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マエダの感想文

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記事一覧

人と水と調和と超克 『世界の水辺都市への旅』

 芦川智 編『世界の水辺都市への旅』(彰国社・2022年)を読みました。

 欧州の都市にある“広場”についての研究からさらに視野を広げて、都市と水の流れの関係に焦点を当て、都市を眺めること。
 自然の河川はもとより、城を守るお堀のような人工の水の流れにも着目しながら、水と共に人々の生活を包む世界の都市(著者たちの研究対象の関係で欧州が多く、一部中東・アジアという感じ)の水との関わり方、利用の仕方

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何がどうダメなのか 優里人気楽曲を読む

 夫婦揃って“優里”が苦手なんです。なぜなんでしょうか。
 ここで超ド級の「知らんがな。」が飛んでくることが考えられるわけですが、ちゃんとこの「苦手」な感覚に向き合っておかないのは、それはそれで据わりが悪いのでちょっと考えているところです。

『ピーターパン』 夢見る欺瞞的時空間

 彼のメジャーデビュー曲です。
 「バカな夢見てないで現実見ろよ。」と言ってくれる人がいないと成立しない歌詞の世界な

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ゲーム・物語・体験とその他について 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

 クリアしました(2023.12.30)。

ストーリー概要

 前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下『BotW』)の正統続編として2023年5月に発売された本作(以下『TotK』)は、オープンワールドゲームとして地上と上空、地底の3つを舞台に、物語冒頭で行方不明になったゼルダ姫を探すべく救国の剣士・リンクが冒険を繰り広げます。
 物語は、シリーズを通して大ボスとして君臨するガノ

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2023年に読んだ本について

 本をたくさん読んでいるような顔をしながら実際には全然読んでいなくて、本や読書についての話題になるとすごく表面的でペラペラな話しかできないくせに、そんなことないんですよ? みたいな顔をしています。そういうわけで(どういうわけで)2023年は80冊くらい読みました。5冊くらい読みたいな〜と思いながらそのうちの2冊を読了したら、翌日読みたい本が9冊になっていた、とかそういうことを繰り返していました。

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悲哀と生きて抗う 『ゴジラ -1.0』

 観ました。(23.11.17)

災害、あるいは哀しみとしてのゴジラ

 自分が小学生の頃に放映されていたシリーズ内でのゴジラといえば、“怪獣プロレスのスター選手”でした。“核兵器実験の結果生まれてしまった怪獣”という背景を背負ってはいるのですが、どうにもその色が薄まりつつあった時代のゴジラを観ていたように思います。仄暗かったりドス黒かったりする、ヘヴィな何かを背負った悲哀のようなものではなく、

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“人生全肯定”の潮流とそれに対する所感 優里『ビリミリオン』

 人気シンガーソングライター・優里の楽曲『ビリミリオン』を聴く機会がありました。端的に、率直に、「歌詞こっわ……。」と感じました。

 楽曲/歌唱/表現物において、人生と選択の無条件かつ全面的な肯定をこれ見よがしに提示するのは、どうしても虚無感が付きまとうという所感をもっています。そんなことをいちいち言わなくても、自分の人生と選択に無限の価値があるのはある意味当然のことです。人類が有史以来、血と鉄

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ハク。「自由のショート」について

 カーラジオから流れてきた曲が気になったので、iPhoneのミュージック認識機能を使って調べてみると、どうやら“ハク。”というバンドの「自由のショート」なる曲だという。

 軽やかに響くミュートギターのリフが心地よいイントロから、メロディーとヴォーカルに寄り添うリズム隊の優しさを感じる、非常に良い楽曲(というかバンド)だなあと思うのでした。
 そうして何度か聴いているうちに、ここ最近の若いバンドに

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オープンワールドの新地平 「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」

 クリアしました。

 「ゼルダの伝説」シリーズは、すでに歴史の樹形図があったり無双シリーズが出せたりするくらいに継続的で伝統的なものになっており、“救国の剣士・リンクとゼルダ姫が、巨悪・ガノンを打ち倒すストーリー”という定番のモチーフが基本になっています。この対立をいろいろな時代のいろいろなリンクとゼルダでやるわけです。時代や場所も作品によってバラバラです。リンクとゼルダには連続性がなく、同一人

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「忘れられない過去」ではなく 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』

 この世で最も黒く、最も邪悪な絵画をめぐる奇妙なストーリー。
 ※物語の核心や結末に触れている可能性があります。何が核心で何が結末かは分かりませんが。

 人を本に変え、その記憶や思考を読んだり改変したりできる特殊能力「ヘブンズドアー」を駆使する人気漫画家・岸辺露伴が、好奇心から窮地に陥るのはTVシリーズと同様です。しかし、怪奇現象とそれによって引き起こされるドタバタというよりかは、”過去と現在”

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“国語力”議論の空疎 『映画を早送りで観る人たち』

 稲田豊史『映画を早送りで観る人たち』(2022年・光文社新書)
 昨年話題になった本書は、「映像作品を早送りしたり10秒スキップで見るとは嘆かわしい」みたいな話ではないですし、単純な世代間論争や特定世代への印象批判でもありません。その発生機序や背景に焦点し、今後のメディア論展望の見通しをもたせるような内容であると読みました。
 そして、この話題は世代的な話というよりも、時代的、社会的な話になりま

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人間、この愛おしい多面体 『六人の嘘つきな大学生』

 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(2021年・角川書店)
 就職活動によって、あるいは社会生活全般において垣間見える”多面体としての人間”について。あるいは、それでもなお人を愛したり想ったりすることについて。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/

 物語の舞台は新興IT企業の新卒採用試験。「最終選考は、ここまで勝ち残った6人でのグル

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生き苦しき生の肯定 『正欲』

 朝井リョウ『正欲』(新潮社・2021年)
 映画化も発表されてしばらく経ったタイミングで、前々から読もうと思っていた作品をようやく読み終えられました。作者紹介で「お腹が弱い」とはもう書かれなくなっていたのを発見しました。強くなったのでしょうか。

 作品全編を通して貫かれたテーマは今流行りの”多様性”です。学校に行かないことを選んだ少年とその両親。水そのものに性的興奮を感じる男女。異性からの視線

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「継承」の先の物語 『シン・仮面ライダー』

 伝統的な特撮にたくさん触れてきたような顔をしてWebの海を漂っていますが、私の特撮遍歴というのはまあ薄っぺらなので、『シン・仮面ライダー』を鑑賞して何を言えるかについては少々自信がありません。ちゃんと(ってなんだ)オリジナルを含めた歴代の仮面ライダーを通過してきた人たちにとってはよく見えてよく分かることも、私の目には見えてなかったり分からなかったりするのだろうなと思いますが、やはり何がしかを書き

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「独りじゃない」ことの証明 『かがみの孤城』

 辻村深月原作のアニメーション映画「かがみの孤城」を観ました。原作付き映像化作品としても、一本の作品としても、本当に素晴らしい映画だったと思います。このような映画にリアルタイムで触れられたことを嬉しく思います。

 原作は2017年(連載開始は2013年)、映画は2022年末に公開ですので、今更ネタバレに気を遣うこともなかろうと思っています。その辺りはご容赦ください。ご容赦しろ。

 鑑賞後にふと

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