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この1年に読んだインドネシア関連本について感想①(2023年8月~2024年5月)

MBAの勉強で読まなければいけないテキスト、ケースがたくさんあるため、一般書に向ける読書時間は減ってしまいましたが、それでも平均すると月に2~3冊のペースで読んでいます。

今回はその中から、インドネシア関連本について簡単に感想を書いてみます。
簡単にとはいうものの、1つ1つが長めになってしまったので、以下目次から興味のある本だけ読んでいただければ。大量なので2回に分けます。
今回ご紹介する本はすべてキンドルで読めるので、インドネシア在住の方でも気軽に読むことができます。

★の数はわたしの個人的な好みでつけました。★3つ以上は読む価値ありです。★5つは蔵書にして手元に置き何度も読むレベル。滅多につけません。


1.利権聖域(ロロジョングランの歌声) 松村美香(著) キンドル版 ★★★

2012年4月発刊で、第一回城山三郎経済大賞を受賞した作品です。
ロロジョングランといえば、ジョグジャカルタにあるヒンドゥー教の遺跡でプランバナン遺跡という言い方の方が通っているかもしれません。
ボロブドゥール寺院は世界3大仏教遺跡でより有名ですが、わたしはロロジョングランのスケール感、この寺院にまつわる悲しい伝説の方に惹かれます。

本の内容は、日本によるインドネシアの開発支援にまつわる汚職、それと東ティモールの独立時の争乱を背景に、日本人ジャーナリストの殺害をめぐる謎に迫るというサスペンス仕立てになっています。
サスペンス小説好きの人にはお勧めの1冊です。

わたしはサスペンス小説が実はちょっと苦手でして、読んだ後の何とも言えない澱んだ気分を引きずるのがつらいため、その分評価は落ちますが、著者の取材力(というより職業上得た知識の可能性もあります)は素晴らしく、筆力もすばらしいです。

登場人物を通して、開発の明るい面、暗い面を語らせ描写することで、途上国の開発支援はどうなんだろうとか、日本のあるべき役割はなんだろうと考えるきっかけになります。

東ティモール独立は、わたしがジャカルタに赴任した2004年のわずか2年前の出来事で、リアルタイムに近い状態で現地にいた人から生々しい話を聞けたタイミングです。なので、作家の筆力もあって、この小説の内容には結構引きずり込まれました。

2.日本に暮らすムスリム(イスラーム・ジェンダー・スタディーズ)長沢栄治(監修)、嶺崎寛子(編集、著)キンドル版 ★★★

2024年2月に出たばかりの本です。内容はイスラム教がマジョリティーの国から日本にやってきて苦労している人、あるいは日本人が結婚等でムスリムになって苦労した話がルポ仕立てでまとめられている本です。

わたしは日本に根強いイスラムへの不信感、また高齢者を中心とした外国人が身近に暮らすことへの嫌悪感は実態としてどのようなものなのか、それに対しムスリムたちがどのように感じ、また対応しているのか知りたかったので読みました。

内容は期待通りです。わたしの古い情報がアップデートできただけでなく、当事者でしか感じえない様々な問題を知ることができ、今後のインドネシア人との会話に役立ちそうです。

クラスメイトが日本で働きたいというときに、「日本のイスラムへの偏見は結構あって、仕事中の礼拝のことを仕事をさぼっていると思われたり、ヒジャブを外せと言われたりするんだよ」と言ったら、「え?」っといったきり絶句してました。
日本人には分かりにくいかもしれませんが、迫害に近い印象を与えたと思います。あの進歩的な日本がこんな後進的な態度をとるのか、という意外感もあったかもしれません。

この本を読むと、当事者また支援者の努力により、意外に理解が進んできているのが分かりましたし、かといってまだまだだなと思うところもありました。
また、漠然とした知識として同じイスラムといっても様々あり違うとは知っていましたが、それが宗派の問題というより風土に根付いた慣習から来ていることを実例を持って知ることができたのも良かった点です。

日本人はイスラム教に対して原理主義者のイメージを持っていると思いますが、本来のイスラム教は他の宗教に対してとても寛容で、廃教をせまったりしませんし、善行を積む積まないは本人と神の一対一の問題で、他人が強制するものではないという考えです。

3.ムハンマドのことば:ハディース 小杉泰(著) キンドル版 ★★★★★

イスラム教の聖典としてはコーラン(クルアーンともいう)が有名ですが、ハディースもコーランに次ぐ聖典として位置づけられています。
簡単に違いを説明すると、コーランはムハンマドに神(アラー)から啓示があった内容を記載してあり、神の言葉がまとめられています。
一方ハディースは、生前のムハンマドの言行について、その場に居合わせた人の話、居合わせた人から聞いた話がまとめられており、その数は膨大で、かつ信ぴょう性が疑問視されている内容も含まれており、ハディースの内容を検証し解釈するハディース学があるほどです。

その膨大なハディースの中から、著者は価値の高いものを厳選してきて、かつテーマ別に並べてくれており、とても読みやすくまた頭にも入りやすい優れた書物になっています。

ハディースの良いところは、具体的な言行を通じてムハンマドの人となりがわかり、またイスラム教の本質に触れることができるところです。
インドネシアに住んでイスラム教の様々な慣習を見聞きしてきて、あぁあれはこのハディースから来ているんだなとか、無関係に見えていた事象がつながるとか、イスラム教に対する偏見を軽減させるとか、いい事尽くしです。

この本はこれから何度も読み返すだろうなという予感がしています。それほど優れた本だと思います。

イスラム教に対する知識がまったくない状態から読むと、くもをつかむような感覚になるかもしれませんが、リアルな人間像が描写されているので、それなりに面白いと思います。
旧約聖書、新約聖書だと?が多いですが、比較的新しい時代で日本でいえば聖徳太子(今だと厩戸皇子)が活躍した頃の話なのと、聖書のような嘘くさい(クリスチャンの方々すいません)奇蹟譚が少ないんですね。
むしろムハンマドは奇蹟をインチキ臭いと嫌っていた節さえあり、合理主義者だったんだなと思います。

4.海の東南アジア史――港市・女性・外来者 弘末雅士(著) キンドル版 ★★

題名に惹かれて読みましたが、正直申し上げれば関連する別の本をいくつか読むほうがずっといいでしょう。
著者の心意気は買うものの、いかんせんページ数に限界がある文庫本の形態で、地域、時代、項目をあまりに幅広くカバーしようとしたために、内容にまとまりがなく、肝心な部分の記載が浅いです。
ちょっと無理がある設定だったかもしれません。

こういう本なんだと割り切って、ざっくりと外観をつかみたいというニーズには合っているかもしれません。わたしがこの題名の本から期待していた内容には残念ながら合致していませんでした。

まったく読む価値がないわけではなく、知らなかった内容が豊富に含まれていますので★★にしました。わたしも最後まで読みました。

5.かつお節と日本人 宮内泰介(著)、藤林泰(著) キンドル版★★★★

この本はおススメです。この手の極端にニッチに振ったジャンルの本は外れの可能性がある一方、当たりのときは最高におもしろく、今回はあたりでした。
もうプロローグから心をつかまれました。茨城県にビトゥン(北スラウェシ)出身のインドネシア人姉妹がいる。父親のトミーさんはかつて大岩富という日本名を持っていた、祖父は日本人で戦前ビトゥンでかつお節工場を作った人。茨城県の大洗に日系インドネシア人が296人、彼らは北スラウェシ出身で祖先は沖縄出身のカツオ漁師などなど。驚きの連続です。
かつお節が今の形になったのは実は江戸時代中頃とまだ歴史が浅い。鰹節を庶民が使いだしたのは戦後。いやー何も知らなかったですね。しかもかつお節の消費量は年々伸びているというのも意外です。
特にこの本の好きなところは、取材を重ねて人々の言葉をそのまま載せてくれているところです。
歴史、人間模様、世界とのつながり、何もかも素晴らしいです。
著者2名の費やした膨大な時間、移動距離、知識を1000円しない価格で共有してもらえるのですからお得です。

6.蘭印の印象 高見 順(著)復刻版 キンドル★★★

饒舌体というジャンルを作り出した作家かつ詩人でわたしは名前は知っていたものの、著作を読むのは初めてでした。1941年の戦争間近のタイミングで、当時オランダの植民地だったインドネシアに4か月滞在したときの話です。
当時の町並みや人間の印象はどうだったのか知りたくて読みました。内容は期待以上ともいえましたが、とても読みにくい本なのでおススメしにくいです。キンドルのホワイトペーパー端末で読むと字がつぶれているように見えるのと、漢字や仮名使いが旧字体なので、慣れていないと苦痛と思います。
読んでいるうちに多少は慣れてきます。

1941年の印象で今も続くものがあって人間の性(さが)は時代を超えて不変だなと改めて思いました。

7.独立記念日 プラムディア・アナンタ・トゥール(著)キンドル ★

短編小説が3つ入っていて、全体でも100ページありません。
著者は大好きですし、彼の批判精神は認めますが、もう少し違う表現の仕方はなかったのか思うくらい、後味の悪さが残りました。
キンドルの中から削除したいくらい嫌いな内容です。

8.花を運ぶ妹 池澤夏樹(著)キンドル ★

著者のストーリーの構成力、筆力はすばらしいのですが、わたしが単純に好きではない話のため、大変失礼ながら★という評価です。
池澤夏樹ファンの方、本当に申し訳ありません。
バリ島を舞台にした話ですが、他にもタイ、ベトナム、カンボジアなど東南アジアの話が出てきたり日本やパリの話も出てきます。
ストーリーについてここで語るのは止めておきます。

9.鯨人 石川梵(著)キンドル ★★★

フローレス島の東にあるラマレラ島に今も残る伝統的なクジラ漁をしてくらす人々のルポです。
映画にもなったのでご存知の方も多いでしょう。わたしは見るつもりでいたのにいつの間にか上映期間が終わっていて見られませんでした。

何かに取りつかれたかのような著者の執念を感じる作品です。惜しむらくは、文章が踊りすぎている箇所がある点で、★を一つ落としました。
個人的な好みもありますが、ここまで素材がいい場合、淡々と事実を述べる方が迫力がでて奥行きも出てくるものです。この著者のこれまでにかけた時間を考えれば興奮するなというのが無理かもしれませんが、話し手が興奮すると聞き手は興ざめしてしまうのです。

そこが惜しかったです。ただ映像を見せ、現地の人の語りを流せば最高になると思います。そういう意味では映像化が一番向いているのかもしれません。
映画が見たいと思った本です。映画が本を上回ることはないというのがわたしの持論ですが、この本は例外のような気がします。

10.日蘭の華 コルネリア物語 野田のぶ子(著)キンドル版 ★★

オランダ人と日本人の混血児を通じて、オランダ東インド会社時代のバタビア(ジャカルタの旧称)の様子がうかがえる本。オランダ人と日本人の混血がいて、しかも歴史上の記録に残るくらい有名な人物だったというのは驚きです。
ストーリーについては触れません。一番印象に残ったのは、富をめぐる人間の執着や汚らしさです。本当にいつの時代も変わらない。そして当時から腐敗や個人の懐を潤すというのは日常茶飯事だったのだろうということです。

お金は危険なものだとして、お金に触れないように教育するのが日本のスタイルですが、わたしはお金のことを教えた上でさらにお金との付き合い方まで教えることはできないものかと考えてしまいました。
なぜ他人の金を欲しいと思うのか、お金は自分の努力や成功の結果でしかないのになぜ目的にしてしまうのか。
やはりお金に色がなく、分かりやすく定量比較できるところが難しいのかもしれない。しかもそれこそが通貨の重要な機能なので避けることはできず、難しい問題です。

第2回(11~たぶん20くらい)に続く。
もう少しタイトルが増えそうなので、第2回の投稿は8月頃を予定しています。


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