のラインナップをPCで調べて、それらしくロジックを組み立ててみたりしていました。

過去に読書メモも書きましたが「一分で話せ」でも確かに自分の実体験などを交えて話すことを提唱していました。このように常に自らの足で様々な経験をしていく姿勢はデザインに限らず重要な姿勢と感じました。

また、田子さんはガンジーの言葉を引用して本を締めくくっていました。

"善きことはカタツムリの速度で動く"
(中略)デザインとは社会の解決に向けて無から有へ動く運動である。だがそれは決して容易いことではなく、泥臭く地道な改善の繰り返しでもあるのだ。だからそこには人や社会を巻き込むためのロジックとセンス、諦めずにともに戦い抜くためのラブが大切かつ必要なのだ。

自ら行動し、日常の変化を楽しみ、学び、改善していく姿勢の大切さを本書から学びました。私もロジックやセンスだけでなく「ラブ」のあるデザインを生み出すことを心がけたいと思いました。

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