部屋に露天風呂の意味
ーーどうしよう。これはお泊り?
ーーそれとも日帰り?
ーーなんか急に緊張してきて話せない。
箱根に到着すると、またコンビニに車を停めて、
あきとさんはタバコを吸いに外へ出た。
しばらくして車へ戻ってくると、
「じゃあ、向かうかー。なんか急に静かじゃない?笑」
「え!いや、別に普通ですよ!!もうあきとさんに任せます!」
「駆け落ちじゃあるまいし。笑 では出発〜」
15分ほど車を走らせただろうか。
到着したのは、2階建てくらいの旅館。
ーーまさか予約した?していた?プラン通り?え?
フロントへ行くと、
「さっき電話したものです。●●といいます。」
ーーさっき・・タバコ吸っている時か!てか、あきとさんの苗字●●っていうんだ!!
ロビーは広々としていて、丁寧に手入れがされている様子の中庭が広がっていた。
他のお客さんと顔をあわせることはなく、部屋へ案内された。
「ねぇ、大丈夫?笑 警戒しすぎじゃない?笑」
「え?だって・・・。あきとさんは慣れてるだろうけど、私はそういうの慣れてないの!」
「なんだそれー。笑 家には?連絡した?」
「はい!さっきメールで。友人の家に泊まるって。」
「えっ?泊まるの?」
「えっ?ちがうの?!」
「いや、温泉だけ入って帰るんかなと思ってた」
「えーーーー。私馬鹿じゃん!!」
「泊まりたいの?期待してるの?笑」
「誰だって箱根なんてきたら、そう思うでしょ!!」
「そうか。笑 ここ箱根だもんね。笑 まぁでも安心して!何もしないよ」
「・・はい。」
「ここさ、部屋に温泉ついてて、温泉入りたいんだよ!」
「どうぞ、入ってください!」
「部屋以外にも温泉ついてるみたいだから、れいちゃんも行ってくれば?」
「あきとさんはお部屋のでいいんですか?」
「俺、タトゥー入ってるから、部屋のじゃないとダメなんだよ」
「え!?タトゥー!?そうなんだ!気づかなかった!」
「俺のこと、本当に見てないんだね。笑」
「ピアスがたくさん空いてるな〜とは思ってたよ!肌まで見ないよ!笑」
「そんな必死にならないでよ。笑 じゃあ、入ってくるね」
「(笑いすぎだっての。)・・・はい!」
でも・・温泉入ったら、また化粧しなきゃいけないよな・・
めんどくさいな・・
すると、あきとさんの携帯が鳴った。
ーーあ。どうしよう。持っていく・・?
なるべく見ないように、目線を下に向けながら、部屋の露天風呂へ向かった。
「あきとさーーん!!あきとさん!!!」
「はい!?」
携帯を差し出そうと、扉を開けると、目の前にあきとさんが立っていた。
「・・・・っ!!!!ちょっと!」
「隠してるよ!下は!!!!」
気づけば、携帯はもう鳴っていなくて、
「あ・・・切れた。」とあきとさんの方へ顔を向けると、
上半身と腕にタトゥーと、今まで見えなかったピアスもいくつか見えた。
「ヤクザみたい・・・」
「怖い?」
「怖くないけど・・パンク系のバンドマンって感じ。はい、携帯。」
「パンク系!笑 がんばります。笑 いいよ、置いておいて。後で折り返すから。」
「お風呂・・・私も入る。」
「うん、行ってきな。」
「・・・じゃなくて、ここで、一緒に入る」
「言動が伴ってないよ!笑 入りたいなら、どうぞ。」
一回、脱衣所に戻り、服を脱ぐ。
・・・私、何てことを・・・。
一気に恥ずかしくなってきて、顔も耳も真っ赤。
心臓が耳元で鳴っていると思うくらいドキドキしていた。
髪を上で括り、タオルを縦に身体を隠し、あきとさんの元へ向かう。
あきとさんは、後ろを向いて、景色を見ていた。
「見ないから、入ってきな。一緒に景色みよう」
「・・・うん。」
そっと温泉に入り、あきとさんの横へ行く。
「綺麗だね。まだ18:00くらいなのに、暗くない?東京とは違うね」
「うん。綺麗。暑さも気にならないね。」
「やっと緊張ほぐれてきた?笑 敬語じゃなくなってるね。笑」
「はー!もうそういうこと言うから!また!!やめてください!」
「ごめん、ごめん。笑」
「幸せだよ、私。今すごく。」
「こっちおいで。」
そう言うと、あきとさんは景色を横目に、檜のお風呂に背をもたれ、手を広げていた。
あきとさんに背を向けながら、あきとさんの手の間に身体を任せる。
「俺も、すごく幸せだよ。れいちゃんに出会ってからすごい調子いいもん。」
「私もかも。9月からはまた楽しくなりそうだし、あきとさんがいれば、私頑張れる気がする。」
「・・・」
「あきとさん?」
あきとさんの方へ振り向こうとすると、
「だめ。こっち見ないで。見ちゃダメ。」
「・・・ごめんなさい。」
「いや、俺がごめん。れいちゃんは傷つけたくない。そのままでいてね」
「何、急に。笑 私はずっとこのままだよ!笑 なんか変〜!」
あきとさんと触れ合っている肌と肌の面積がどんどん増えていく。
だんだん身体ものぼせてきて、緊張で熱いのかわからなくなる。
そして、私の背骨に当たる、あきとさんの下半身の感覚が伝わってくる。
「・・はぁ〜〜。」
あきとさんが深く深呼吸をして、
「熱いね、一回出よっか」
「・・・はい。身体、流してください。私、外見てますから。」
「ありがとう」
そう言って、身体を流すと、あきとさんは部屋へ戻った。
私も身体を流し、部屋へ戻る。
ーーどうなっちゃうんだろう、今日。私。
あきとさんは、部屋でメニューを見ていた。
「夕飯、和食だって。何時に持ってきてもらう?」
「何時でも!でもお腹空いたかも!」
「じゃあ、もうお願いしようか!」
「うん!」
あきとさんの言う、「傷つけたくない」の意味。
私は、都合のいい女になって弄ばれることなのかと思ってた。
馬鹿な私。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?